私は動物病院で動物看護師として働いており、家では猫を飼っています。
動物種や年齢、性別、体質などによってなりやすい病気やそのリスクの高さが異なるため、早期発見も大事ですが適切な治療や予防をおこなうこともとても重要です。
しかし中には様子を見過ぎて悪化してしまったり、自己判断で勝手に投薬や療法食をやめてしまうケースが多いです。
今回は、病気について理解力がなく自分勝手な飼い主さんが様子を見過ぎたせいで、子宮蓄膿症と膀胱結石を発症し手術をすることとなったヨークシャテリアについて書きたいと思います。
病気やリスクについて理解してくれない飼い主
私が働いている動物病院の患者さんに、中高齢のヨークシャーテリアがいました。
雌で避妊手術をしていなかったため、前から気にかけていた犬でもありました。
犬種などにもよりますが、出産歴がない高齢の雌の犬は子宮蓄膿症になりやすく、5才以上からリスクが高くなるともいわれています。
そのため飼い主さんには獣医師とともに子宮蓄膿症のリスクについて説明をし、早めに避妊手術をするように伝えてはいました。
「そうなんですね…わかりました、考えてみます」
その時の飼い主さんは理解してくれたかと思いましたが、毎回「考えてみます」との返事のみで、ただ時間だけが過ぎていきました。
そしてその後、一向に避妊手術を受ける様子がありませんでした。
それでも結局は飼い主さん次第なので、ヨークシャーテリアが子宮蓄膿症にならないことを願うことしかできませんでした。
放置し過ぎた結果、子宮蓄膿症を発症
しかし残念ながらこちらが抱いていた不安が的中し、そのヨークシャーテリアがある日食欲不振、熱の症状で来院してきました。
検査をしたところ、子宮蓄膿症との診断。血液検査では炎症反応が高く、貧血もみられました。
このままでは子宮内に溜まっている膿によって破裂してしまい腹膜炎を起こし、命を落としてしまう危険性があります。
そのため、獣医師は検査結果も含めて手術の必要性を飼い主さんに説明しました。
「え…でも数日前までご飯も食べて元気だったんですよ?」
突然の事で飼い主さんは一瞬動揺しているようにもみられましたが、その後は普段と変わらず平然とした態度でした。
子宮蓄膿症は個体差もありますが、急に体調が悪くなる場合も。
治療方法は手術になってしまいますが、具合が悪い中でおこなうため、犬の体に大きなダメージを与えてしまいます。
あれだけ前から説明したのにも関わらず、結局子宮蓄膿症を引き起こしてしまい悲しい気持ちになりました。
獣医師の説明後、状況をようやく理解できた飼い主さんの同意を得て、ヨークシャーテリアの状態をみながら子宮蓄膿症の手術が行われました。
幸い術後の状態も良く、病院側としては一安心できました。
膀胱結石のため、再び全身麻酔下による手術へ
しかしこのヨークシャーテリアは子宮の病気だけではなく、膀胱結石も抱えていたため、まだ不安要素が残っていました。
以前から血尿の症状で何度か来院したことがあり、膀胱内に結石があることはわかっていました。
子宮蓄膿症も含め、膀胱結石の手術についても、当時からその必要性について飼い主さんにことあるごとに伝えていました。
「でも結構なお金かかるんだよね…?まあオシッコ出てるし、ひとまず考えてみます。」
膀胱結石の件も何度も説明をしましたが「考えてみます」「様子をみてみます」とのことで、話の進展は見られませんでした。
しかし子宮蓄膿症の手術をしてから2〜3ヶ月後、大量の血尿と尿が出にくいとの症状で再びこのヨークシャーテリアは来院してきました。
改めてレントゲン検査をおこなったところ、膀胱内に大きな結石が数個あることがわかりました。
このままでは結石によって尿が完全に詰まって出なくなり、命に関わる危険性が高いため、獣医師は飼い主さんに手術の必要性を説明しました。
「そうですか……わかりました」
飼い主さんはようやく事の重大さに気づいてくれたようで、膀胱結石を取り除く手術をおこなうこととなりました。
その結果、膀胱内に大きな結石が4〜5個、小さな結石も複数個ありました。
大小含めてたくさんの結石が長い間犬の体内にあったかと思うと胸が痛くなり、子宮蓄膿症と同様にもっと早めに手術をしてほしかったという気持ちがぬぐえませんでした。
自己判断で勝手に食事内容を変えられる始末
膀胱結石を発症した犬は再発しやすいため、予防として療法食を食べさせる必要があります。
そのため飼い主さんに療法食の説明をおこないましたが、残念なことに毎回さえない反応でした。
「このご飯美味しくないのか、あまり食べないのよね。だからイモやお肉とかを混ぜたりしているわ」
確かに療法食は市販のフードと比べると、味が薄かったりして犬の食べ進め具合が悪い場合があります。
しかし、お湯でふやかして風味を出すなどの工夫をすることで食べさせることができます。
一方、自己判断で勝手に療法食以外のものを与えてしまうことは、尿検査をおこなったとしても正確な結果が出せないため危険です。
さらに、一旦違うものを食べさせてしまうと、今後同じ療法食を食べさせていいのか、という問題にも。
また膀胱結石を再発するリスクを高めてしまう危険性もあるため、再度飼い主さんに食事指導をおこないました。
「いや〜でも食べが悪いのよ、可哀想で好きなものあげたくてね」
その後何回か飼い主さんに食事指導をおこないましたが、療法食の必要性をあまり理解してくれず、結局のところは好きなものを中心に与えているとのこと。
飼い主さんのその身勝手な行動にこちらはまた唖然とし、悲しい気持ちになりました。
まとめ
今回は子宮蓄膿症と膀胱結石を抱えたヨークシャーテリアについてのお話でした。
どちらも適切な治療や予防が必要であり、放置してしまうと犬の体に大きなダメージをあたえてしまい、最悪の場合は命を落としてしまうこともあります。
また様子を見過ぎて状態が悪い中でおこなった時の方が医療費が高額になるため、愛犬のためにも早期発見とともに早期治療がとても大事になってきます。
また自己判断で勝手に投薬をやめたり、今回のように食事内容を勝手に変えたりすることは、病気の再発リスクを高めてしまいます。
飼い主さんだけでは療法食を与えるのが難しそうであれば、治療プランや方法を一緒に考えながら対応できるかと思います。
誰にも相談せずに自己判断で決めつけていないか、勝手な行動をしていないか、今回のお話を機に改めて見つめ直していただけたらと思います。