犬生経験が犬のアイコンタクトスキルを高くするという研究結果

犬生経験が犬のアイコンタクトスキルを高くするという研究結果

犬が視線を使って人間とコミュニケーションを取ることは多くの人が経験しています。犬の生活や育成の環境がコミュニケーションにどのような影響を与えるのかという研究の結果が発表されました。

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視線でお願いをする犬の行動

テーブルで人間の方をチラッと見る犬

家具の下に入り込んでしまったおもちゃや、高くて届かないところにある食べ物などが欲しい時に、犬が飼い主をじーっと見つめた後に欲しいものの方をチラッと見て、その後また飼い主に視線を移す行動を目にしたことがある人は多いと思います。

チラッと横目で見るその表情が可愛らしくて喜んで犬の要求に応えるという人も少なくないでしょう。

この欲しいものと頼み事をしたい人間に視線を交互に移す犬の行動について、ブラジルのサンパウロ大学の心理学の研究者チームが興味深い研究結果を発表しました。

犬が自分では達成できない欲求を視線を使って人間に頼ろうとする時、犬が普段暮らしている生活や育ってきた環境によって行動に違いがあるのかどうかを調査するというものです。

3種類の生活環境の犬の行動を比較

屋外の小屋にいる犬

調査に参加したのは3つのグループの60頭の犬です。犬種や年齢はさまざまなのですが「普段家の中で暮らしているグループ」「普段家の外で暮らしているグループ」「保護施設で暮らしているグループ」という違いがあります。

生活環境の違いは人間との接触の経験の違いでもあります。

実験に参加したのは犬と犬が要求を依頼する実験者(飼い主や保護施設スタッフではない)でした。犬と実験者が部屋に入り、犬が届かないところにトリーツを置きます。犬が実験者を見つめた後に目だけでトリーツをチラッと見て、その後また実験者に視線を戻すという行動がカウントされました。

3種類の生活環境の違いは明白でした。家の中で暮らしている犬たちの97.5%は少なくとも1回視線による依頼行動を示し、屋外で暮らしている犬たちは80%が、保護施設で暮らしている犬は58.8%がこの行動を示しました。

また、実験者への視線の持続時間も「家の中で暮らす犬」「屋外で暮らす犬」「保護施設の犬」の順で短くなって行きました。

この結果を受けて研究者は、犬のコミュニケーション行動の発達と使用には暮らしている環境での経験が大きく影響していると述べています。

人間の近くで過ごす時間が長い犬は目的を達成するための戦略として、視線のコミュニケーションを使う傾向が強いということです。

犬の行動は「氏より育ち」なのだろうか?

保護施設の犬舎の中の犬

犬は何万年も前に家畜化され、人間とのコミュニケーション能力の高い個体が選択育種されてきた歴史があります。しかし、この研究では生活する環境が大きく影響しているという結果が出ています。

動物行動学においてしばしば争点となる「氏より育ち」というテーマがあります。自然に生まれ持った素質よりも、育成の過程で身に付いたものの方が行動に大きく影響するというものです。

この研究結果はそれを裏付けているように見えますが、研究者はその点について否定しています。

この研究において重要なのは、人間との接触の多さが犬の視線コミュニケーションを促しているという点の他に、人間との接触が少ない保護施設の犬であっても約6割の犬が視線を使ってコミュニケーションをしている点だと強調しています。

以前の他の研究では、家庭犬と同じトレーニングをした場合には保護施設の犬の方が強い反応を示したという報告も発表されています。
関連記事:犬の生活環境と人との関わりの度合いはトレーニング効果に影響するか?

これらのことから、犬は生来人間とコミュニケーションする能力を持っているが、生活や育成の環境でその能力が強化されたり、隠れたりする影響を受けると結論づけられます。

つまり自然に生まれ持った素質と、行動に影響を与える環境の両方が重要であるということです。「氏と育ち」を分けてどちらが重要かと考えることは意味がないと研究者は述べています。

まとめ

テーブルでおねだりするキャバリア

犬が欲しいものを手に入れるために人間と視線のコミュニケーションを取る行動について、日常生活の中で人間との接触の多い犬ほどこの行動を高い頻度と長い時間示すということ。

しかし一方で人間との接触の少ない犬であっても頻度や時間は減少してもコミュニケーションを取ろうとするという研究結果をご紹介しました。

生活環境が犬と人間のコミュニケーションに大きな影響を与えることは容易に理解ができますが、屋内と屋外の飼育環境の犬の行動を比較した研究というのは今回が初めてなのだそうです。

気候変動の影響で、日本では屋外での犬の飼育は過酷過ぎるものになっています。今回のような研究がさらに進んで、全ての家庭犬が安全な屋内で暮らせるようになって欲しいと願います。

《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0376635721001716?via%3Dihub

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