犬が「飼い主」と「他人」を判断するポイント3つ
1.におい
ひとつ目のポイントは、飼い主のにおいです。
犬の嗅覚が優れていることは、多くの方がご存知でしょう。その嗅覚は人の1億倍ともいわれています。においを嗅ぐことで、相手やモノの情報を収集するのです。
毎日のように嗅いでいる飼い主のにおいは、他の人のにおいとすぐに区別することができるでしょう。
また、犬にとって信頼している飼い主のにおいは、リラックス効果があるともよくいわれています。
2.音
次に、飼い主が発する音も他人と識別するポイントになります。
犬は嗅覚だけではなく聴覚も優れており、人間よりも小さな音をキャッチすることができます。つまり、犬は人間よりも遠くの音を聞きとれることになります。
また、人間が聞き取れるのは約2万ヘルツまでなのに対し、犬は約5万ヘルツの音まで聞こえるといわれています。つまり犬は、私たちが聞いている音に加え、もっと高い音も聞いているということです。
帰宅すると愛犬が玄関で待っていたなんて経験がある方も多いのではないでしょうか?これは、しょっちゅう繰り返される飼い主の行動パターンを犬が覚える以外にも、犬が普段から飼い主が乗っている車や歩いて帰って来る時の音などを聞いて他の音とは区別して覚え、その聞き慣れた音が聞こえてくると飼い主が帰ってくると判断しているからだと考えられます。
3.顔
以前は、「犬は嗅覚や聴覚は優れているけれど視覚は劣っているので、犬は顔では飼い主を認識していないのでは」という意見もありましたが、犬は飼い主の顔も認識できていることが最近の研究によって明らかにされつつあります。
犬が顔で飼い主と他人を区別する能力に関連した実験はいくつか報告されていますが、その1つに、フィンランドの大学で行われた、スクリーンに飼い主と他人の顔写真を映し出し、犬が顔のどの部分をよく見るのかを調べた実験があります。
その結果、飼い主の顔が映ったときは目の辺りを見ている時間が長く、他人の顔が映ったときは、目ではなくもっと顔の外側を見回していた時間が長かったとのことでした。
飼い主の顔が映った時と他人の顔が映った時では犬がよく見ていた顔の部位が明らかに違ったことから、犬は画面上に映った顔だけをみて飼い主と他人とを区別しているといえるでしょう。
【紹介した実験の論文】
Somppi, S., Törnqvist, H., Hänninen, L., Krause, C. M., & Vainio, O. (2014). How dogs scan familiar and inverted faces: an eye movement study. Animal cognition, 17(3), 793–803.
https://doi.org/10.1007/s10071-013-0713-0
犬は飼い主の感情もわかる
ここまでで犬が「飼い主」と「他人」を判断する3つのポイントをお伝えしてきました。この3つ以外にも、犬は歩き方や手の動かし方など、飼い主の様々な動きによっても飼い主と他人とを区別できていると考えられているそうです。犬はあらゆる感覚を通じて飼い主を他人と区別して認識していることがわかりましたよね。
さらに最近では、人の表情を区別できるだけではなく、飼い主の感情も認識しているという研究も発表されています。
オーストリアの大学では、様々な顔の写真を見せて人間の笑った顔と怒った顔を区別できるかという研究が行われました。その結果、それらの表情を区別できるだけではなく笑顔はポジティブな感情、怒った顔はマイナスな感情と認識していることも示されたそうです。
また、イタリアの大学の研究で、人のにおいによって人の感情(恐怖、喜び)を読みとっている可能性があることも判明しました。また、人が恐怖を感じたときの汗のにおいを嗅ぐと、犬にストレス行動が見られたそうです。
【紹介した研究】
Müller CA, Schmitt K, Barber AL, Huber L. Dogs can discriminate emotional expressions of human faces. Curr Biol. 2015;25(5):601-605.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2014.12.055
D’Aniello, B., Semin, G.R., Alterisio, A. et al. Interspecies transmission of emotional information via chemosignals: from humans to dogs (Canis lupus familiaris). Anim Cogn 21, 67–78 (2018).
https://doi.org/10.1007/s10071-017-1139-x
飼い主の感情がうつることもある
犬は人間の感情を認識できるだけではなく、人から犬へ感情がうつることも近年の研究でわかってきています(情動伝染)。
日本の研究者による研究で、飼い主とその愛犬に心拍計をつけて犬が飼い主を見ることができるように座り、飼い主に少しストレスがかかるようなことをしてもらった場合とそうではない場合の、両者の心拍数の変化が分析されました。
その結果、、約半分の飼い主と愛犬のペアで心拍数が同じように変化する様子が見られ、さらに、一緒に生活している期間が長い飼い主と愛犬のペアほど、心拍数が同じように変化する傾向が強く見られたそうです。
大好きな飼い主がストレスを感じていると犬もストレスを感じていることがある、ということですね。落ち込んでいるときに犬が寄り添ってきてくれたことがある方も多いのではないでしょうか。
また、犬は飼い主が喜ぶことをしたいという気持ちを持っているとも言われているので、飼い主が喜ぶと犬も喜んでいるのでしょうね。
【紹介した研究】
Katayama M, Kubo T, Yamakawa T, et al. Emotional Contagion From Humans to Dogs Is Facilitated by Duration of Ownership. Front Psychol. 2019;10:1678. Published 2019 Jul 19.
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.01678
まとめ
犬は嗅覚・聴覚・視覚とあらゆる感覚を通じて、飼い主と他人を区別しています。また、飼い主の感情まで認識し共感することがあることもわかりましたよね。
表情に出さなくても、飼い主が悲しんでいると愛犬も悲しいと感じてしまうかもしれません。また、飼い主さんがストレスを感じている時はそれが伝わってしまうかもしれません。それくらい、犬は人間に対して共感する力を持っている動物だということが分かってきたのです。
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