子犬が我が家へやってきた
りんとの出会い
りんが我が家にやってきたのは、私が中学1年生の時です。
「犬を保護してるんだけど、よかったら飼ってくれないかな?」 当時、習っていたピアノの先生から連絡が入りました。
玄関の外に、子犬が2匹いて誰かが置いていったかもしれない。先生は犬を飼っており、犬が走りまわれるように芝生の広い庭があります。犬が出られないように柵で仕切ってあるため、勝手に子犬が入ってくることは考えにくいとのこと。すでに犬を飼っているため、子犬を飼うことは難しいので動物が好きな私と姉のことを知っていた先生が連絡をくれました。
毛の色や柄は違っていましたが、この2匹はきっと兄弟だったと思います。姉が『りん』と『ろん』という名前をつけました。クリーム色の女の子の『りん』は我が家で、白くて茶色のブチがある男の子は、いとこの家に引き取ってもらうことになりました。
りんとの生活
頼もしい番犬
子犬の時期はあっという間に過ぎ、すっかり大人になったりんは大変警戒心が強く、プライドの高い性格になっていました。初対面の人には必ずと言っていいほど100%の確率で吠えます。
我が家は駅が近いため、朝から夜遅くまで前面道路を通る人がいます。また、自転車を何度か盗まれたことがあったため、りんは家の入口の誰がきたのかすぐわかる車庫のとなりで家を守ってもらうことになりました。なんとも頼もしい番犬りんの誕生です。
ある日、りんの元に近寄る人がいました。声をかけると不審者でもドロボーでもなく、ご近所さんでした。「いつも前の道を通るたびに、しっぽを振ってくれてね、よくおやつをあげていたの。勝手にあげちゃってごめんなさいね」と、笑顔のおばあちゃん。
正直、驚きました。警戒心が大変強いので家族以外には心を開かないと思っていたりんが、近所の人からおやつをもらっていたなんて。そして、母から聞く話によると、その方だけではなく、何人かいたそうです。知らない間に、ご近所さんから愛されるおやつ好きの番犬になっていました。
りんと過ごした日々
学校から帰ると、りんが尻尾を振って喜んでくれます。その姿がたまらなくかわいくて、家に帰るのが楽しみでした。それから、りんの大好きな散歩へ毎日行きました。
悩みの話はりんに聞いてもらいます。私が泣いていると傍へ寄ってきてくれて慰めてくれたり、言葉は通じなくても心が通じるのだと感じました。
時が経ち、私が大人になっても、いつもりんと一緒でした。仕事が休みの日には、りんを車に乗せて公園に遊びにいきました。
りんは車に乗ることが大好きでした。窓をすこしあけて鼻先を少しだけ外へ出すのがお決まりでした。
おばあちゃんになったりん
人間よりも早く歳をとる
りんがいる毎日が普通のことであり、りんが居ることが当たり前でした。でも、犬は人間より歳をとるのが早いのです。
大好きな散歩も変わりました。リードを引っ張るように走っていたりんが、少しずつ走る速度が遅くなり、そのうち走ることがなくなり、歩くようになり、わたしの後をトボトボついて歩くようになりました。
散歩へ行く以外は、ほとんど寝てばかり過ごすようになりました。
犬でもなる認知症
りんは15歳。人間でいうと80歳のおばあちゃんです。 高齢になり、室内で飼うようになったりんに、少しずつですがいつもと違う変化がありました。
- 元々ごはんを欲しがらなかったのにご飯を食べたがる
- ぐるぐると同じ方向へ歩いて回りだす
- 狭いところに頭を突っ込み身動きが取れず出られなくなる
- 夜泣きをするようになる
この頃から、りんには見守りが必要になり、長時間家を留守にすることが出来なくなりました。
介護生活
しばらくすると、自分の足で立ち、歩くことができなくなりました。 大好きな散歩もいけません。
トイレは、したくなると手や足をバタバタと動かし、鳴き始めます。
おしっこやうんちが出ると落ち着きますが、出るまでにかなり手や足を動かすので、おしっこシートがずれてりんの体じゅうベタベタになってしまうこともよくありました。 寝たきりになったことで、筋力が落ち、食事量も減り、痩せたりんの体には床ずれができてしまいました。
また、なにかのスイッチが入ると首にものすごい力が入り硬直してしまうため、体の向きを定期的に変え、負荷がかかる部位にはクッションをあててあげました。 ご飯は、抱っこして体と頭を支えながら口元にご飯をもっていかないと、食べられませんでした。
日に日に変わっていくりんを見て「りんのためになにかしてあげたい」と思いました。体は思うように動かず不自由だけれど、心はなにも変わってないはず。
私はホームセンタでパイプを購入し、つなぎ合わせ約1日かけて歩行器を製作しました。散歩が好きだったりんは、きっと散歩へいきたいはずだと。少しでもお日様の光に当たり、外の空気を吸って、昔のように走り回っていた感覚を味わってもらえたらと思いました。
寝てばかりのりんを一日の数分の間だけ、何回かにわけて歩行器に乗せてあげました。飼い主の自己満かもしれませんが、なんとなく喜んでいたように感じます。
暑い日には水浴びをしたり、天気がいい日には庭で日向ぼっこりをしたり。
土の匂い、草花の匂い、太陽の光、風。自然を感じられるよう、時々外へ連れていってあげました。
まとめ
天国へ行ったりん
寝たきりになって約1年半が経った夏、りんは17歳で眠るように息をひきとりました。もっといい方法があったのではないか、他にしてあげられることはなかったのだろうかと色々考えてしまいますが、りんのお世話をすることで感じたことがあります。
介護の日々があったからこそ、りんと深く向き合う時間ができました。一緒に過ごす時間が増えました。
心の苦しみや悲しみ、体の痛みに解放され、天国では自由に走りまわってほしいなと思います。 本当に最後の最後までよく頑張ってくれました。 一生懸命生き抜いたりんの姿は、一生忘れることはありません。りん、ありがとう。
飼い主がしてあげられること
犬は私たち人間より、早く歳をとります。寿命も人間よりも短いのです。 だからこそ、気持ちよく幸せな時間を過ごしてほしい。飼い主のみなさんは、きっとそう願っていると思います。
「犬の幸せとはなにか?」を考えたとき、それは「飼い主と過ごす時間」なのではないしょうか。 今日も明日も明後日も、毎日、あなたの帰りを待っています。