犬に自然を求めすぎることで生じる危険
「自然がいいから」という理由で動物福祉を害することになり、結果として「愛という名の虐待(ネグレクト)」をしてしまっている飼い主さんは少なくありません。
こんなことを考えたり聞いたりしたことはありませんか?
- 自然がいいから避妊去勢はしない
- 自然がいいから生肉や骨を与える
- 自然がいいからできるだけ病院には行かない
- 自然がいいからハーブを積極的に使う
- 自然がいいからリーシュ(リード)は付けない
- 自然がいいから薬には頼らない
仮に身近で聞いたことやそんな人に出会ったことはなくても、実は動物現場の特に医療現場ではよく出会う言葉たちです。
これらが意味するのは、飼い主が管理することで防げるはずだった病気や怪我、そして命までもを落とすということです。
犬と人間の共生は不自然だからこそ自然を提供する
「自然で…」というのであれば、犬を家庭に迎えるということ自体不自然なことになります。
今の家庭犬は『ペットとして改良を重ね作られた動物』ですから、そもそも自然ではないのです。
自然と言いながらも実はすでに不自然でありますが、その不自然の中でも犬という動物が本来持っている本能や習性というものを満たすことで、ある意味での自然を提供することができるのではないでしょうか。
そして、それを満たす前に大前提として、犬の健康や安全などの管理を疎かにしてはいけません。
これらの大前提を守った上で不自然の中に自然を提供し、犬の心と身体を満たしてあげるのが飼い主としての責務であると考えます。
犬の自然な欲求を満たす「エンリッチメント」の必要性
では、そうした犬の自然である本能や欲求を満たすためにはどうしたらいいと思いますか?
避妊去勢をせず、自然にまかせて交配させて数を増やし続けることでしょうか?
オフリーシュ(ノーリード・オフリード)で野放しにして周囲の危険や迷惑もかえりみず、犬自身も危険に晒すことでしょうか?
生肉や骨を与えて歯を損傷したり、消化不良や寄生虫の感染により内臓をボロボロにすることでしょうか?
愛犬が健康を害していても病院に連れていかず、独断でいろいろ試し、苦痛を長引かせているにも関わらず、「可哀想」と言いながらそばで悲しむことでしょうか?
では、犬が人間とともに生活していく上で、あるべき『自然』とは一体どのようなものでしょうか。
病気や事故は徹底した管理のもと防ぎつつ、犬の自然な本能や欲求を満たすためには、最近耳にすることも多い『エンリッチメント』が推奨されます。
エンリッチメントとは、犬に限らずその動物が持つ本能や欲求を満たす方法で、そのためにさまざまな工夫が施されます。
コングなどを使って採食本能(獲物を捉える)を満たしたり、食べ物を隠して匂いで場所を探る、または散歩で匂いかぎをするなどの「匂いかぎ本能」を満たすのもそうですね。
このように、犬が本来持っている習性や本能を満たすことができる環境を用意し、それを行動できるようにしてあげるのが「エンリッチメント=犬にとってあるべき『自然』」なのです。
例えば散歩も、人が季節を感じながらリラックスして散歩するのと同じように、犬にもさまざまな匂いや風を感じさせながら散歩することで、最大のエンリッチメントを提供することができます。
まとめ
自然という言葉はとても優しくいかにも良さそうなイメージを持ちますが、なんでもかんでも自然だから絶対的に良い、ということは決してありません。
特に犬は家畜化され、改良を重ねてペットとして作られた動物です。
自然を望むのであれば、犬を飼うこと自体、すでに不自然であることを知っておく必要があります。
もちろん自然が悪いということではなく、本来持っている本能や習性というものを満たすためにも「エンリッチメント」を是非活用していただきたいですね。
何でも自然に頼りすぎてしまうと、逆に健康を害し、命の危険に陥る可能性が大きいのも事実。
不自然を悪とするのではなく、安全・安心を提供するためにも、愛犬にとって大事なことは何かを理解した上で正しく管理してあげてください。