殺処分を待つ犬や猫を引き取っている特別養護老人ホーム
神奈川県横須賀市にある、特別養護老人ホーム「さくらの里山科(やましな)」では、殺処分されそうな犬や猫を引き取っています。
2012年4月の開設時から引き取りを始めて、今では犬6匹、猫8匹と入居者40人が一緒に生活をしています。
この施設では高齢や病気などが理由で引き取り手が見つかりにくい動物を、優先的に引き取ることにしており、これまでに犬3匹、猫2匹を看取ってきました。
入居者や職員が最期まで見守り、献花台やお墓なども設置されています。
アニマルセラピーの効果
ペット達と入居者が一緒に過ごすことで、アニマルセラピーの効果もあります。動物を通した癒やしで、心が落ち着いたりストレスが軽減したりする効果があるのです。
長期に渡って施設で生活されている高齢者は、ペット達とふれあうことで会話や笑顔が増えるなど、アニマルセラピーの効果は高く評価されています。
実際に施設で生活している入居者の中には、ペット達と過ごすことで徘徊や認知症が改善したという方もいます。
心の支えとなっている動物達
入居者の一人である小原(こはら)勇さん(90)は肺に水がたまり全身が衰弱し、最後の時を施設で過ごすつもりでいました。
ところが犬の「あらし」と過ごすうちに食欲が出て、症状も改善しました。あらしのことを気にかけており、見舞いにくる娘の裕子さんに「あらしに餌をやってくれ」と頼みます。小原さんにとって、あらしは心の支えとなっています。
ペットを飼うということ
現在、保健所が引き取る犬や猫は全国で約17万匹、そのうち約12万匹が殺処分になっていると言われています。保健所が犬を引き取る約3割の理由は「飼い主が高齢などによる病気・死亡」です。
犬や猫を飼うときには約20年は飼うことを想定しておかなければなりません。高齢者が犬猫を飼った場合、体の衰えから世話ができなくなったり、ペットよりも先に飼い主が亡くなってしまうことも考えられます。
そうなった場合、親族が残されたペットを面倒を見ることができずに保健所へ持ち込むことも少なくありません。
施設で飼育するというスタイル
そんな今、「さくらの里山科」のように殺処分されそうなペットを引き取り、高齢者と生活させるという試みは、新しいペット飼育のスタイルになるのではないでしょうか。
まだまだこういった試みをする施設は少ないかと思いますが、今後アニマルセラピーの効果などの成功例が増えれば、当たり前になるかもしれません。
約3割のペットを救う
しかし、高齢者がペットを飼う場合には周囲の助けが必要であることに変わりはありません。個人で飼う場合、施設で飼う場合、どちらにしても支援が必要でしょう。地域のボランティアはもちろん、都道府県、市町村による支援も欲しいですね。
- 犬や猫の避妊手術への補助金
- しつけ指導
- 災害用ケージやペットフードの備蓄
- 様子を定期的にチェック
などといった対策を取る自治体もあります。
支援が進むことで、保健所が引き取る約3割の犬や猫が助けられるのです。
高齢化社会の問題のひとつとして目を向けてほしいと思います。
まとめ
今回は特別養護老人ホーム「さくらの里山科」の犬猫の引き取り事例を紹介しました。
全国には他にも、いくつかのペットと暮らせる老人ホームが存在しています。
しかし、殺処分されそうなペットを引き取っている施設はまだまだ少ないようです。入居者のペットを受け入れる、という形をとっている施設が多いようです。
ペットと共に過ごす影響
殺処分されそうなペットを引き取ることは、高齢者にとっても良い影響をもたらします。生活の中にペットがいるだけで、生活にはりが出て生きる気力が湧いてくるのです。
また、日本アニマルセラピー協会では高齢者や体の不自由な方の施設や刑務所などを訪れ、人々に癒やしを届ける活動を行っています。それだけアニマルセラピーが心に癒やしをもたらす効果があるからでしょう。
問題点と改善策
しかし問題もいくつかあります。
介護職員の人数が少ない場合、ペット達の世話にまで手がまわりません。また予算に余裕がなくペットフードが足りない、といった問題があります。
「さくらの里山科」ではボランティアの方々が散歩などを行っているようですが、すべての施設でそういった活動が行われるわけではありません。
地域の方々による支えがあれば、ペットを受け入れる施設も増えることでしょう。また、地域の方々と交流できるかもしれません。
ペットと高齢者、共に充実した生活が送れることが一番です。そのためにもペットの殺処分の問題や、高齢化社会のありかたについて考え、何が解決策につながるのかを導き出していかなければなりませんね。