私は動物看護師として動物病院に働いています。
毎日色んな犬が来院してきますが、予防関連のほか、病気や怪我など様々です。
また寿命が伸びたことで認知症によるトラブルも多くみられるようになり、相談される飼い主さんも少なくありません。
中には安楽死を選択されるケースもあります。
今回は実際に骨折による大怪我を乗り越えたのちに認知症と寝たきり状態になり、残念ながら安楽死をおこなった高齢の柴犬についてお話ししたいと思います。
高齢の柴犬
以前、私が働いている動物病院に10才以上の高齢の柴犬が通っていました。
その柴犬は年齢が高齢でありながらも、今まで特に大きな病気がなく、ワクチン等の予防関連で何度か来院していました。
特有の警戒心が強いところはありましたが、比較的大人しく可愛い柴犬でした。
元々その柴犬は女性が飼っていましたが、実家に連れて戻ることとなりました。
ご実家が遠いこともあり、今後の来院は難しいとのことで、私も含めてスタッフ全員が悲しい気持ちになりましたが、それでもきっとこの先も元気に長生きしてくれるのだろうと思っていました。
突然の大腿骨骨折事故
高齢の柴犬は女性の飼い主さんの都合でご実家に引っ越しされ、その数ヶ月後に変わり果てた姿で来院してきたのです。
「他の動物病院で診てもらったら、足が折れているといわれたの…」
その柴犬は以前のようなエネルギッシュな姿ではなく、老けた姿で右後肢を包帯でグルグル巻きにされていました。
また女性の飼い主さんも元々ニコニコと明るい方でしたが、疲れ果てたような顔をしており、その変わりように驚きを隠せませんでした。
改めてレントゲン検査をしてみたところ、右大腿部の骨が折れていました。
犬にも人間同様骨折事故はありますが、骨が太い大腿骨が折れる場合は交通事故以外で考えられにくいため、獣医師が女性の飼い主さんに事故当時について改めて聞いてみました。
「夜中、突然大きな声で鳴いていて、気づいたら……。それに最近徘徊するようになってしまい、父との折り合いも悪くて…。」
お話によると、夜中に事故が発生したようですが、柴犬は円形サークルのゲージ内にいた、とのことでした。
年齢も高齢なことも含めて考えられる原因としては、ゲージ柵に足が挟まってしまい、パニックになって暴れた衝撃で折れてしまったのではないか、ということでした。
また飼い主さんのお父様との相性もあまり良くなかったとの言葉が心に引っかかりました。
とはいえあまりプライベートの問題に立ち入るわけにもいかず、ただ虐待と呼ばれるような行為をされていないように願うことしかできませんでした。
柴犬はただ応急処置として包帯を巻かれているだけだったため、獣医師が女性の飼い主さんに状況の説明をおこない、ご了承を得た上で外科的固定による手術をおこないました。
認知症が進行し…手に負えず安楽死
柴犬は大きな怪我をしたのにもかかわらず手術後の経過は良く、いつもの元気さを取り戻して一安心しましたが、その数ヶ月後に再び来院してきました。
「何度も考えたけど、もう無理、先生この子を安楽死させてください…」
明らかに女性の飼い主さんの様子が気鬱な表情をしており、柴犬はもはや自力では立つ事が不可能な寝たきり状態になっていました。また反応も薄く、意識がぼんやりしていました。
具体的にお話を伺うと、段々と認知症の進行が進み、徘徊や夜泣きがひどくなり家族と揉めているとの事でした。
獣医師は薬である程度コントロールさせてあげる方法を説明しましたが、女性の飼い主さんは変わらず「もう限界…」と辛そうな表情でつぶやいていました。
そのため再度確認をしたうえでご了承のもと、柴犬にはその日のうちに安楽死をおこないました。
天国へ旅立った愛犬を抱きしめながら大粒の涙を流す女性の飼い主さんの姿やその表情が、今でもしっかりと記憶に焼き付いています。
まとめ
今回は、事故と思われることが原因の骨折と認知症によるトラブル、安楽死についてお話しさせていただきました。
私たち人間と同様に、犬も年々寿命が伸びたことで、認知症によるトラブルが増えてきました。
犬種や生活環境など個体差がありますが、徘徊や夜泣きのほか、性格が攻撃的になるなど様々な行動の変化や症状がみられます。
また高齢になることで寝たきり状態となり、食事や排泄のサポート、寝返りなどの介護が必要になってきます。
今回は飼い主さんのご了承のうえ安楽死処置をおこないましたが、安楽死について様々な意見があり、大きな課題でもあります。
今だけではなく将来ついて、病気になった際の治療や介護のサポートができるかどうか、しっかり考えなくてはいけません。
お金さえあればペットショップ等で簡単に入手することができるため、安易な気持ちで飼ったケースも少なくありません。
今回の記事を読んでいただくことをきっかけとして、改めて愛犬の将来について見つめなおしてほしいと思います。