犬好きとなった原点
私は幼い頃から犬と暮らしてきました。物心がついた頃にはすでに家には犬と猫がいました。
私が19才で一人暮らしを始めるまでの間、ずっと犬たちと暮らしました。
その後、結婚を期にまた犬を飼うことになり、1頭の中型ミックス犬と暮らし始めます。
その後に2頭目として、ジャーマンシェパードを迎えることになりました。
ある日、妻が2頭の散歩を行っている時、不運が重なって我が家のジャーマンシェパードが人に怪我をさせてしまうという事件が起きてしまいました。
我が家の犬がいつもの散歩で会う苦手な犬に、ふいに至近距離で対面してしまいました。
とっさに攻撃に出たところ、間に入った相手の飼主の足に犬の歯が当たり、数針を縫う怪我をさせてしまったのです。
すぐさま、相手の家に謝罪に行き、治療費などの支払いを約束して、心からお詫びもしました。
今でもこの事件の事は忘れません。
犬のプロフェッショナルとの出会い
その事件の後、私は「このような事は二度と繰り返してはならん!」と強く決心し、すぐに近所の訓練所を探し始めました。
たまたま近所に、古くから続く警察犬訓練所を見つけ、迷わず犬のしつけを相談することに。
すると一級警察犬訓練士の先生が我が家に訪問して、犬の様子を確認してくれることになりました。
以前から、我が家の先住犬である中型ミックス犬にも子供を怖がる行動があり、子供達が近くを通ると飛びついてしまうという問題がありました。
先生は、すぐさまその事に気付き、犬のリードを持って、あえてそばにいた子供たちの輪の中に入り、次の瞬間、先生は犬に号令を出しました。
「スワレ!」
すると、いつもなら子供たちに向かっていくはずの犬が、落ち着いて座っているではありませんか!
しかも、犬は先生の顔をジーッと見つめて集中しています。
犬は先生と共に私達の元へと戻ってきました。
これは、リードを持つ人が変わると、犬の行動は180度変わることの証明でした。
このことで、私はハッキリと気付かされました。
「犬に問題があるのではなく、問題は飼主にある」のだと。
その後、私達は迷うことなく、先生に指導をお願いしました。
訓練所では基本的な服従訓練から教わります。
飼主が犬に対して、どうやって意思を伝えるかといった基本中の基本を数年かけて教わり、その後、練度が上がるに連れてアジリティーなどの障害物なども教わりました。
犬との絆を感じた日
それはある日突然に起こりました。
訓練士の先生の元で教わり始めて3年目の事です。
朝の散歩で我が家のジャーマンシェパードと歩いている時の事。
当時の私は、訓練を受ける前のように犬に引っ張られる事もなくなり、犬が興奮してもコントロールできる最低限のスキルが身についていました。
何気なく犬と歩いていると、ふと、犬を連れている感覚がない事に気づきます。私は一瞬「あれ?犬がいない?!」と驚き、犬がいたとこを見ました。
しかし、そこにはちゃんと犬がいて、私の真横について歩いているのです。
リードは肩から掛けていて、常に弛んだ状態。私が止まれば犬も止まり、私が歩けば犬も歩き出す。私が曲がれば犬も自然と付いてくる。
私はこの時、一切の指示や号令を出していません。犬は自然に歩きながら私に身を委ねてくれています。
まさに、犬と心が一体になっているような感覚に包まれました。
心は穏やかで、気持ちはニュートラルな状態。お互いに同じ精神状態であることを強く感じたのです。
今この瞬間を生きていることへの実感と、犬と一体になることでの充実感と安心感に包まれました。人馬一体ならず人犬一体です。
私はとても感動し、今でもこの時の事を鮮明に記憶しています。
この事があってから私は何かに取り憑かれたかのように、犬学の勉強を始めます。
とにかく、もっと犬の事を知りたくなったのです。
毎日のように書物を漁り勉強をしながら、訓練所で訓練を教わりました。
犬たちの練度は上がり、私も知識と技術が高まってくると、お互いに笑顔が増えてきました。
犬の專門家になる
最初に訓練所で教わり始めてから5年の月日が流れまていました。
私はそれなりに、犬を扱う技術と知識が身についていたので、そこで軽い気持ちでドッグトレーナーの資格を取ろうと思い立ちます。
早速、資格を発行する団体を見つけて資格取得のチャレンジすることに。
通常6ヶ月のコースを4ヶ月で修了して、晴れてドッグトレーナーの資格を取得しました。
これには訓練所で教わった事が多いに役立ちました。
その後も勉強と訓練所での実技訓練を続けているうちに、知人が飼っている犬の問題行動の相談を受けるようになりました。
試しにカウンセリングに行ってみると、いとも簡単に問題が解決できてしまいます。
今思えば、これはきっとビギナーズ・ラックだったのかもしれませんね。
そして好調な滑り出しから、勢いに乗った私は、保護団体でお手伝いする機会を得て、専属のドッグトレーナーとなります。
自身でも保護犬をトレーニングして、里親さまに繋ぐ活動を始めました。
ここでは多くの問題を抱えた犬や飼主さんと接する機会がありました。
この時から、ドッグビヘイビアリストとしての意識が高まります。
ドッグビヘイビアリストの活動は、問題行動にどのようにアプローチして、行動を望ましい方向に変えるのかが主眼となります。
つまり、犬と飼主が互いの問題を克服し、強い絆を結んで幸せを感じてもらうのが私の任務です。
そんな活動を通じて、私が感じた犬との絆を、他の飼主さんにも味わって欲しいという想いに駆り立てられました。
その方法論を科学的な見地と経験から構築さるべく、こうしてドッグビヘイビアリストとしての本格的な活動が始まりました。
犬が好きでドッグトレーナーになりたい方へ
実際に專門家となって活動を始めると、色々な案件に遭遇します。
本気で人を襲ってくる犬、恐怖の余りパニックになって飼主を襲う犬、ひたすら怯えて過ごす犬など、犬の性格が様々なように、犬の問題行動も多様にあります。
どの問題も正しく対処する事ができれば、その多くは解決に向かいます。
しかし、これからドッグトレーナーやドッグビヘイビアリストになりたいと考えている方は、犬に本気で襲われることへの覚悟をしておかないとなりません。
相手が小型犬であれば、大怪我になることは滅多にないかと思います。
しかし、相手が体重30kgを超える大型犬となれば、こちらも命の危険に晒されることになります。
「フフフ、本気で怖いですよ」
とだけ言っておきましょう。
ひょっとしたら、飼主さまは「この人は專門家なのだから熊に襲われても平気でしょ」くらいに感じているかもしれません。
いやいや、本気で怖いですから!
とは言え、犬に噛まれるのも慣れてくると平気になってきます。
今年は自分の脛の肉を犬に引きちぎられました(笑)。とても痛かったです。
でも不思議と、足から血を流しながらもその犬のリードを持って散歩にも行けるようになります。
むしろ噛まれたことで脳が覚醒し、冷静になる自分すらあります。もはやここまで来ると変態の領域ですね。
犬がこちらを睨んで唸りながら威嚇している姿を見ると、愛おしくも感じます。
一生懸命に私を睨んで唸りながらメッセージを送っている犬を見て「可愛い」とも思えるようになりました。
ドッグトレーナーになりたい方は、こうした問題を持った犬に対しても愛おしさを持てるようにならないと、問題の解決に導けないかも知れません。変態?を目指して頑張ってくださいね。
まだまだ道のりは長い
我が家のジャーマンシェパードが人を噛んだ事件がなかったら、私は專門家になることはなかったでしょう。
この事件が全てのきっかけとなり今に繋がっています。
私はドッグトレーナーになったことに満足せずに、更に高度な知識と技術が必要な『ドッグビヘイビアリスト』へと進みました。
今は、その質を高めるべく、更なる勉強を続けています。
全ては、犬と強く繋がりたいという気持ちがあってこそです。
私たちヒトは、その優秀な能力を発揮して学習を積めば、犬の気持ちを少しだけ理解することができます。
それをきっかけにして、犬との心の繋がりを強めていくことで、愛犬と素晴らしい関係を築くことができるのです。
そこにはテレパシーのような非科学的な方法は必要ありません。
犬の事を正しく知り、目の前の犬と正直な気持ちで向き合うことが大切だと感じています。
ひとつの出来事が私の人生を大きく変えました。
それが良かったか悪かったか、もっと時間が経てば、その答えが見えてくるでしょう。
しかし、今は犬と心をぶつけながら向き合える自分が好きです。
やはり、これは抜けだせそうもありませんね。