私は以前動物看護士として働いていました。今回は、病気にかかり治療に専念しなければならない一人暮らしのおじいさんが、ひとり残される愛犬のことを心配し自宅での生活を選んだ結果どうなったか…。というお話をしたいと思います。
一匹のマルチーズとおじいさん
私が働いていた動物病院には、毎週注射を打つため受診に来るマルチーズと飼い主のおじいさんがいました。
長く膵臓の病気を患っており、投薬ではなく点滴や注射が必要なため、定期的に病院を受診しなければいけない状態でした。
飼い主のおじいさんはとても穏やかな方で、マルチーズが入ったキャリーケースを、ゆっくりと驚かせないように、診察台へ下ろしたり持ち上げていたのが印象的でした。
そのマルチーズも、リードをつけて歩くときにはおじいさんのペースに合わせ、アイコンタクトを取りながら歩いていました。
私たちスタッフはみんな、そのおじいさんとマルチーズが大好きで、二人が穏やかに生活できることを願っていました。
ガンが見つかる
しかしある日、おじいさんとマルチーズが受診に訪れた際、おじいさんから「自分にガンが見つかった」というお話を伺ったのです。
すでにガンは進行しているため、治療をするにはしばらくの間入院が必要とのことでした。
おじいさんは自分の病気のことより、マルチーズを動物病院に連れてこれなくなってしまうことを心配していました。
おじいさんはすでに奥様を亡くして一人で暮らし。子供はいましたが遠くの県ですでに家庭を持っているため、マルチーズのことで迷惑はかけられないとおっしゃっていました。
動物病院で預かることは可能でしたが、多くの動物が出入りする動物病院に「いつまでかかるかもわからないまま預けるのは、さすがにかわいそう」とお話されました。
結局、おじいさんは入院してガン治療をするのではなく、マルチーズと一緒に今まで通りの生活をすることを選ばれたのです。動物病院として、何もできないことがとても歯がゆかったです。
突然の別れ
しかし、おじいさんがその決断をして2週間もしないうちに、愛犬のマルチーズが亡くなってしまいました。
おじいさんが朝目を覚ますとすでに亡くなっていたそうで、前日の夜までご飯もしっかり食べ、いつもと変わらない様子だったのでとても驚かれていました。
おじいさんは長い年月一緒に生活していたので、マルチーズとの突然の別れにとても悲しんでいました。ただ「最期までマルチーズと過ごすことが出来てよかった」とおっしゃっていました。
私は、愛犬のマルチーズがおじいさんに心配させないように、「無理して家での生活をし続けることがないよう先に虹の橋を渡ってあげたのでは」と思えてなりませんでした。
マルチーズの火葬までしっかり行ったあと、おじいさんはガンの治療のため病院へ入院されました。
その後のおじいさんの様子は私たちは知ることが出来ませんが、心残りなくご自身の治療に専念できたことは何よりだと思います。
まとめ
お年寄りが動物を飼う、ということは非常に難しい問題だと思います。
動物を飼ったり触れ合うことで、コミュニケーション不足の改善や適度な運動にもなります。また最近では、アニマルセラピーという言葉もあります。
しかし、万が一自分がペットより早く亡くなってしまった場合、残された動物たちはどうなってしまうのでしょう。
引き取り手がなければ最悪の場合殺処分となりかねません。せっかく今まで仲良く暮らしていたのにそんな最期の迎え方はあんまりです。
自分が亡くなった後のことを考えるのは飼い主として当然の義務だと思います。家族や親戚、仲の良い知人などに話しておくことで、自分が亡くなった後も動物が幸せに暮らせるように準備や心構えをしておいてほしいと思います。