私は現在、動物看護師として働いていますが、毎年何件かワンちゃんが誤飲事故をおこして動物病院に来院してきます。
異物の種類や摂取量によっては命を落とす危険性が高く、命を繋ぎとめたとしても後遺症として体に大きなダメージをあたえてしまいます。
今まで働いてきた中で様々な誤飲事故をみてきましたが、その中でも1年間で3回も誤飲事故をおこして亡くなってしまったダックスフンドのワンちゃんについて今回お話ししたいと思います。
過去に起きた犬の誤飲事件
年齢10才のダックスフンドのワンちゃんがいました。
そのダックスフンドのワンちゃんは今まで大きな病気や怪我もなく、予防関連で何度か動物病院に来院していました。
毎回来院するたびに大きな声で鳴いていたりと、とても元気いっぱいで私たちスタッフに対してもシッポをパタパタと振るなどフレンドリーなワンちゃんでした。
しかしある日、そのダックスフンドのワンちゃんが体調不良で来院してきました。
「何か最近吐いているんだよね、でも元気はある」飼い主さんのお話しでは嘔吐のみの症状で元気、食欲はあるとのことでした。この日は対症療法と絶食指示を伝え、症状が改善しない場合は翌日も来院するように伝えました。
経緯①犬の具合が悪く来院
数日後、「ちょっと様子みてたんだけども、あれから吐き続いているんだよね」
症状が全く改善しないとのことで来院してきました。嘔吐の症状が続いているのにも関わらず、自己判断で数日間様子をみていたのか私には理解できませんでした。
ダックスフンドのワンちゃんを診てみると、普段の鳴く元気もなくぐったりしていました。レントゲン検査でガスの貯留がみられたのと、バリウム検査で消化管内の通過障害がみられます。
その間もダックスフンドのワンちゃんは何度も嘔吐の症状がみられました。検査や状態から原因が異物誤飲の可能性が高いと思われ、獣医師が飼い主さんに状況の説明とともに緊急に開腹手術をする必要性を伝えます。
「何か変なの食べてないと思うんだけどなー、でも手術して下さい」経緯②開腹手術
何かを食べたかどうか分からず曖昧な答えでした。飼い主さんから手術の同意を得た為、その日に開腹手術をおこないました。
すると、やはり腸管内に固い異物が詰まっていました。その異物は何らかの木の実と思われ、再度飼い主さんに心当たりがないか聞いてみました。
「もしかしたら散歩中に拾い食いしたかも、でも全然気づかなかったわ」あっさりした反応と命の危機感さえも感じる様子が全く見られず、とても悲しい気持ちになりました。また、飼い主としてちゃんと愛犬のことを見ていないのかと疑問にも思いました。
とりあえず、その時は手術は成功し無事にお家に帰っていきました。
経緯③再び犬が誤飲する
無事に誤飲事故による開腹手術を終えて元気になったダックスフンドのワンちゃんでしたが、2〜3ヶ月後くらいに再び嘔吐の症状で来院。
見た目でも分かるくらいガリガリに痩せており、体重が500gほど減っていました。
いつもの元気さもなく、ただの一過性の嘔吐ではないと直感。レントゲン検査で明らかに不自然なものが写っており、獣医師が飼い主さんにまた異物誤飲の可能性が高いことを説明しました。すると、
拾い食いする癖があることを知っているのにも関わらず、なぜ何も対策をしていなかったのか…、体重が激減していることにも全く気づかない飼い主さんに唖然としてしまいました。
このままではまた命に関わってくる為、その日に再び緊急で開腹手術をおこないました。
そして今度は、使い捨てマスクが腸管内に詰まっていました。長い間腸管に詰まっていたこともあり、腸粘膜が赤くただれひどい状態です。
この開腹手術も奇跡的に無事に終わり、飼い主さんには拾い食いをさせないよう、散歩中は口輪を付けるなど厳重に再度注意と説明をしました。
経緯④半年後に再度犬が誤飲する
使い捨てマスクを誤飲したおよそ半年後、そのダックスフンドのワンちゃんはまたしても嘔吐の症状で来院してきました。
飼い主さんの様子や態度は変わらず軽々しく、なぜあれほど注意していたのにも関わらず何もしていなかったのか全く理解できませんでした。
経過⑤最悪の状態に
触診にて腹部に固いものがありレントゲン検査にてガスの貯留等がみられたため、今回も何か異物を誤飲した可能性が高いと判断。しかしワンちゃんの状態は悪く、意識がハッキリせず横臥位状態、血便の症状もみられました。
助かる方法は開腹手術で誤飲した異物を摘出することですが、体力的に耐えられるかどうか境目な状況。ぐったりして辛そうな姿がとても悲しく、胸が苦しくなりました。
飼い主さんの同意を得たため、その日の夜に3度目の開腹手術開始。今回はビニールの塊が詰まっており、腸の一部が腐敗していたりとかなりひどい状態でした。
ダックスフンドのワンちゃんは最期まで頑張ってくれましたが、残念ながら手術後に力尽きてしまいました。本当にいたたまれない気持ちです。まとめ
室内で飼育することによって異物による誤飲事故が多く、犬にとって危険なものが生活の中にたくさん存在します。また散歩中の拾い食いが原因の場合もあり、身の回りに危険なものを置かないなど常に気をつける必要があります。
誤飲した異物の種類や摂取量などによっては命に関わり急変する場合もありますし、今回のように長い間消化管に詰まって壊死をおこし命を落としてしまうケースも少なくありません。
例え奇跡的に命が助かったとしても体も心も大きなダメージを受け、辛い思いをさせてしまいます。
誤飲事故をおこすワンちゃんの多くは常習性が高い傾向があります。誤飲事故によって辛く悲しい思いをさせないためにも生活環境、飼育環境を見つめ直してほしいと思います。そして私たち人間と同じ命の重さを改めて感じてほしいです。