急速に成長している犬の科学
犬の行動や認知機能をはじめとする犬についての科学研究は過去20年くらいの間に急速に増えています。様々なメディアで「犬は○○であるという研究結果が発表された」という類の記事を目にしたことがあるという人も多いでしょう。
参考:https://wanchan.jp/column/detail/24791
しかしなぜ21世紀になってから犬に関する科学的な研究が増えてきたのでしょうか?そして犬の研究をすることにはどのような意味があるのでしょうか?
米国カリフォルニアのアネスバーグ・ペットスペース・リーダーシップ研究所が主催したワークショップに参加した研究者たちが、この件に関して報告レポートを発表しました。その中から私たち一般の飼い主も知っておきたいことをご紹介します。
近年の犬の研究は飼い主参加型
長い科学史を通じて、犬は人工的に作られた種であるという理由で研究対象として却下され続けてきたのだそうです。
しかし、犬は人間の生活に最も強く結びついている動物でもあるため、犬の研究は公共の利益となること、そして一般市民を研究に参加させる手法が広まったことから、犬の科学の新時代が訪れました。
かつて犬の研究と言えば、研究室で実験用に飼育されている犬が対象になっていました。しかし近年では家庭で飼われているペットの犬たちや、介助や探知のために働いている犬を対象にしたものが中心になっています。
一般の犬の飼い主が研究室にやって来るだけでなく、自宅にいるままで体系的なデータを提供したりアンケートに答えることで、かつては考えられなかった範囲と数の犬の研究が可能になりました。
また医療分野では、犬の疾患を研究することで人間の医学への応用の例も増えています。これも実験動物を使うのではなく、病気になった家庭犬の治療を通じて研究することで一般の飼い主が参加するという形になっています。
一般の人々の関心を引き付けるようになったことで、犬の科学に対する資金提供が増えたことも研究増加の一因です。
研究が犬の福祉に与える影響と今後の課題
近年、動物福祉という概念が世界的に浸透しており、科学の分野もまた例外ではありません。犬の科学の新時代は犬の福祉を最前線に置かなくてはならないことは共通認識となっています。
これには研究の中での犬の福祉を考慮するのはもちろんのこと、犬の福祉そのものの研究も含まれます。しかし、犬の福祉研究は資金の集まりにくい分野であることは今後の大きな課題となっているそうです。
研究の中で一般の関心を集めやすいのは、犬が人間に利益を与えてくれることです。過去10年間で犬が人間の健康と幸福に影響を及ぼすことについての研究は大幅に増加しました。一般のペットからセラピードッグまで、犬が人間に及ぼすポジティブな影響はメディアと一般人に大きく注目されたと言います。
しかし、メディアが好む研究内容はしばしば大げさで不正確に報道され、一般の人々に誤解を与えていることが問題視されています。科学者たちはプレスリリースやジャーナリストとのコミュニケーションに細心の注意を払っていますが、情報の受け手の方もしっかりとしたリテラシーを持つことが必要です。
犬の福祉改善という点では、嫌悪刺激を使うトレーニング方法や、健康に害を及ぼす犬の形状を作り出す繁殖など、その悪影響が科学的に明らかであるにも関わらず十分な改善がもたらされていない部分も多々あります。
一般の飼い主では、叱られて怯えている犬を「反省している」と受け取る誤解なども改善されていない悪習の一例です。これは犬の科学という視点だけでなく、人間の行動変化の研究などとの協力が必要であることを示しています。
まとめ
犬についての科学研究が増えている背景、犬の研究が犬と人間の生活に与える影響などについてご紹介しました。
科学的な研究と言われるとちょっと構えてしまいますが、知っておくことで愛犬との接し方や生活に理解が深まったり、人と犬両方の幸せ度が高まることもたくさんあります。
これからもたくさんの犬の研究が発表されメディアで報道されていくと思いますが、ぜひ目を留めて考える機会にしてみてください。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2021.675782