私は、かつて14年ほど動物病院で動物看護士として働いでました。
その看護師時代の経験の中で、初めて犬を飼うことになったある飼い主さんが「高齢のため満足に飼うことができず愛犬の命を危険にさらしてしまった」ということがありました。
今回は、高齢になってから犬を飼い始めることのリスクなどを踏まえ、体験談としてお話していきたいと思います。
高齢の母にプードルをプレゼント
ある親子とプードルのお話です。
ご高齢の飼い主の女性は、おそらく70代くらいでしょうか。
娘さんは、最近家にこもりがちでお散歩にも出なくなった高齢の母親を心配し、誕生日にプードルをプレゼントしました。
娘さんは『このままだと母親がボケてしまう。私も家庭があるし、相手してあげられないから犬を飼えば母親の相手をしてくれるだろう』と、安易に考えたのでしょう。
高齢者の一人暮らしでトイプードルの子犬とは…。これが悲劇の始まりでした。
トイプードルの子犬は活発
トイプードルは、遊ぶ事が大好きで元気いっぱいです。
活発で非常に賢い犬種です。しつけ次第では本当に飼いやすい犬種だと思います。
また、毛がクルンとカールして非常に愛らしいビジュアルです。
毎日ブラッシングしてお手入れしなければならないですし、月に1度は美容院に連れて行かなければならない犬種です。
私は、一人暮らしの高齢女性に、お手入れやしつけなどのお世話ができるのかどうかとても心配でした。
喜びと不安
女性は、それまで寂しい思いで一人暮らしをされていたようで、トイプードルの子犬が来てくれたことを非常に喜んでいました。
しかし、同時に「この元気な子犬を果たして自分が育てられるのだろうか」と不安になったそうです。
プレゼントをしてくれた娘さんは、「朝から夜まで仕事に出ているので面倒見れない」と断ってきたとのこと。そして悪い予感が当たってか、高齢の女性は子犬との生活で無理がたたり足を痛めてしまいました。
しつけもできず、トイレでできない子犬は糞尿を色々な所でしてしまうし、逃げ回ってブラッシングもできず毛玉だらけになってしまいました。
足も痛めたため、美容院にも連れていけないし、ペットショップにドッグフードを買いに行くこともできません。
この高齢の飼い主さんは、仕方なく自分のご飯を子犬にあげるようになってしまいました。
犬が与えてはいけない食べ物を…
飼い主の女性は、実は高血圧で治療中でした。そのため、お医者さんから『玉ねぎが血圧を下げる』とアドバイスを受け毎日玉ねぎ料理を食べていたのです。
その玉ねぎ料理を、本来は絶対に与えてはいけないプードルの子犬にも食べさせてしまってました。
そして人間のご飯を食べて2日目の朝の事です。高齢の飼い主さんが起きると、子犬は、ぐったりして横倒しになっていました。
名前を呼ぶとかすかにしっぽを振る程度。慌てた飼い主さんは、娘さんに電話し、朝一で動物病院に来院されました。
検査結果
血液検査の結果、『重度の貧血』を起こしていることが分かりました。飼い主さんから玉ねぎをあげていたことを聞かされ、『玉ねぎ中毒』が原因だということが判明。
『玉ねぎ中毒』とは、その名の通り「玉ねぎを食べる事で中毒を起こしてしまい、最悪の場合死に至る」という大変危険なものです。早期判断、治療が重要になります。
食べてすぐ来院していただくと、『催吐処置』といって吐かせる処置を行い、皮下点滴をして投薬をして様子を見ます。それでも貧血を起こしてしまう子もいます。
このプードルの子犬さんは、玉ねぎ料理を食べて2日目になってしまっており、貧血を起こして命の危険があります。
病院の輸血犬と血液が合うか検査し、無事適合したのですぐに輸血することになりました。
そして輸血も終わり、徐々に意識を取り戻します。舌の色も真っ白でしたが、薄いピンク色に復活してきました。
危険な状態でしたが1週間の入院のすえ、貧血も治り無事元気になって退院することができたのです。
プードルの子犬その後は?
元気に退院したプードルの子犬はどうなったかというと、結局娘さんの元で暮らすことになりました。
娘さんは、以前犬と暮らしたことがあったとのことなので、仕事の時間を減らし犬の面倒が見れる環境を整えたそうです。
そして娘さんが休みの日に、実母(高齢の女性)の家に子犬と遊びに行くことにしたそうです。本当に良かったです。
今でもそのプードルさんは、ワクチンやフィラリア予防で来院してくれています。しつけもされ、お利口で愛想の良いプードルさんに成長しています。
お手入れもされているようで、スタッフ一同本当に安心しました。
まとめ
元動物看護士の私から言えることは、安易に犬をプレゼントするのはやめてほしいということ…。
「本当に、あげる相手が犬と一緒に暮らしたいと望んでいますか?望んでいたとしても暮らせる環境にありますか?」
「しつけや散歩などお世話できる人なのでしょうか?一人暮らしの場合、もしもの時は代わりに面倒をみれますか?」
犬と暮らすということは、家族が増えるということです。ごはんやほかのお世話などやるべきことが沢山あります。そのような状況を考えたうえで、犬と一緒に暮らしていく覚悟があるかどうか考えてください。
安易には犬と暮らせないということをご理解いただき、色々準備したうえで一緒に幸せな生活をおくられることを願っております。