1.出会いから保護まで
違和感
小次郎との出会いは2010年。ご近所の庭に目をやると、まだ生後数ヶ月程の小さな黒い柴犬がこちらを見ていました。
その後しばらくは自由に庭を走り回っている姿を頻繁に見掛けていて、「可愛いなあ」と思いながらよくその姿を眺めていました。
しばらくして大きくなってきたせいか、庭に犬小屋を置き鎖で繋がれるようになりました。私自身外で犬を飼っていた経験があるのでそれ自体は特に問題無いと思うのですが、どうも鎖の長さが短いような気がしてなりませんでした。
その頃、ふと散歩をしている所や触れ合っている様子を殆ど見ていない事に気付き、更に違和感を覚えました。
虐待?飼育放棄?
そのご家庭とは子どもの年齢が近く、たまに子ども同士近所で遊ぶ事もあったため、お子さんと顔を合わせた時にそれとなく尋ねてみる事にしました。
すると「散歩に行ったのは2回くらい。犬を散歩させるのは太っているからで、うちの犬は太っていないから散歩は要らないってお父さんが言っている」と聞き、愕然とします。この時、すでに小次郎は2歳を過ぎていたと思います。
以降、状況はどんどん悪化していきます。
何とかしてあげたい
短い鎖に繋がれ散歩にも行けないせいか、何かを威嚇するように吠えたり、また逆に苦しがっているのか人恋しいのかキューンという鳴き声がしたり、昼夜問わず数時間鳴き続ける事が増えました。
可哀想に思いながらもご近所と関係が悪化してしまう恐れから、時折「子どもがワンちゃんと遊びたいって言うんだけど…」とお願いをして、散歩に連れ出すくらいしか出来ず、もどかしい気持ちでいました。
また、近所でも「叩いているのを見た」「鳴き方がおかしい」等虐待を疑うような噂が立ち、保健所等へ通報されることもあったようです。
何度も保健所や役所の職員と思われる方々の訪問を受けているような様子を見掛け、いつか保健所に引き渡してしまうのではないかとヒヤヒヤしていました。
「万が一保健所へなんて事になれば、小次郎はどうなってしまうんだろう?何とかして引き取る手は無いか…」と考えるようになりました。
犬、あげます
悩んでいた割に、事は意外と簡単に進みます。
小次郎の飼い主さんと偶然顔を合わせた時に、「数年前に我が家で飼っていたワンコが亡くなって寂しいんだよね」と話すと、「うちの犬、いらない?」と言われたのです。
その言い草に少し腹立たしくは感じましたが、ここは小次郎を救うチャンスとばかりに話を進めます。
すると「うちの子どもと相性が悪い。無駄吠えが多くて近所からも文句を言われ、面倒ばかり」と散々な言われようでしたが、手放してくれるのであればと、受け流します。
そしてそれから数日後に、正式に引き取って欲しいと申し入れがありました。この時、小次郎は3歳になる頃でしたが、保護当日はどうして良いのか分からない様子でした。
2.家族になってから
引っ越し
普段から小次郎とは多少触れ合っていた為、引っ越しはスムーズでした。
ただ、当時我が家には保護猫2匹が住んでおり、またここまで外で飼われていた小次郎を室内犬にするのには無理があると考え、庭にある程度自由に動き回れるスペースを作ってお迎えする事に。
おもちゃも用意していたのですが、遊んだ経験が無い為か、あまり興味は示しませんでした。
散歩に出ても、道を歩いた経験があまり無かった為か、端を歩かずぴょこぴょこ飛び回りながらあちこち行ってしまうので、連れて歩くのに苦労しましたが楽しく過ごしました。
落ち着く場所
我が家で暮らすようになりしばらくすると、夜中に外で騒ぐようになりました。
あまり外で騒ぐとまた近所迷惑になってしまうので玄関に連れて来るのですが、するとピタッと静かになるという事を数日繰り返しているうち、どうやら玄関が落ち着くらしいという事に気が付きました。
玄関ではそれ程動き回れるスペースは無いものの、家族の声や気配で安心するのか全く騒ぎませんでした。そうして我が家の玄関は、小次郎のお家として占領されることに!
狭くないかな?ストレスにならないかな?と思っていましたが、小次郎はすっかり落ち着いた様子で寛いでいます。
もうこうなると人間が工夫するしかありません。開かなくなった靴箱は諦めて、別の場所に棚を作り、帰ってくると毎日靴を持って家に上がります。
小次郎は誰が帰ってきても全力で迎えてくれます。ただ、靴をうっかり置き忘れると、それはもう小次郎のおもちゃになっても文句は言えません。
たまに家族が楽しそうにしていると、声で分かるのか玄関から寂しそうな鳴き声が聞こえてきます。玄関に駆けつけるとだいたい他の家族が先にいて、撫でまわされながら小次郎は嬉しそうにしています。
変わった事と変わらない事
毎日の散歩や家族との触れ合いで、日が経つにつれ表情が柔らかくなっていったように思います。こうして生活が180度変わり、散々家族に甘やかされた結果、甘ったれのお散歩大好きワンコになりました。
今や朝晩2回、満足するまでたっぷり毎日お散歩する生活です。お散歩が少し短いとトイレを我慢して帰った後に騒ぎ、再度散歩に連れて行ってもらうという暴挙に出ますなど、今や日々楽しく暮らしています。
すっかり我が家の一員として馴染んだ小次郎ですが、お手が出来ません。引き取った時点で3歳近かったものの、教えたら出来るようになるかとトライしてみたのですが、どうも乱暴にされた記憶があるのか、前足を触ろうとすると怯えて逃げるような仕草をしたので諦めました。
また、散歩中他の犬に向かって激しく吠える事があり、撫でて落ち着かせようとした私の手に怯えてしまうような事もありました。興奮していたせいか叩かれると思ったようで、しばらく落ち着かず何かに怯える様子でした。
我が家にやって来てもう8年が経とうとしていますが、現在もたまにこんな事があります。怖くて寂しかった記憶が未だに残っていると思うと本当に辛くなる一方、こんな記憶を人間が与えてしまった事に申し訳無さを感じます。
考えたくはありませんが、犬の寿命を考えるともうあと数年しか一緒に居られません。せめてその間、心穏やかに安心して過ごせるよう最期まで責任を持って大切に愛情をそそいで暮らしていこうと思います。
まとめ
両親の影響もあり、私自身はペットショップやブリーダーから動物を「購入」することに抵抗があります。しかし、それ自体は責められる事では無く、大切なのはその命に最期まで責任を持つ事だと考えています。 そして出来れば、これから新たな家族を迎えようと考えた時に、ペットショップ等に加え「保護犬や保護猫」という選択肢についても検討してくれる人が、少しでも増えたら良いなと願ってやみません。
保護犬でもそうでなくても、家族になってみれば「うちのコが1番可愛い」のだと思います。