あなたは普段から愛犬の「ケア」をしてあげてますか?シャンプーやブラッシング、そして体調管理などは、犬にとってともて大事です。
動物病院勤務をしていた間、私はたくさんの犬の症例を間近で見てきました。
そこで今回は、日ごろからのケアが大切なこと。ケアを怠ってきたことで起きてしまった、あるゴールデンレトリバーの可哀そうな症例。そして、犬の飼育に関するポイントなどをご紹介していきたいと思います。マダニだらけのゴールデンレトリバーの来院
ある週末のこと…。土日は大変込み合う病院なので、その日もあわただしく診察がおこなわれていました。そこに、いつも穏やかなゴールデンレトリバーのN君が来院しました。
と飼い主さんがお話しされました。
体を撫でると、背中やお腹にぼこぼことした感触がわかります。院長はすぐに「マダニ」が付いていると診断し、お預かりして駆除を行うことになりました。
マダニの駆除は犬にとってつらい処置
マダニというのはしっかり駆除をしないと深く食い込んだダニの歯の部分が皮膚に残ってしまうことがあり、感染症や皮膚の炎症などを引き起こす可能性があります。
駆除薬を使用して駆除するのか、ピンセットでとるかどうかなど、総合的な判断が必要になってきます。そのためにも、しっかりと全身の症状をみて血液検査などを行う必要があります。
マダニが100匹以上
マダニが血を吸って大きく膨らんだ状態を見たことがあるでしょうか?イボと間違えられたマダニは、吸血して10mm~20mmほどの丸い状態のマダニになっていました。
普段からブラッシングをされている状態でしたらコームに引っかかるなどして、気付くこともありますし、痒がる様子などから皮膚を観察することで気が付くでしょう。
しかしN君は家の外で飼われていて、可愛がられてはいるものの普段からブラッシングなどのお手入れはされておらず、いわば少し放置されているという飼育環境でした。
実際調べてみると、恐ろしいことに小さいマダニを合わせると少なくとも100匹はいたと思います。
痛くてつらいマダニを取る処置
N君は体がとてもしんどそうで、触られただけで痛むのか痒いのか、うなりっぱなしで、とにかく見ていてかわいそうでした。
マダニはそうしている間にもN君の血を吸い続けますし、感染症などの心配もあります。素早く取り除いてあげることを優先するため、ある程度はピンセットですぐに取り除くことにしたのです。
ピンセットでとり始めると、クンクンと泣くようになりました。取り除く間も犬にとってはとても苦痛を伴う時間だったはずです。
ストレスで性格が狂暴に
飼い主と離れて知らない場所に置いて行かれたことに対する不安と、もともとのマダニに刺されていることによるイライラも重なり、とても体調が悪い様子。かなり神経質になっていたのか、処置する際に犬舎から出したとたん戦闘態勢でした。
ゴールデンレトリバーで30㎏ほどの大きさ…。看護師二人に向かってかなりの威嚇をはじめて、院内を移動させることすら不可能で、「噛みつかれてケガをしなくて良かった!」というレベルの威嚇です。
おやつを見せつけられても気をそらせても威嚇をやめないN君。ちょっとしたすきに何とかバスタオルで顔を隠した状態で保定をし、口輪をはめることに成功して処置しましたが、普段から穏やかな性格のN君に口輪をはめて処置するなんて考えられませんでした。
翌日には性格も穏やかに
N君はマダニの駆除処置が終わると、かなり体力を消耗した様子で犬舎でずっと眠っていました。
翌日様子を見に行くと気分も良さそうに顔を上げていて、こちらを見ても威嚇はしません。診察のために犬舎を開けても前日のような威嚇をすることもなく、とても穏やかです。
マダニに大量に刺されて大量に吸血されたことによるショックや、体調不良で普段の穏やかさを失うほどのストレスだったことでしょう。
ベテランの看護師も獣医師も、「マダニをあれほど体にくっつけて来院したのはN君ぐらいだ」と言っていました。
その後、ある程度皮膚の炎症などの様子を見させていただき、N君は飼い主さんのもとに帰っていきました。
飼い主さんは、「外で飼っていることや、休日に草むらに頻繁に連れていくのに予防は別にしなくてもいい」と思っていたことに対し、犬を飼う上での責任感がなさ過ぎたと反省され、改善したいと話していました。
体験から伝えたい3つのポイント
犬種にあった飼育環境
犬を外で飼うことは悪いことではありません。しかし、毛の長い犬種を飼う場合には、被毛の汚れや皮膚の状態を管理するうえで、室内よりもリスクが高いと思います。
今回のお話のゴールデンレトリバーも、室内で飼っていれば抜け毛対策の面からもブラッシングなどもこまめに行うはずです。外で飼っていることにより、目が行き届きにくいという面はあると思います。
ですので、もし長毛で外で飼育されている際には、よりしっかりと観察することをおすすめします。
予防できることはする
マダニ対策の他にもノミやフィラリア、その他の感染症に対する予防は、できることならしっかりと行ってほしいと思います。
N君の飼い主さんのように、実際にイボに間違えるぐらいのマダニを見た場合は予防の大切さを感じるかもしれませんが、動物病院で写真を見せられるだけでは、自分の犬がマダニやノミが付いてしまうなんて想像できないこともあると思います。
しかし、ノミもマダニも付いてしまうと駆除するのもとても大変ですし、犬にも飼い主にも大変なストレスとなります。
感染症に関しても「うちの子は大丈夫」という甘い考えや、「予防することを知らない」ことは犬に関わる人にとっても犬にとっても、とても辛い結果に繋がります。
観察・相談
犬を飼う上で一番大切なのは観察することです。犬は痛い、苦しいなど症状を飼い主にダイレクトに伝えることができない生き物です。
言葉で伝えられない生き物である以上、飼い主がそれを観察することによって気づいてあげなければなりません。飼い主さんが気づけないようなら、誰が気づいてくれるのでしょうか。
しっかりと日々様子を観察して「いつもと違うな?」と思ったら、まず獣医師にすぐに相談することが大切です。
まとめ
大量のマダニに刺されたゴールデンレトリバーの処置の体験談はいかがでしたでしょうか?
穏やかだったN君が精神的なストレスなどによって、性格まで変貌したのを見たときには本当にびっくりしました。そして、処置中の苦しそうなうなり声は、動物を愛するものとしてはとても苦い体験となりました。
獣医医療の現場は、言葉を発することのできない動物相手で、正直もどかしいことが多々ありました。しかし、その多くは飼い主さんの飼育に関する意識で予防できることが多かったように思います。
今回のマダニの処置体験談はその一例ですが、この記事を通して飼育環境や意識などを考え直していただけるきっかけになれば幸い、と思います。