人間はなぜ犬の祖先であるオオカミを飼いならすことができたのか?
人間が一番初めに家畜化した動物である犬。その歴史については数多くの研究が発表されていますが、未だ解明されていない点もたくさんあります。
初期の人類がオオカミを飼いならして人間にとって役に立つ個体を選択して、犬を作り上げていった理由や動機はとても分かりやすいものです。全ての人類が狩猟民であった時代には犬は狩猟における最高の相棒でした。番犬としての役割の大きさも現代の比ではなかったでしょう。ソリを引いて荷物の運搬を手伝うこともあったでしょう。
しかし、これらは全て家畜化が完了した時点でのメリットです。そもそもオオカミの餌食になりかねない人間が彼らを飼いならしたきっかけはどのようなものであったのかは未知のままです。
この点についてフィンランド食品局の主任研究員が、フィンランドのヘルシンキ大学、イギリスのダラム大学の歴史学、地球科学、考古学などの研究者の協力を得て新しい理論を発表しました。
雑食性の人間にとっての肉
研究者は元々は犬ではなく、北極圏における古代狩猟採集民の食事の研究をしていました。約2万年から1万5000年前の極寒の環境では人間の食物の大部分は狩猟によって得た動物性タンパク質でした。この時代の人間の獲物は野生の馬やトナカイでほとんど脂肪を付けていませんでした。栄養不足はタンパク質の不足よりも脂肪や炭水化物の欠如によって起こったそうです。
人間は雑食性の生き物ですから、肉=タンパク質を過剰に摂取すると消化しきれずに下痢を起こし、タンパク質中毒によって命を落とすことさえあります。古代においては非常に短期間で致命的な事態となる可能性もあったと研究者は述べています。研究者は化石の記録からこの時代の北極圏および亜北極圏の人々は安全に消費できるよりもはるかに多くの獲物=タンパク質を、狩猟によって得ていたと計算しています。
犬の家畜化は食料の共有から始まった可能性
食べ切れない過剰な肉をオオカミ(後の犬)に分け与えることは、人間にとって何の不都合もなかったと思われます。オオカミの幼体を手元に置くことは防寒の目的もあったのかもしれません(寒い夜に犬や猫を抱いて寝ると暖かいですから)
食料を共有することで人間とオオカミは同じ獲物を巡って対立する競争相手ではなく協力者となります。それはお互いの安全を高め、協力し合うことで効率良く狩りができることを意味します。
このように食料を分け与えられ共に生活するうちに、オオカミの子孫はより従順になり家畜化されて犬になったのではないかというのが、この研究チームが発表した理論です。
犬の家畜化がこのように生態学的に説明されるのは初めてのことだそうです。最も初期の旧石器時代の犬は主に当時の極寒の地で発見されているので、この理論は地理的にも理に適っているそうです。
まとめ
氷河期の北極圏および亜北極圏で生活していた人間が、食べ切れなかった狩猟の獲物の肉をオオカミに分け与えたことが、犬の家畜化の最初にきっかけではないかという理論をご紹介しました。
この地の気候がもっと温暖であれば、犬の家畜化はもっと後のことになっていたのかもしれないですね。生きるためのパートナーとしての人間と犬の関係の始まりを見たようで、非常に興味深い研究だと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-78214-4