初めての出会い
本格的な夏がやってくる頃、初めてのトリミングのワンちゃんを一軒のお宅に迎えに行った時のことです。
そのお宅のすぐ近くの檻のような場所に、1頭の犬がいました。なんとなく気になってそこを覗き込んだのですが...その檻の中は排泄物で溢れ、その排泄物を必死に食べている1頭のイングリッシュポインターがいました。
体はまるで骨格の標本のようにやせ細り、立ち上がるのもやっとという状態でした。
ご飯は3日に1回
そのお客様もそのワンちゃんのことは気にしている様子で詳しく話をして下さいましたが、その内容に怒りすら覚えてしまいました。そのワンちゃんの飼い主は3日に1回しかご飯を与えず、掃除もせず、散歩にも連れて行かない、とのことです。
「なんのために飼ったんでしょう?」そう尋ねると「この飼い主は血統のいい犬を連れてきては同じことを繰り返しているの」と言われました。ご近所の方たちもこのワンちゃんを心配しているとのこと。ご飯をあげたくても飼い主に文句を言われるので、それもできないそうです。
飼い主に交渉
ここまで聞いていて涙が出てきました。近所の方たちも、どうにかこのワンちゃんを救ってあげられないかと日々、心を痛めているということでした。皆、それぞれに事情があり引き取ることは難しいようでした。
まずは飼い方の改善を求めようと、後日その皆さんと私の友人と飼い主に会いに行き、交渉しました。
- 犬に快適な部屋の改善
- 食餌はきちんと毎日与える
話を聞いていた飼い主は、「自分の犬だ。どう飼おうと勝手だろう」と吐き捨てるように言いました。「面倒くさいんだよ、世話するのが」とまで言ったところで「じゃあ、私に下さい。今の状態は動物虐待と同じですよね」と私がいうと「あ、そう。じゃ、よろしく。勝手に連れてって」との返事でした。
車に飛び乗ったアン
話を済ませるとアンを檻から出したのですが、そんなひどい目に合っていたにもかかわらず、人をまだ信用していたようです。尻尾を振り、最高の笑顔を見せてくれ、そのまますぐ車に飛び乗りました。
実はアンには最初の名前がありました。「はな」という名前でしたが、つらい記憶を少しでもなくしたくて名前を「アン」に変えました。実際、「はな」と呼んでも反応なしで「アン」と呼ぶと尻尾を振り答えてくれました。
今では先住犬達と仲良く暮らしています。
シニア期を迎え寝ていることも多いのですが、アンを引き取って本当によかったと思っています。アンのような不幸な犬達を増やさないために命の大切さを伝えられたらと思います。