私は動物病院で動物看護師として働いています。
体質や遺伝なども関わりますが、犬種的に「シュナウザーは『尿石症』になりやすい」傾向があります。
結石ができてしまうことで頻尿や血尿のほか、尿道が詰まってオシッコが出なくなってしまう危険性があります。
またこの病気は再発しやすいため、療法食にて再発防止する必要があります。
しかし中には勝手に療法食をやめて、再発してしまったケースが少なくありません。
今回は、実際に飼い主の身勝手な行動により、重度の尿石症になってしまったシュナウザーについてお話ししたいと思います。
尿石症のシュナウザー
私が働いている動物病院にある日、初診のシュナウザーが来院してきました。
「他の動物病院で尿石症といわれたから、おたくの病院でも検査してほしいの!」
飼い主さんのお話では、通院していた動物病院が廃業になり、今後は当院にかかりたいとのことでした。
またその時に検査していた結果用紙やコピーされたカルテを持ってきていたため、一通り目を通しました。
『尿検査では尿phが高くアルカリ性であり、レントゲン検査では膀胱内に結石が複数個ある』と書いてありました。
また『手術の必要性は高いが飼い主の意向により希望せず、療法食での経過観察』とも記載されていたのです。
療法食にての治療や予防できる場合もあるため、獣医師とともに飼い主さんに現在の食事内容や服用している薬の有無について聞いてみました。
「専用のフードを勧められたんだけど、食べが悪くて可哀想で与えてないわ!
薬もないし特に何にもしてないわね、そうそう!この間誕生日パーティを開いてステーキやケーキを食べさせたわ!」
自己判断で勝手に療法食をやめており、かつ食事内容も好き放題に与えている事実を知り、驚きを隠せませんでした。
また尿石症は、場合によっては尿道に詰まってしまうと命を落とす危険性がある病気です。
愛犬に命の危険が迫っているかもしれないのに、その危機感すら全くない飼い主さんに言葉を失いました。
「可哀想」と必要性がある手術を拒む
飼い主さんのお話から、このシュナウザーは特に治療もしていないようだったので、再度レントゲン検査をおこないました。
その結果、やはり膀胱内に結石がみられましたが、小さな結石も含めその数は多数あるだろうと診断。
このままでは尿道に詰まる危険性が高く、なるべく早く手術する必要性がありました。
獣医師とともに今回の検査結果と、膀胱内に大小合わせて多数の結石がみられることから、手術する必要性が高いと飼い主さんに説明しました。
「そんなに状態悪いのですか?ごはんもいっぱい食べて元気なのに、それに手術ってお腹開けるんでしょう?可哀想すぎて先生嫌だわ!」
こちらの説明を聞いて、さすがに事の重大さに気付いてくれたかと思いましたが、その思いも虚しく飼い主さんは「可哀想!」の一点張りで変わらず。
結局、シュナウザーのための手術の同意を得ることができませんでした。
確かに手術することは体に大きなダメージをあたえてしまいます。
しかし今、これだけ膀胱内に結石があれば痛みや排尿が辛いはずなのに、それに全く気づいていない飼い主さんに悲しい気持ちになりました。
そのため療法食のサンプルを渡し、『オヤツなどを与えず、療法食のみの食事にするように』とお伝えしました。
残念ですが、その時はこのシュナウザーの状態が今後悪化しないように願うことしかできませんでした。
容態が急変し緊急手術することに
しかしその数ヶ月後、状態の悪化によりこのシュナウザーが来院してきました。
「先生!オシッコが真っ赤なのよ!少ししか出てなくてとても辛そうだわ!」
飼い主さんは泣きながら言い、かなり動揺していました。
持ってきていた尿を見るとかなり色が真っ赤で、炎症による粘膜の塊もみられました。
完全に閉塞を起こしているわけではありませんでしたが、内科療法のみでは不可能。
このまま放置することも危険性が高い状態と判断し、獣医師は改めて状態の悪さと危険性について飼い主さんに説明し、手術する必要性があることを伝えました。
「でもこの辛さから解放されるのなら…先生お願いします」
ようやく事の重大さに気づいてくれたようで、飼い主さんから手術の同意をやっと得ることができ、シュナウザーに膀胱結石摘出手術をおこなうことができました。
実際に摘出した結石の数は、大小合わせて20個以上!
正直、こんなにたくさんの結石が、あのシュナウザーの膀胱にあったのかと思うと胸が痛くなりました。
まとめ
手術後、シュナウザーは症状が落ち着き、なんとか元気を取り戻しました。
しかしその後、飼い主さんが療法食を自己判断で勝手にやめてしまい、好きなものをたくさんあげてしまったようです。
その結果、再び結石ができてしまい、再度手術をおこなわなければならなくなりました。
尿石症は、尿中に含まれているミネラル成分により結晶・結石化してしまう病気です。
年齢や体質、犬種などにもよりますが、食事内容が原因のひとつとして大きくあげられています。
つまりこの病気は犬の生活環境によって再発しやすいので、その犬に合った療法食を食べさせるなどの食事改善や生活環境の見直しをする必要があります。
それゆえに、今回のように飼い主の自己判断で勝手な行動をしてしまうと、当然再発してしまうことになります。
その結果、また手術をしなければならず、その度に愛犬の身体に大きなダメージを与えてしまうことに。
しかも体だけではなく、苦痛などの精神的ストレスもあたえてしまいますので、良いことは一つもありません。
飼い主の身勝手な自己判断による行動が、愛犬を逆に苦しめ、命の危険に晒す可能性があります。
くれぐれも獣医師に指示されたことは、必ず守っていただきたいです。
今回のお話を機に、愛犬のためにしている行動について、真の意味で愛犬のためになっているかどうか、今一度見直してほしいと思います。