私は今、動物看護師として動物病院に働いています。
犬種や個体差などによって時期は異なりますが、子犬から成犬へと成長した女の子のワンちゃんに対して避妊手術を受けるように説明しています。
避妊手術をすることによって、子宮に膿が溜まる「子宮蓄膿症」を防ぐことができます。中高齢になるとその発症率は高くなっていき、亡くなるケースも少なくありません。
今回は、実際に子宮蓄膿症で命を落としたダックスフンドのワンちゃんと、状況を全く理解できずクレームまで言い張った飼い主さんについてお話ししたいと思います。
子宮蓄膿症のダックスフンド
ある土曜日の午前中に年齢10才のダックスフンドのワンちゃんが動物病院に来院してきました。そのダックスフンドは以前から貧血傾向があるなど、血液検査で異常な数値がみられ要注意していました。
また、女の子で避妊手術を受けていなかったため、子宮蓄膿症のリスクについても飼い主さんに説明していましたが、結局はその日まで一度も来院ありませんでした。
「なんかここ最近、軟便気味で下痢が続いているんだよね」飼い主さんはただ軟便や下痢をしているとしか言わず、状態についても曖昧に答えていたのが疑問に思いました。
しかし実際に診察が始まり、そのダックスフンドのワンちゃんを診てみると明らかに痩せており、体重が前回の診察から500g程減っていました。
検査結果
意識もややぼんやりしており、陰部から膿が出ていたことからすぐに検査。
血液検査やレントゲン検査、エコー検査を実施。その結果、ダックスフンドのワンちゃんは子宮蓄膿症になっていたことが分かりました。
「それ膿だったの?全然気づかなかった、体重も減ってたんだ~」検査の結果や陰部から膿が出ているなど獣医師が今の状態について説明をおこないましたが、飼い主さんはまるで他人のような反応でした。
個体差などにもよりますが、子宮蓄膿症になれば食欲が落ちたり、元気がない様子がみられるはずです。それなのに飼い主さんはなぜワンちゃんのことを知らなかったのか、なぜ気づかなかったのか理解できませんでした。
飼い主さんの承諾を得て、緊急手術に
子宮蓄膿症になった場合、放置してしまうと子宮内に溜まっている膿が破裂し腹膜炎をおこす危険性があります。そのため緊急手術をしなければいけませんが、亡くなるリスクも高いです。
獣医師が今の状態やリスクについて飼い主さんに説明をし、手術を受けるかどうか飼い主さんに聞きました。
「こんなに数値が悪かったの?どうしようかな……でもそれでもやってください」さすがに事の重大さにようやく気づいてくれたのか、飼い主さんは少し悩んでいました。
リスクを伴いますがそれでも手術をしてほしいと同意を得たため、そのままダックスフンドのワンちゃんをお預かりし、緊急手術をすることになりました。
状態をみながら細心の注意をはらって手術をおこないましたが、摘出した子宮の両側とも溜まった膿でパンパンに膨れあがっており、ひどい状態でした。
厳重なモニター等のチェックのもと手術をおこないました。しかし手術後容態が急変してしまい最善の努力を尽くしましたが、結局ダックスフンドのワンちゃんは力つきてしまいました。
よく頑張ってくれましたが、長い間受けていたダメージが大きく限界だったのです。
「死」を受け止める事ができず飼い主さんの態度が一転
注意深くみながらおこないましたが、残念ながらダックスフンドのワンちゃんは亡くなってしまいました。その旨を飼い主さんに連絡をし夕方頃に来ていただきました。
獣医師は改めて状況を話そうとしましたが、力つきた愛犬の姿を見た飼い主さんは大泣きしパニック状態になってしまいました。
覚悟は決めたものの、愛犬の死に受け止めれない飼い主さんの悲しみは伝わり、命を救うことができず申し訳ない気持ちでした。スタッフ全員で何度も何度も頭を下げました。
しかしそこで飼い主さんの態度が急に変わりました。
手術に対するリスクやその説明を一切聞いていないと主張してきたのです。しっかりと説明をし、手術の同意を得ておこなったことに対して食い違っており、全く耳を傾けてくれませんでした。
挙げ句の果てには、
自分は説明やリスクを聞いてない、知らないとの一点張りで私たちの話を聞き入れてもくれませんでした。何時間もかけて説得を試みましたが飼い主さんの態度は全く変わらず、結局費用全額支払うことはありませんでした。
健康で早いうちに避妊手術を受けていれば命は救われ、寿命を全うできたかもしれないと今でも思い出します。
まとめ
子宮蓄膿症は子宮内に膿が溜まってしまう病気です。避妊手術を受けてなく、かつ出産経験がない中高齢におこりやすい傾向があります。溜まった膿やそれに伴う炎症、菌の増殖により悪い毒素が体内にめぐってしまい腎不全や肝不全など様々な臓器に悪影響を及ぼし、命を落とすことがあります。
また膿によって膨れあがった子宮が破裂して腹膜炎を引き起こす恐れがあり、急変する危険性もあります。
ですが、この病気は早いうちに避妊手術をおこなえば防ぐことができます。また初回発情前におこなうことで乳腺腫瘍の発症率も下がり、元気に長生きすることにも大きく繋がります。
このような悲しいお別れがないよう、今回のを通して改めて避妊手術の大切さを理解していただけたらと思います。そしてまだ避妊手術を受けていない、もしくは今後犬を飼おうと思っている方は早い時期に避妊手術を受けてほしいと、そう願っています。