私は動物病院で動物看護士として働いていました。
人間も動物も、病院との信頼関係なくして正しい治療は行われません。
今回は愛犬の「寄生虫」がきっかけで明らかになった、飼い主と動物病院の信頼関係に関するエピソードについてご紹介したいと思います。
飼い主と動物病院との信頼関係
動物を飼っている方であればご存じかもしれませんが、動物病院での診療は「自由診療」のため、診療費や薬の値段は動物病院ごとにバラバラです。
そのため、飼い主さんの中には「診療はここ、ワクチンはこの病院、療法食はまた別の病院で」と、動物病院をそれぞれ使い分けている方もいらっしゃいます。
本来は、ワクチンの記録や療法食の減り具合もカルテで一括確認できるように1つの病院にかかることが望ましいのです。
しかし、動物病院を使い分けている飼い主さんの場合は、必要な情報を飼い主さんから口頭で伺い、そこに嘘はないという前提で診察を行っています。
これは1つの病院ですべて診てもらっている場合にも言えることですが、言葉を話せない動物の診療をする、ということには飼い主と動物病院との信頼関係が必要不可欠です。
私が動物看護士として働いていた動物病院にも、ワクチンやフィラリア予防は他の病院で行い、何かトラブルがあった場合こちらの動物病院を受診する、といった飼い主さんが何名かいらっしゃいました。
その中にボーダーコリーを飼っている飼い主さんがおり、ある日、「目のかゆみと充血」のため、私の勤めていた動物病院を受診されました。
眼から寄生虫が出てきたボーダーコリー
処置室にて、そのボーダーコリーの目ヤニの状態や瞳の状態を確認すると、すぐに獣医師が異変に気付きました。
生理食塩水で眼球を洗い流すと、眼球の裏側から1.5cm程の糸くずのようなものがいくつも出てきたのです。
これは「東洋眼虫」と言い、動物の眼に寄生する寄生虫です。
ハエの仲間が東洋眼虫に感染した動物の目ヤニをなめ、そこにいた幼虫がそのハエの仲間を経由し、他の動物の目ヤニや涙へ寄生します。
東洋眼虫は人間にも寄生するため非常に注意が必要です。
しかし、「フィラリア」の予防薬が東洋眼虫へも効果があるため、私が勤めていた病院では何年も症例がありませんでした。
ただ、飼い主さんは「フィラリアの薬は他の病院で飼って飲ませている」とおっしゃっていたのです。
なぜ感染したのか疑問に思いながらも、数回の通院でとりあえず東洋眼虫を完全に駆除することができました。
再び寄生虫に感染。原因は…
そして半年ほど経った頃、また同じボーダーコリーが受診に来ました。
受診理由は前回と同じく「目のかゆみと充血」。そして案の定、東洋眼虫が出たのです。
私たちスタッフはとても不審に思いました。
フィラリアの予防薬を飲んでいる犬が二度も東洋眼虫に寄生されるなんて、なかなか可能性の低い話です。
その点も含め、獣医師が飼い主さんへ確認すると「実は、フィラリア予防薬を何年も飲ませていない」「近所の犬がフィラリア予防をしっかりしているから、うちの犬は薬を飲ませなくても平気だと思っていた」と言い出したのです。
これでなぜ、ボーダーコリーが東洋眼虫に感染したのか、辻褄が合いました。
そこで獣医師から改めて、以下のような説明および指導が飼い主さんへきっちり行われました。
- フィラリア予防薬は今回の東洋眼虫の件のように、他の面でも有効性を発揮している
- 周りが予防していても自分だけフィラリアにかかる可能性はいくらでもある
- そもそも『飼い主の申告に嘘はない』という前提で病院側は診察をしているため、飼い主と動物病院お互いの信頼関係がなければ動物の健康は守れない
飼い主さんも今回の件以降は、フィラリア予防薬を愛犬に必ず与えるようになりました。
おかげでそのボーダーコリーは東洋眼虫に再感染することもなく、飼い主さんと獣医師との信頼関係も再び構築されました。
まとめ
飼い主さんには動物病院を選ぶ自由があります。
診察内容や処置の料金によって病院を変えることを禁止することはできません。
しかし大事な動物を守るために、虚偽の申請だけはやめていただきたいのです。
今回のボーダーコリーの件のように、薬やワクチンには効果が多すぎて説明を省略している部分や、飲み合わせにより重大な副作用が生じる可能性もあります。
獣医師は、飼い主さんからの申告を信じ、それを踏まえて適切な説明を行っているのです。
飼い主さんと動物病院、お互いの信頼関係の下で、すべての診察が正しい形で行われてほしいと強く思います。