私は動物病院で動物看護士として働いていました。
今回は老犬の『安楽死』のお話をしたいと思います。
(この記事を通して「自分が老いること、ペットが老いること」について真剣に考えてほしい…。)
そんな想いから、今まで思い出すことを避けてきた記憶を今回記事にしていこうと思いました。
老犬タロウの入院
肝臓が悪く、ずっと動物病院に通院していた18歳の老犬『タロウ(仮)』。
大きさは中型犬サイズではあるものの、若い時はすごく力もあっただろうと予想できる体格でした。
飼い主さんは70歳後半の老夫婦でした。
タロウは通院で点滴や投薬をしていたため、経済的な負担も大きかったようで、いつも自分たちの年齢とタロウの病状に不安を漏らしていました。
タロウは、通院のときもよたよたと歩いてくる状態でしたが、入院が決まったときは目線はうごかすものの、体力がもう限界の様子でとても立ち上がれないレベルでした。
そんな状態のタロウの治療をするかしないか、老夫婦はとても悩んでいる様子でした。
入院後のタロウ
結局、治療のために老夫婦から離れて入院したタロウ。
スタッフが流動食をつくって口に入れてあげればなんとか食事はとれる状態でした。
しかし排尿も垂れ流しで、1日に数回、体の下に敷いているペットシーツを変えたり、体を清潔に保つために看護しなくてはならず、看護する側としても大変な状態ではありました。
病院ではプロのスタッフ2名で、タロウの体を支えながらタオルの交換などを行います。大変な作業ではありますが、それでもプロの仕事でしっかりしたケアができます。
けれども、これを70歳を超えた一般の老夫婦が毎日行うとなれば、かなりの負担になることは容易に想像ができました。
老夫婦の決断
老夫婦は、毎日朝晩電話をしてきますが、「悲しくなるからお見舞いに行けない」としきりに訴えます。
老犬タロウは飼い主さんに会いたかったと思いますが…。
体調は良くない状態でも、目線はいつもスタッフを追っているので、意識もしっかりとしているはず。
是非会いに来てほしかったのですが、それは精神的に難しいようでした。
そして1週間ほど経ったある日、飼い主さんから連絡があり、「安楽死をお願いします」との申し出がありました。
理由は、家に連れて帰っても十分なケアが難しいこと、またそのまま入院して治療となると、入院費用が支払えない、ということでした。
安楽死の決断の賛否
飼い主さんの安楽死の決断は、誰も責められることではない、と私は個人的に思います。
スタッフの中には、絶対に許せない!という意見の人もいました。
獣医療が高度になり、犬の生活環境もますます良くなっていることから近年、犬の平均寿命が延びているといわれています。
実際、高齢者が老犬を飼っているケースもたくさんあります。
最後までしっかり見届けられる人がほとんどですが、残念ながら治療費や体力の問題で手放す決断をしなくてはいけない場合もあります。
私は、飼い主さんの体力面や今までの経緯から考えても「自分たちのやれることはやった、連れて帰って苦しんで死んでいくよりも、安らかに眠ってほしい」という飼い主さんの気持ちを尊重してあげたいと思いました。
安楽死に立ち会うこと
安楽死を行う当日、「どうしても立ち会う気持ちになれない」との飼い主さんからの連絡で、獣医師と私の二人で処置にあたることになりました。
その場面についてはここでは書き記す必要がないと思いますので省略させていただきますが、私の人生の中でもとってもつらい出来事になりました。
動物を飼うということ
命が自然に絶えることだけが「死」なのではなく、また、延命するだけが優しさや責任ではないと、まざまざと実感させられる体験となりました。
私のような、いちスタッフでさえ苦しくてこれをきっかけに動物看護士を辞める選択をしたのに、18年も連れ添った飼い主さんがつらくないわけがないです。
獣医や動物看護士という仕事は、目の前の動物に対して『生』の部分だけではなく、『死』についても間近で見つめなければならない厳しい仕事なのだと、私は改めてこのとき実感しました。
頭の中では安楽死についての理解をしていたつもりでも、自分が立ち会った処置に関していえば、動物が大好きで飛び込んだ世界で見た現実はとても辛過ぎた、としか言いようがありません。
まとめ
「命は絶えなければ、長生きなら幸福なのか?」動物にとって真の幸福とは何なのかを考えさせられる体験でした。
急に話は変わりますが、皆さんは映画『僕のワンダフル・ライフ』という映画を観たことがありますか?
こちらの映画では、体調の悪くなった犬を安楽死させるシーンが出てきます。海外では安楽死についての考え方が日本とは違います。
その映画の犬は転生し続けて、また飼い主さんのもとによみがえる、という内容でした。この映画で、自分の辛かった体験の記憶が少し救われた気がしました。
動物の命に触れる飼い主さん、獣医さん、動物看護士は皆、どうしても動物の生死について考えることが多いですよね。
今回は老年夫婦の苦渋の決断での安楽死のお話でしたが、実際動物の命を粗末にする人がいることは事実です。
今回の体験談がより多くの人の目に触れることによって、『命の幸福』について考えるきっかけになれば幸いです。
また、現在社会問題になりつつある『老々介護』の問題が、人間と犬猫の世界にも起きている現実にもぜひ目を向けていただきたいと思います。