犬に感情的な不安を与えたことで動物虐待として有罪判決
2019年8月、カナダのノバスコシア州で動物虐待についての画期的な判決が下されました。動物虐待と言えば、暴力で動物の身体を傷つけたり、飼育を放棄して健康状態を損なうネグレクトなどが一般的に認識されているものです。これらのケースでは動物の怪我や健康状態そのものが物的な証拠となります。しかし前述のノバスコシア州のケースにはこのような物的な証拠はありませんでした。
判決の内容は、31歳の男性が飼っているシベリアンハスキーを何度もリードで叩いたことで、犬に過度な不安を引き起こしたと判断され、動物虐待罪の有罪判決を受けたというものです。犬にはリードで叩かれたことによる身体的な怪我はありませんでした。裁判官は何をもって、この男性の行動を動物虐待であると認めたのでしょうか?
虐待とみなされた内容と判決
裁判で争点となった行動は2018年10月に起こりました。飼い主の男性がシベリアンハスキーのソフィーを散歩に連れて行き、手に飲み物を持ってアパートの建物に入ってきました。その時に男性は飲み物こぼしてしまい、その後ソフィーのリードを激しく引っ張り、そのリードでソフィーの顔を鞭打つように叩き始めました。この行動はアパートの防犯カメラに記録されており、動物虐待防止協会に渡されました。同協会は男性を起訴し、ソフィーは協会によって押収されました。
ソフィーの身体には叩かれたことによる怪我はありませんでしたが、リードで叩かれている間、ソフィーは萎縮して尻尾を足の間に入れ、耳を後ろに倒し飼い主から逃げようとしていました。証人として召喚された動物行動学の専門家はビデオに記録されていたソフィーのボディランゲージと行動が、恐怖、不安、身体的不快感を覚えていると証言し、ソフィーがこの人物の飼育下に置いておかれた場合にはその苦痛が継続するという科学的な根拠を示しました。
ビデオと専門家の証言が決め手となって、男性は動物虐待の罪で有罪の判決を受けました。この男性は3年間動物を飼うことを禁止され、1000ドルの罰金が科されました。ソフィーは動物虐待防止協会を通じて、新しい家族のもとに引き取られました。
最新の科学的研究と動物福祉モデルに基づいた判決
身体的な危害だけでなく、動物に加えられた感情的な危害に基づいた動物虐待の有罪判決は、ノバスコシア州では初めてのことでしたがカナダ全体ではすでに数例の有罪判決が下されています。これらの判決は、動物の感情についての科学的な研究と動物福祉モデルの最新の情報に基づいています。
動物福祉モデルには5つの領域があり、動物が苦痛を感じているかどうかを評価する際にそれぞれの領域について考査されます。その5つとは、栄養、環境、健康、行動、精神です。最初の4つは目に見える物理的なものなので分かりやすいですが、最後の「精神」は今回のソフィーのような例や、身体的な危害はないけれど怒鳴るなど脅迫的な行動で動物に恐怖やパニックを与えることなどが、この領域の苦痛に当たります。
犬のトレーニング中などはともすれば、この精神の領域で犬に苦痛を与える事態が発生する可能性があります。
カナダの判例というと遠い世界の話のように感じられますが、怪我や飢餓など健康に害を及ぼすことだけが動物虐待ではないということを多くの人に知っていただきたいと思います。
まとめ
犬に感情的な不安を引き起こしたことで、動物虐待罪で有罪判決を受けたカナダの事例をご紹介しました。動物の虐待には身体的な危害の他に感情的、精神的な苦痛も含まれるという認識は、動物を虐待から守るための重要なステップと言えます。最新の科学的研究に基づいた、このような判例が世界中で増えて行くこと、そして何より動物虐待のない世の中になっていくことを願ってやみません。
《参考URL》
https://www.cbc.ca/news/canada/nova-scotia/animal-cruelty-conviction-dog-abuse-spca-1.5252331
https://www.psychologytoday.com/us/blog/fellow-creatures/201908/the-role-emotional-harm-in-animal-cruelty