ニューイヤー駅伝に犬が乱入した事件について
事件の詳細
今年1月1日、記念すべき第60回「ニューイヤー駅伝」が開催されましたが、その第2区を走る沿道の観戦する人の中から、突然黒い小型犬が飛び出してきて、選手のひとりが転倒するという事件が起こりました。
転倒した選手は優勝候補のチームのひとつである、コニカミノルタのポール・クイラ選手で、このアクシデントで10位にまで順位が下がることに。(結果的にはそのあとのチームの活躍でコニカミノルタは準優勝だった)
その時の様子は、こちらのユーチューブでも公開されています。
一瞬のことでよくわかりませんが、飼い主は子供を抱っこした年配の男性で何かの拍子にうっかりリードを離してしまったらしく、ポール・クイラ選手は犬をよけたものの、リードに足をひっかけて、転倒してしまったとのことです。
左手から流血し、膝も打撲、ものすごい痛みだったそうです。
もともと2区を2位集団で走っていた時のアクシデントで、このあとの追い込みで準優勝したくらいなので、このアクシデントがなかったら優勝していたかもしれないとは誰もが思うことですが、コノカミノルタの磯松大輔監督は、
「たらればをいうことはできない、それも含めて勝負」
と淡々と受け入れたそうです。
飼い主が書類送検される事態に
2月23日の毎日新聞配信のニュースによると、この事件について群馬県高崎署は飼い主の男性を、市動物愛護条例(係留義務)違反容疑で書類送検したとのことです。
捜査関係者らによると、1月1日午前10時頃、高崎市大類町の2区約3.6キロ地点で男性が飼い犬の小型犬とともに応援している最中に誤って犬が飛び出してしまい、それにポール・クイラ選手がつまずき転倒したことから、犬を常に係留する義務を怠ったというものだそうです。
21秒差で2位となったコニカミノルタチームや、転倒してけがをしたポール・クイラ選手がが賠償訴訟を起こしたわけではありません。
理由はこの事件を巡って、ネット上でも犬の飼い主に対する批判が多く取り上げられたこと、また、ポール・クイラ選手をはじめ、いかに駅伝のマラソン選手たちがこの大会に人生や、夢をかけて挑んでいるかという事への、マラソンファンの怒りの声も多く、県にも警備体制や応援マナーの苦情がよせられた事が、飼い主の書類送検の理由と思われます。
とくに危険な区間でもあった
ニューイヤー駅伝の区間のうち、この事件のあった2区はもっとも距離が短いが唯一外国人選手の投入を許されている区間です。
8.3kmという短距離であることもあわせて、スピードを武器とする選手が距離を縮めるべく、超スピードで走っているので、そこに犬であれ人であれ飛び出すということは、一歩間違えればただの転倒アクシデントではすまされない可能性もあったということです。
今回は転倒した選手一人が軽症を負っただけでしたが、飛び出した犬も怪我したかもしれないし、つまずいた選手に他の選手がぶつかったり、また転倒したりして大事になっていてもおかしくない地区であったことも考えると、確かに主催者側の警備体制も甘かったような気がします。
駅伝ファンにしてみれば
マラソンに詳しい方や応援している方からしてみれば、選手たちの日ごろの努力や、チームのつながり、そして今回の事件で転倒したポール・クイラ選手のニューイヤー駅伝にかける意気込みや実力をわかっているだけに、アクシデントではすまされない、納得できないことだったと思います。
大会前のインタビューでは、クイラ選手が一年間スピードとスタミナの両方をめざして練習してきたことや、全日本実業団選手権では怪我で棄権だったので、このニューイヤー駅伝にかけていたことを語っていたそうです。本当に気の毒なことですね。
実業団の駅伝では選手たちは企業全員の思いを背負って走る、一生ものの大会であることも事実です。
観戦する人々はそれぞれ
私も以前東京マラソンのコース近くに住んでいた頃、息子がまだ小学生でぶらぶらと観戦にいったのを覚えていますが、観戦にくる人々は本当にそれぞれであり、マラソンファンであっても応援する方はお祭り気分でも仕方ないと思います。
それでも、大会の最中、コースの沿道近くは『押すな押すな』の人混みであることは想像がつきます。
ましてや、ニューイヤー駅伝はオリンピックを目指す選手たちの真剣勝負の大会ですから応援のテンションも高く、熱気もすごいことでしょう。
そんな中にしかもコースの沿道の前列まで、ちいさな子どもと小型犬をつれて見物しに行ってしまった男性は、やはりかなり不注意だったと言わざるを得ません。
そんな状態のなかで、抱っこした子どもとリードの先の小型犬と両方の安全を守れるとは思えません。
今回の事故も、観戦している人々の波にちょっとよろけそうになったことが原因だとしたら、子どもを抱きかかえている状態ではリードをしっかり持っていられなかったのではないか?とも考えられます。
選手も犬もお子さんも、大けがするようなことにならなくて本当に良かったと思いますが、この事件をきっかけにやはり主催者側も警備体制を強化していくしかないのかなと思います。
もちろん、犬を飼う側、また幼い子どもを持つ親が、自分の楽しみのために子どもや犬を考えなしに付き合わせてしまうのが、一番反省すべき点ではありますね。
日本のマラソンコースの特徴とペット事情
私は特にマラソンファンではありませんので勝手な意見ですが、昔からテレビでマラソンを見ていて感じていたのは、『どうしてこんな狭い道路をコースに入れるんだろう・・・』ということです。
山道や広い国道も入っていますが日本のマラソンコースはやはり幅も狭い場所が多くて、観戦する人々が至近距離でわーわー騒いでいる場所さえあるようです。
市民マラソンなど一般の人々の参加するお祭り要素のあるマラソンならともかく、箱根駅伝やニューイヤー駅伝のように世界に通用するレベルの選手は自転車と同じスピードと言われています。
選手たちにとっても観戦するファンにとっても安全を確保できるように距離をとる、場所によっては柵を立てるなど対策を考えてほしいと思います。
また、日本のペット事情も間違っていると思います。
狭い住宅で、散歩の環境が悪くても大丈夫、と間違った情報で売られてしまう小型犬、お年寄りでも散歩がほとんどいらないとこれもまた間違った売られ方をされている小型犬、年配の方が幼児と小型犬をつれて歩いている姿は結構多くみられます。
花火大会やお祭りの縁日などでも、幼児と犬の両方つれている人をよく見かけますが、そんな場所で犬が楽しんでいるとはどうしても思えません。
今回の事件の書類送検は事件から1か月の間の反響の大きさで決まったようですが、飼い主の男性の係留義務という点だけがこの事件の問題ではないように思います。
世間の批判的意見や県の警備体制への不満に対して、〝書類送検した〟という事実で解決しようとするのではなく、マラソンコースの警備を見直すとともに、観戦にあたっての注意事項など大会が開催される度にその都度しつこく通達していくしかないように思います。
まとめ
そもそも、犬は走っているものをみれば走ってしまうのが普通です。
散歩のときでも、ランニングの人や、子どもの急な走りには反応して飛びついたり追いかけたりしようとするのが犬の当たり前の行動です。
そのために、訓練して衝動をおさえてストレスをためるよりも、なるべくそういう目に合わないように、のんびり人のいない時間、車や自転車の少ない散歩道があればよいのですが、残念ながらほとんどの犬がストレスを強いられて暮らしています。
人間側も本来の犬の当たり前の行動を忘れてしまって、犬らしい行動を総じて問題行動と思っている傾向が、いまの日本のペット事情ではないでしょうか?
今回の事件とは比べるべきものではありませんが、大勢の人が走っていると、その中にはいって走ってしまうのが犬だということを教えてくれる事件が海外でも起こっていました。
アメリカアラバマ州のハーフマラソン
今年1月、米アラバマ州のエルクモンドで暮らす、2歳のフォックスハウンドのルディヴァインちゃんは用をたすために庭にだしてもらったところ、ちょうど近所で行われていたハーフマラソンのランナーと一緒に走り出してしまったのだそうです。
その後、時々道草をしつつ、他のランナーについて走り続け、なんと7位でゴールインしたのだそうです。
飼い主の女性は愛犬がいなくなって慌てていたところ、ハーフマラソンのボランティアスタッフをしていた友人が、走っているルディヴァインちゃんの写真をメールで送ってくれて驚いたそうです。
マラソンの邪魔をしていたのではないかと心配した飼い主さんでしたが、かけつけてみると誰の妨害もすることなくおとなしく走っていただけで21キロを完走し、7位のメダルを授与されたのですから、さぞ驚いたことでしょう。
その時の様子は、こちらで公開されています。
Dog disappears from home to join a half-marathon and comes in SEVENTH | Daily Mail Online
アメリカメリーランド州のハーフマラソン
少し前の出来事ですが、2011年の6月、米メリーランド州のハワード郡で行われたハーフマラソンでは、自宅の前がマラソンコースになっていた”ドーザー”という名前のゴールデンレトリバーとプードルのミックス犬が自宅前を走るランナーを見て、柵を飛び越え、ランナーと一緒にそのままコースを走り続けるということがあったそうです。
コースに沿ってドーザーの家からゴールまで13キロあまりを完走しましたが、途中の給水地点ではちゃんと水を飲んで休息していたそうです。
他のランナーも犬が走っていることは解っていたようですが、誰も止める人もいなかったようです。
飼い主はドウザーがいなくなって大慌てで探し回っていたそうですが、ゴールして疲れたドーザーはとぼとぼ歩いて翌日泥だらけの足で帰ってきたのだそうです。
会場ではこの犬のことが不明でしたが、飼い主がマラソンにでていた犬の噂を聞き、主催者に連絡をしたことで身元がわかり、なんと後日主催者が完走者に与えられるメダルをもってドーザーの自宅を訪問したのだそうです。
このマラソン大会がチャリティ事業だったことから、飼い主はドーザーの寄付金サイトを立ち上げたところ話題を呼び、たくさんの寄付金が集められているそうです。
この寄付金は、最終的にはメリーランド州のグリーンバウムがんセンターに寄付されるそうです。
マラソンの参加者からは「最高のランニングパートナーだった」「一緒に走ってくれてありがとう、また来年も走りましょう」などの声が寄せられたのだそうです。
この海外の例はもちろん、ニューイヤー駅伝とは目的も参加者も見物人も違うので比べられることではありませんが、こんな風に余裕のある広いコースで、犬も普段から狭いサークルなどに閉じ込められていない自由度の高い犬ならば、マラソンにまちがって乱入してしまっても、人に危害を加えることもなく、邪魔もせず、人と一緒にただ走っていたかっただけだということがわかる事件だと思います。
犬は本来、そういう愛すべき人間のパートナーなのですから。
日本はいま、犬にとって決して暮らしやすい環境とは言えません。
「飼いやすい犬」だとか「散歩がいらない犬」だと言って、犬をどんどん生体販売の犠牲にして、サークルにとじこめ、短いリードでおしっこも自由にさせず、留守番なんてしたくないのに一人暮らしで長時間家を留守にする人にも、なんの注意や説明もせずに犬を売る。
年頭の残念なニュースをきっかけに、犬と暮らす人もそうでない人も、お互いに思いやりと公平な見解をもって暮らしていける国になってほしいと心から思います。