私は、かつて動物病院で動物看護士として働いていました。さまざまな飼い主さんが愛犬の受診にいらっしゃいましたが、今回はある多頭飼いで飼育崩壊を引き起こした飼い主さんのお話をしたいと思います。
様々な種類のわんちゃんを連れてくる飼い主
ある日、当時私が働いていた動物病院へ、トイプードルを連れた若い女性の飼い主さんが来院されました。
そのトイプードルは、生後2カ月で1kgほどの女の子でした。
女性の飼い主さんは「ペットショップで購入してきたから、健康診断をして2回目の混合ワクチンを打ってほしい」と言います。私たち動物病院のスタッフからしても、子犬が新しい家族として迎え入れられるのは嬉しいことです。
その日は何事もなく、トイプードルの健康診断を行い、混合ワクチンを打ちました。
1週間ほど経ったころ、そのトイプードルを連れていた女性の飼い主さんが違う子犬を連れて来院されました。今度は生後2カ月の真っ白なマルチーズの男の子です。
ペットショップで購入したマルチーズとのことで、前回と同じように健康診断と混合ワクチンをお願いされました。その時は多頭飼育をしている飼い主さんは多いので、とくに不審に思うことはなく診察を終えました。
しかしその後も、女性の飼い主さんは頻繁にペットショップから犬を購入してきては来院されました。柴犬、ヨークシャーテリア、2頭目のマルチーズ等…。
さらに犬だけでなく、マンチカン、スコティッシュフォールドと子猫をペットショップから購入し来院されたこともあります。
1度来院した犬猫たちを2度目に見ることはなく、いつも連れてくるのは新しい子犬と子猫です。しかし3回目のワクチンやその他の予防、避妊去勢手術などを行うことはなかったのです。
そしてカルテが犬猫合わせ7~8頭分程になった頃には、その女性の飼い主さんも動物病院へ来なくなりました。
「無責任」が招いた飼育崩壊
しばらく経ったころ、ある年配の女性が小型のミックス犬を連れて来院され「近所の家で飼育崩壊が起きていて、そこで産まれた子犬を引き取ったので健康診断をしてください」と言います。
その方のお話をよく聞いてみると、飼育崩壊を起こした近所の家というのが実は以前ペットショップから頻繁に犬や猫を購入していた「あの若い女性の祖母のお宅」でした。
若い女性は犬や猫を購入しては、信じられないことに一人暮らしをしている高齢のおばあさんに一切のお世話を任せていたのです。
おばあさんは世話をしきれず、そのうえ犬猫の避妊去勢手術もしていなかったため、子犬や子猫が産まれ飼育崩壊を起こしていました。
年配の女性が言うには、おばあさんもとても困っている様子だったそうです。
そこでおばあさんの同意を得て、動物病院とご近所の方たちとの協力で、犬猫の里親を探すことになりました。
幸いにも、犬猫がみんな良い子だったので優しい里親さんたちに引き取られていきました。
かわいそうな動物を増やさないために
このような無責任な飼い主さん、かわいそうな動物を増やさないためにはどうしたらよいのでしょうか。
これから動物の飼育を検討している方に考えてほしいことがあります。
- 一時的な感情で動物を飼おうとしていませんか?
- 終生飼育は可能ですか?
- 家族全員の同意を得ていますか?
- 経済的に問題はありませんか?
- 繁殖目的でない場合、避妊去勢手術をしてあげることはできますか?
- 病気になったとき十分な医療を受けさせてあげることはできますか?
動物を飼育するうえで、上記のことは当たり前のことのように思います。しかし私が動物病院に勤めていたころは、この当たり前のことが出来ない飼い主さんが多くいました。
これから動物をお迎えする方は「飼育できる環境かどうか?本当に責任を持って飼えるかどうか?」をもう一度考えてみてくださいね。
まとめ
私が動物病院に勤めていたころ、実際にあった飼育崩壊のお話をさせてもらいました。犬猫は可愛いですし、飼いたくなる気持ちはとても共感できます。
しかし動物を飼うのは大変です。毎日自分の時間を割いてお世話をしなくてはなりません。健康であれば10年以上生きますし、1頭でもお金はかかります。
動物はお金を出せば買えるとはいえ「一時的な感情で飼おうとしていないか、飼育環境は整っているか」など大変な面もきちんと考えてからお迎えしてほしいです。
今回のような安易に動物を買って、無責任なことをする飼い主さんが減ることを祈っています。