犬という動物は人間のために様々な働きをします。犬のもつ特別な才能を見抜いて、様々な用途に使われようにいわゆる「使役犬」が作られました。今日の話の災害救助犬も、そのような使役犬のひとつです。
使役犬というのは、人間のために利用される犬です。昔からの狩りを手伝う猟犬、そりを引くそり犬、牧場で羊などを管理する牧羊犬、軍の仕事のために訓練された軍用犬などがあります。災害救助犬もそのひとつですが、そのほあにも、次のような種類があります。
探知犬
犬の鋭い嗅覚を利用して特定な用途に活用します。よく知られている「麻薬探知犬」は文字通り麻薬の密輸を防ぐ仕事、「爆発物探知犬」や「地雷探知犬」なとは爆発物を見つける仕事をします。犯人の追跡、逮捕に活躍する「警察犬」もこの部類の使役犬です。あまり知られてはいませんが、ガンの早期発見に使われる「ガン探知犬」まであります。
今日お話しする「災害救助犬」も、捜索救難活動に参加して、被災者の捜索や救助を支援する探知犬のひとつです。
人間の生活を支援する犬
これには目の見えない人たちのために活躍する「盲導犬」、耳が不自由な人たちの助けになる「聴導犬」、体の不自由な人のための「介助犬」などが有名です。
それでは、本題の「災害救助犬」についてお話しします。
災害救助犬とは
最初のおことわりしておきますが、世界では当たり前の災害救助犬という頼もしい存在も、警察犬や盲導犬ほど 日本ではまだまだ浸透していません。災害現場で倒壊した家屋は土砂に埋まった人を、人間の数万倍といわれる鋭い嗅覚で迅速に探り当てるために訓練された犬です。
無差別に選んだときは、100頭の犬の中に、8頭ぐらいの犬が救助犬に適していると見られます。この8頭の中でも完璧な救助犬になれるのは、4頭ぐらいです。ですから、成功率は4%ぐらいです。
災害救助犬の歴史
ヨーロッパでは古くから災害救助に牧羊犬を使っていたという歴史があって、早くから災害救助犬の育成を行っています。山岳救助に犬を使っていた事から、スイスは災害救助犬の始まった国だと言われています。スイスでは陸軍が災害救助犬の育成を担当しているそうです。
日本の災害救助犬は
前に書いたように、日本では災害救助犬に対する理解がまだまだ不足しており、行政による支援が待たれています。地震や台風など自然災害の多い日本では、こうした災害救助犬のニーズは早くから指摘されており、さまざまな団体が犬の育成に当たっています。中でも、「国際救助犬連盟(IRO)」に日本から唯一加盟している「救助犬訓練士協会(RDTA)」は、IROの基準に基づく救助犬の資格試験を実施しており、2008年から日本財団がRDTAの活動に対して継続的に助成を行っています。
また、東日本大震災の発生で災害救助犬の必要性が改めて再確認されたことから、日本財団は長野県富士見町に世界に通用する救助犬とトレーナーを育成するための大規模なトレーニング施設「RDTA八ヶ岳国際救助犬育成センター」の整備を支援しています。
このように、徐々にではありますが、災害救助犬の育成とトレーナーの養成がようやく動き出しています。
災害救助犬に向いた犬種
ジャーマン・シェパードやラブラドール・レトリバーなどが、災害救助犬として多く活躍しています。だが、これらの犬種に限られていることはなく、どのような犬でも災害救助犬になることができます。大型犬が入り込めないような隙間に入り込んでの捜索には、むしろ中、小型犬などが望ましい時もあるからです。
嗅覚のこと:警察犬との違い
嗅覚といえば、警察犬もそれをフルに働かせて犯人逮捕に協力しますが、災害救助犬とは使い方が違います。面白いことに、警察犬は嗅覚を下へ向けて働かせ、犯人の臭いを嗅ぎつけますが、災害救助犬は上へ向いけて働かせて空中の臭いを嗅ぎ分けます。災害の現場では、特定の人間を探すのではなく、人間の臭いが広がる空間を嗅ぎ分けるという、特殊な訓練を受けています。
災害救助犬の訓練
災害救助犬を育てるには、犬が若いうちに訓練を始めます。それでは、災害救助犬はどんな訓練を受けて実地の活動に入るのでしょうか。
クリープ(はう)して進む訓練
クリープ、つまり「ふせ」の状態のままジリジリと前進することを覚えます。ガレキなどの間の隙間に入り込んで搜索するときの動きです。
障害物
災害現場では様々な障害があると予想されますから、災害救助にあたる犬は、日頃から階段、スロープ、シーソーなどを使って不安定な場所に慣れることで、恐怖心を取り除く訓練を受けます。
遠隔操作
これは遠くから、「前へ」の指示で前進、「右へ」で右、「左へ」で左と指示通りに動くように訓練されます。とても高度な服従訓練で広い範囲の捜索の際にも必要になる技術です。
ガレキ捜索
実際に倒壊したビルなどを想定し、現場と同じ状況下での捜索訓練をします。足場の悪い中を、犬は嗅覚だけを頼りに捜索します。
土砂捜索
実際に土の中に人が埋まって行う、土砂くずれや土石流災害を想定した捜索訓練です。土砂は密度が高く臭いが出にくい環境だから、あえてこのような訓練を実施することが重要になります。
水難捜索
水難捜索落水者や溺れている人を救助する訓練です。浮き輪などを要救助者のもとへ運び、安全な場所まで引っ張ってくる訓練をしています。毎年、天神祭の水難パトロールにも参加しています。
雪難捜索
雪崩(なだれ)や雪山での行方不明者を捜索する訓練です。雪に埋まっていたり、倒れている捜索対象者に反応させる訓練です。
ホイスト
ヘリコプターから降下する状況を想定した訓練です。車で入れない所への出動やヘリコプターでの緊急出動時に必要になるからです。
災害救助の実際
使役犬のこと
現場の災害救助犬は、実際どんな作業をするのか、災害現場と山の行方不明者の搜査の場合と、それぞれシミュレーションを考えてみました。状況はさまざまですが、概ねこのような場面が想像できます:
災害現場
ます選ばれる救助犬は3頭、それぞれハンドラーがついて、隊長が指示を与えます。1チーム4名、犬3頭という構成です。
3頭のうち1〜2頭が捜索をして残りの犬が待機します。担当の犬が捜索していないハンドラーは隊長とともに捜索中の犬を観察します。1頭が行方不明者発見の反応を示したら、すぐ同じ場所にもう1頭を向かわせて確認させます。2頭目の反応が明確でなかったら、3頭目を向かわせて確認させます。つまり、2頭が同じ場所で発見の反応をしたら、その場所に行方不明者がいる確率は高い、と判断して、消防・警察・自衛隊などの救助隊にその位置を知らせ、救助作業を要請します。
山の行方不明者の搜索
山での行方不明者の捜索には、ひとつの登山道を災害救助犬で受け持つとして、犬が数頭いれば偵察班と確認班に分けます。殆ど場合、山では道に迷ったか、滑落したかのどちらかで、登山道沿いにいることはなく、捜索範囲の見当がつけにくく広範囲な捜索になることが多い。そのために偵察班は先に行って、人の臭いがあるか「軽く浅く」探索、何らかの臭いを感じた様子を犬が示したら、とりあえず近くの木にテープを巻くなど、目印をつけて先に進みます。確認班は印のない場所は通過して、印の付いている場所だけを深く詳しく捜索する、という具合です。救助犬の頭数が少なければ、往路は偵察に留めて、復路に確認をするなど、犬のスタミナの消耗を防ぎながら捜索をしなければなりません。
どちらも、使っている災害救助犬、ハンドラーの能力、人数を勘案しながら隊長が最良の方法を判断して作業を行うことになります。
まとめ
ハルクと夢之丞(ゆめのすけ)のお話しを書くスペースがなくなったのが殘念です。とくに藥殺を逃れて救助犬になって広島の土砂災害で活躍するした夢之丞(ゆめのすけ)の物語は胸を打ちます。使役犬、数あるなかで、災害救助犬への意識がいまいちの日本ですが、夢之丞(ゆめのすけ)のような犬の存在が人々の思いをふくらませてくれるように、祈ります。