犬は飼い主の敵を見分けることができる?
何者かと出会った時の飼い主の態度や行動を見て、犬はその者が「敵である」か「敵ではない」かを判断します。敵とは言わないまでも、飼い主が心を許している相手かどうか、その人が現れたことによって飼い主が緊張しているか、仲間と認めていいのかそうではないのかなど、犬は判断していることでしょう。
お散歩中の出来事を例に挙げてみましょう。
飼い主が他人と笑顔で楽しく会話をしている時、犬はジッと待っていることができるとします。待っている間、その人に対して、しっぽを振ったり体を撫でてもらったりなどし、「出会えて嬉しい♡」という態度や行動を示したり、または単に話が終わってまた歩き出すのをおとなしく待っていたりするでしょう。
しかし、飼い主が他人と緊張しながら会話をしていたり、「早く立ち去りたいな…」という気持ちでいたりする時は、犬もそわそわしたり立ち去ろうとしてリードを引くなどして「早く行こうよ!」という態度や行動をすることがあるかもしれません。
飼い主にとっては会話を切り上げやすくなったり、立ち去りやすくなったりなどし、愛犬に助けられたと感じる瞬間になるでしょう。
敵だと判断すると追い払うことも…
何らかの理由で犬が相手に対して「怖い」とか「遠ざけるべき」と思うと、吠えたり、ときには追い払おうと向かっていったりすることがあります。散歩途中で出会う人や犬に吠えかかる場合、遊びたいからという場合もありますが、自分や飼い主を守るために追い払おうとしている場合も多くあります。また、例えば飼い主が猫を苦手としている場合、野良猫と出会った飼い主が「きゃー」と叫んだり緊張して体をこわばらせていれば、その態度や行動から「緊張」や「警戒」「恐怖」の気持ちを犬は感じとります。そうすると犬も「猫は警戒対象だ」と学び、猫が見えれば吠えて追い払うようになることも考えられます。
逆に飼い主が猫を好きな場合、猫に話しかけたり「おいで♡」と呼びかけたりしますよね。そうすると、犬はも猫を「警戒する相手だ」「追い払わなければ」と思わないようになるかもしれません。ただ、猫に嫌な思いをしたことのある犬は飼い主が猫好きであっても猫を敵だとみなすでしょうし、また猫を狩りの対象として見る犬もいますので、注意が必要です。
犬が飼い主の緊張感を読み取る方法
犬は様々な情報から飼い主の感情を読み取ることができると考えられています。顔の表情や体の動かし方、声のトーン、また汗のにおいなどによって犬は人の感情を感じ取れるそうです。
人は緊張すると、じんわりと汗をかきますし、冷や汗や脂汗が出ていると本人が自覚していなくても汗は出ています。そして汗のにおいは感情によって変化するようで、犬はそのにおいの違いを感じることができるそうです。
犬種によって差はある?
犬には多くの犬種があり、それぞれにどんな性質を持つか、どんな行動をとりやすいかの傾向があります。相手を敵かもしれないと怪しむことはつまり警戒心を持つということですので、警戒心の低いタイプの犬は、いくら飼い主が嫌に思う相手でも何も警戒せずにフレンドリーに接しようとすることが多いかもしれません。逆に警戒心の強いタイプの犬は、「そんなに警戒しなくてもいいのに」と思うくらいまずはいったん警戒し、飼い主が敵だと思っていない人までも敵だと思うことがよくあるかもしれません。警戒心の強い犬種には、番犬や護衛犬として用いられてきた犬や日本犬のように原始的なタイプの犬が挙げられます。番犬や護衛犬はその仕事を遂行するのに高い警戒心が必要ですし、原始的なタイプの犬は野生動物に近い性質を持ちますので警戒心が高いのです。
また、「敵かも」と思った時にどんな行動をとるかも犬や犬種によって違いがあるかもしれません。相手に吠えかかったり、飼い主を守ろうと飼い主の周りをグルグルしたり、犬自身が恐怖を感じているので飼い主に助けを求めたり、また自分が優位に立とうとして飼い主に抱っこをせがんだり、ただその場から離れようとするだけだったり様々です。
まとめ
犬は飼い主の態度や行動によって敵を見分けることがあります。
私はお散歩中によく会う苦手な人がいるのですが、その人が向こうから歩いて来る姿が見えると愛犬がスッと道を変えてくれます。愛犬自身もその人を苦手としているのか、私が苦手なのを感じているからなのかは分かりませんが、助かっています。
みなさんにも同じような経験があるのではないでしょうか。
第三者がどんな行動をするかを観察し、第三者の行動によって犬が自分の行動を変えるかどうかについての研究はいくつか報告されています。認知科学の分野において「社会的傍受」という観点から行われている研究ですが、「犬は飼い主に親切にしなかった人を避けた」という研究結果や、1歳未満の人間の乳児で観察された「他者を邪魔するキャラクターを避けようとした行動」は犬では見られなかったという研究結果などがあります。
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