アラスカの永久凍土から出た犬のフンから数百年前の犬の食事内容を分析

アラスカの永久凍土から出た犬のフンから数百年前の犬の食事内容を分析

約1,300〜1,750頃に先住民が住んでいたと考えられているアラスカの遺跡から回収された犬のフンを分析し、当時の犬の食事内容について分かったことがあるそうです。その内容をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

遺跡から発掘された犬に関する出土品

サンプルを扱う考古学者

近年、遺伝子解読や質量分析法などの技術の発達のおかげで、かつてはわからなかった考古学上の証拠の詳細が明らかになる例が増えています。

動物考古学もその例に漏れず、人間との関わりが深い犬についても以前はあまり研究されてきませんでしたが、犬の生活を分析することで人についても色々と分かることもあり、近年は以前より多くの考古学者が研究対象として犬に由来する出土品にも関心を寄せているそうです。

この度、イギリスやデンマーク、ドイツ、カナダなどの研究者らがアラスカ南西部、ユナレク近くにあるユピック族の遺跡の調査発掘中に出土した犬のフンを分析した結果を発表しました。

この遺跡は西暦約1300年から1750年頃にかけて存在していた集落で、出土品には犬に関するものが多く含まれていました。例えば、草を編んで作られたソリ犬用のハーネス、犬の骨、犬の毛、犬についていたと思われるシラミまでが保存されていたのだそうです。出土品は永久凍土の中にあったため、非常に保存状態が良かったそうです。

犬のフンから食事内容を分析

現代のソリ犬たち

回収されたサンプルの中でも、研究者たちが注目したのは凍土の中で冷凍保存されていた犬のフンでした。研究チームは最新の技術を使って、犬のフンからタンパク質を抽出することに成功。様々な分析をし、そのフンが犬のものであることを確かめ、また犬が食べたものに由来すると考えられるタンパク質も見つけたため、その犬たちが食べていたものについても分かりました。

犬の消化酵素に由来すると考えられるタンパク質が認められたことで、それらのフンが犬のものであることが確かめられました。サンプルの糞便が犬の消化器官を通過したものであれば、犬の消化酵素が含まれるからです。

また今回の調査から犬たちがメインに食べていたと考えられるものは、この地方で獲れる数種類のサケ科の魚だということが分かりました。サケ科の魚の筋肉や骨だけではなく、内臓や卵も食べていたと考えられるサンプルもありました。これは、保存食ではない新鮮な魚も食べていたことの証であり、サケが採れる夏は人間が食べない内臓や卵を犬は主に食べていたとする他の研究結果とも一致しているそうです。またサンプルの1つからはイヌ科動物の骨片も見つかっており、犬が噛んだ跡のある犬の骨が見つかったとする過去の研究結果もあることから、犬たちが狼やキツネ、または他の犬といったイヌ科動物をも食べていた可能性も示されるそうです。

アラスカの犬はソリ犬として働く冬の間の食料はほぼ全てを人間から与えられていました。ソリ犬が必要とする食べ物の量は多く、犬の食料の確保は先住民たちの大きな課題であったと考えられています。また、犬たちが食べていたものは人間の食生活との共通点も多いと考えられています。また逆に、夏の間は犬たちは放し飼いにされ、狩りなどで自力で食べ物を調達していた可能性もあるそうです。だからサケが採れる時期である夏は、人間が食べない部分を食べていたのかもしれませんね。

このように犬のフンに含まれるタンパク質を抽出して分析することで、犬を飼っていた人間の生活や、犬と人間の関係性までが推測できるというのは興味深いことですね。

研究結果から一般の飼い主が考えることとは?

サモエドとフードボウル

永久凍土内でタンパク質がどのように保存されるのか不明な部分がまだ多くある、タンパク質がどの動物のものなのかを決定するのに近縁の動物種同士の区別はどうするのかなどの問題はあると研究者らは述べていますが、今回の研究は、永久凍土内に保存されていた昔の動物のフンは、そのフンをした動物と、フンに含まれる食べ物由来のたんぱく質を調べるのに良い研究材料となり得ることを示しているそうです。私たち一般の飼い主にとっては、このように何百年も前の犬の食事内容を分析することで、昔の犬の食生活や共に生活していた人間の生活を垣間見る手がかりが得られるということが興味深いですね。

また、それぞれの犬種の先祖たちが代々食べて来たものは何だったのか?と考えるきっかけにもなるかもしれません。

現存する犬の祖先となったかもしれない犬が北米大陸で多数見られるようになったのは今から1,000年程前と考えられていて、ユピックやイヌイットの人たちの祖先は北米大陸にソリ犬を持ち込んだ最初の人々だと考えられています。今回の研究は約250〜700年前という比較的新しい時代のことではありますが、アラスカなど北極圏でソリ犬として育種されていた犬種は、魚を中心に動物性タンパク質を多く食べて来たことがうかがわれます。

以前の他の研究では、4000〜5000年前のヨーロッパでは犬は肉の他に乳製品や穀類、豆類も食べていたことが明らかになっています。その頃のヨーロッパでは今回調査されたアラスカとは違い農業が行われていました。

https://wanchan.jp/column/detail/18499

愛犬にふさわしい食事を考える時、犬種の先祖が代々食べて来たものは何か?と考えることは大切な要素の1つかもしれません。このような考古学の研究は一般人にはあまり関係のないことと思われがちですが、意外に愛犬のための身近なヒントが隠れているかもしれませんね。

まとめ

雪の上に立つシベリアンハスキー

アラスカの永久凍土から発掘された250〜700年程前の犬のフンからタンパク質を抽出して分析した結果、当時の犬がサケ科の魚を主として食べていたことが示されたという研究結果をご紹介しました。

最新の技術が遠い昔の人々や犬の生活を明らかにしていくというのは興味深いことです。
「オオカミの食生活に近い食べ物が犬にも理想的」というのはドッグフードの広告などで時折見かける言葉ですが、同じ犬でも時代や地域によって多く食べていたものが違っていたのかもしれませんね。

《紹介した論文》
Runge AKW, Hendy J, Richter KK, et al. Palaeoproteomic analyses of dog palaeofaeces reveal a preserved dietary and host digestive proteome. Proc Biol Sci. 2021;288(1954):20210020.
https://doi.org/10.1098/rspb.2021.0020

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