身近なのにあまり知られていないバルトネラ症
バルトネラ症という病名に馴染みがないという方は多いかもしれません。ノミがを介して感染する病気の1つで、犬や猫そして人間にも影響する人畜共通感染症です。
『猫ひっかき病』と言うとピンと来る方も多いかと思います。猫だけでなく犬にも感染し、犬から人間に感染することもあります。
バルトネラ菌は心内膜炎など重篤な症状を引き起こすこともあるので、犬や猫と暮らしている人は予防や診断について知識を持っておくに越したことはありません。
しかし現在のところ、犬のバルトネラ症の標準的な診断テストというのは無いのだそうです。この点について、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校獣医科学の研究者が、現在使用されている複数の診断テストを調査し、その結果を発表しました。
従来のバルトネラ症診断テストと新しい方法を比較
研究チームは血管肉腫を患った犬から採取され検体補完されていた血液と組織サンプルを使って6種の診断テストを実施、その結果を比較しました。結果分析の指標となったのは感度と特異度の2つです。
診断テストの感度というのは、病気に罹っているか否かを正しく識別する割合のことです。
感度が高いというのは、本当は病気に感染しているのに陰性と判断されてしまう偽陰性が少ないことを意味し、見逃される症例が少なくなります。特異度というのは、病気に罹っていない人を正しく陰性と識別する割合のことです。
それぞれの診断テストの結果を分析したところ、臨床獣医師が一般的に使用している診断テストは感度が非常に低く、特異度は中程度でした。
つまり犬が実際にバルトネラ症に感染しているにも関わらず、診断テストで「陰性=罹っていない」という結果が出る可能性が高いということです。
一方、サンプルから特定のDNA分子(この研究ではバルトネラ遺伝子)を検出する定量的ポリメラーゼ連鎖反応という技術を使った場合、感度と特異度の両方で最高の精度で診断できることが発見されました。
この方法は臨床獣医師が日常的に使用するものではないため、将来のバルトネラ症の診断について重要な発見であると研究者は述べています。
犬のバルトネラ症の診断の次の課題
犬のバルトネラ症については、臨床症状も後遺症もまだ研究調査の段階なのだそうです。この研究において精度の高い診断テストが初めて明らかになったことからも分かるように、過去にバルトネラ症に罹っているのに診断されていない犬がたくさんいると考えられます。
犬のバルトネラ症において比較的よく知られている症状は、心臓弁の感染症である心内膜炎です。犬の心内膜炎の15〜30%はバルトネラ感染によるものと推定されているそうです。
またこの研究には血管肉腫の犬の血液サンプルが使用され、90頭分のサンプルのうち56匹分が精度の高いテストで陽性と診断されましたが、バルトネラ感染が血管肉腫に関連しているという他の研究結果もあります。
他にも肝臓やリンパ節の炎症にバルトネラ菌が関連している可能性があります。バルトネラ症を早期に正しく診断することができれば、現在原因不明とされている疾患の早期治療や予防ができる可能性もあります。
またこの研究の結果に基づいて、人間のバルトネラ症検査のテストについて同様の分析を行うことも予定されているそうです。
まとめ
猫ひっかき病という名前で知られていることが多いバルトネラ症について、精度の高い犬の感染診断テスト方法が特定されたという研究結果をご紹介しました。
バルトネラ症はダニを介して感染することもあるそうですが、媒介のメインはノミなのだそうです。基本的なノミダニ対策を行うことの重要性を実感する研究結果とも言えます。
猫ひっかき病と言うと、患部が腫れて炎症を起こしたり発熱する程度の病気(それでも十分に辛いのですが)と思われがちですが、もっと重篤で慢性的な症状につながる可能性もあるということは、ペットと暮らす人が持っておきたい知識です。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-0817/10/7/794/htm
http://jsbac.org/youkoso/bartonella.html