私は今、動物病院で動物看護師として働いています。
昔と比べて避妊手術を受けている犬が増えていますが、中には受けていない犬もいます。
避妊手術を受けていないと、子宮に膿が溜まる「子宮蓄膿症」になる恐れがあります。
特に出産歴が一度もない中高齢犬は子宮蓄膿症になりやすい傾向があります。
今回は、事前に何度も説明をしたにも関わらず、結局子宮蓄膿症と子宮筋腫で命の危機にさらされてしまったコーギーと、その飼い主さんについて書きたいと思います。
未避妊のコーギー
私が働いている動物病院に、年齢が12才のコーギーが受診していました。
初診で来院した時から体重が15kg越えと肥満体型であり、その影響で腰を痛めて通院していました。
またそのコーギーは雌でありながらも避妊手術を受けていませんでした。
そのため獣医師とともに、減量の指示とあわせて、愛犬に早めに避妊手術を受けさせるように説明をしました。
「そうなんですね、分かりました。考えてみます。」
その時は納得したような飼い主さんの様子がみられたため、近々避妊手術を受けさせるだろうと思っていました。
避妊手術に対して積極的ではない飼い主
そのコーギーはその後、ワクチン接種などの予防関連で何度か来院してきました。
以前痛めてしまった腰の状態も比較的良好でしたが、体重がほとんど減っていません。
さらに、以前受けるように説明して納得済みの避妊手術の話も、飼い主さんからはありませんでした。
そこで獣医師が改めて「こちらのコーギーは年齢的にも若くないため、早めに避妊手術をした方が良いです」と、再度飼い主さんに説明をしました。
「そうですよね、でもお金かかっちゃうからちょっとな…また家族と考えてみます…」
「また考えてみる」と仰ってはいましたが、実際もし子宮蓄膿症になり、緊急手術になってしまった場合の費用は相当な額になります。
また、この病気で命を落とす危険性が高く、実際に子宮蓄膿症で亡くなってしまったケースも少なくありません。
その旨を再度飼い主さんに伝えましたが、(自分の愛犬は大丈夫だろう)という謎の自信があるのか、他人事のような反応。
こちらとしてはとても不安な気持ちになりました。
その後も何度か来院してきたものの、避妊手術については「まだ考えている」と変わりないお返事で、本当にちゃんと向き合って考えているのかしら、と思ってしまうほどでした。
毎回来院するたびに避妊手術のお話をしてきましたが、飼い主さんの反応には全く発展がなく、ただ時間が経っていくばかり…。
こちらの不安な気持ちはますます強くなり、私はただコーギーが子宮蓄膿症にならないことを願うことしかできませんでした。
不安が的中し子宮蓄膿症に…緊急手術へ
そして、残念ながら今まで抱いていた不安が的中してしまうことに…!
ある日食欲不振、陰部から膿が出ているなどの症状で、そのコーギーは来院してきました。
血液検査では炎症反応を示す白血球数がかなり高く、エコー検査などから「子宮蓄膿症」との診断が…。
あれほど何度も飼い主さんに説明をしたのにも関わらず、結局最悪の事態を招いてしまっていました。
「えーそうなんですか、そんなに深刻な状態なんですか?」
誰が見てもわかるくらい、コーギーは立つこともままならないくらい、かなりぐったりしていました。
しかしそれにも全く気づいてもなく、平然とした反応の飼い主さんに、私は唖然してしまいました。
それまで与えていた時間は本当に愛犬の事を考えていたのかと、悲しい気持ちと怒りの気持ちが両方込み上げてきました。
飼い主さんの承諾を得たうえで、結局コーギーは緊急手術を受ける事となりました。
実際に腹部を開けてみたところ、片側の子宮は膿でパンパンに膨れあがっており、もう片側の子宮にはいくつもの筋腫ができていたのです。
予想をはるかに超えたひどい状態でした。
摘出した重さはおよそ700g程と見た目以上に重く、今までこれがあの小さな体の中にあったかと思うと、あまりの残酷さに言葉が出てきませんでした。
幸いにも溜まっていた膿の破裂による腹膜炎を起こしていなかったこともあり、コーギーは手術後調子がだんだん戻り、本来の元気さを取り戻すことができました。
状態が悪いなかでの手術を乗り越え、命が助かって本当によかったです。
まとめ
子宮蓄膿症という病気は中高齢のメス犬で、今まで出産経験が一度もない場合に起きやすい、といわれています。
そのまま放置してしまうと、様々な臓器に悪影響を及ぼしてしまい、最悪の場合命を落とすことがあります。
また腹膜炎を引き起こして急変する危険性もあれば、今回のように筋腫になってしまうケースもあります。
しかし子宮蓄膿症は、避妊手術をおこなえば防ぐことができる病気でもあります。
また年齢が若いうちに避妊手術をおこなうことで、乳腺腫瘍の発症率も下がるともいわれています。
今回は運が良く命が助かりましたが、実際に子宮蓄膿症になり亡くなってしまったケースも少なくありません。
もし、まだ避妊手術を受けていない場合やこれから犬を飼育するか検討している方は、改めて避妊手術の必要性、そして私たち人間と同じ命の重さを理解していただけたらと思います。