出会い
保護犬のイメージ
保護犬の出自は様々です。
- パピーミルでただひたすら繁殖のために生かされていた子
- ペットショップで衝動買いされ、飼い主の勝手な都合で捨てられてしまった子
- 高齢で病気にかかり、治療をしてもらえず、捨てられてしまう子
家庭犬として愛されて生活していた子もいますが、過酷な飼育環境で生活していた子のほうがずっと多いようです。そのためか未だに「保護犬」というと持病を抱えた子、家庭犬として迎え入れることに困難を伴う子というイメージが強い気がします。
狩猟犬の捨てられ方
我が家の愛犬は「ポインター」という狩猟犬です。野生のキジやカモを見つけると飼い主であるハンターに場所を教える鳥獣猟犬です。狩猟犬種が捨てられる理由は、次のようなパターンが多いそうです。
- 趣味で狩猟をやっている人が、猟期限りの「使い捨て」としてブリーダーから購入
- 猟期が終わると山に捨てていく
- 次の猟期には新しい犬を購入し、猟期がおわればまた捨てる
ポインターは俊足で、スタミナもあります。それゆえに、捨てる際には追いかけてこないよう、骨折させたり、木にひもで縛ったりすることもあるそうです。鳥によく反応するよう、狩猟前にあえて飢えさせる飼い主もいると聞きます。
我が家の愛犬も多分に漏れず、千葉県の山の麓を放浪している時に地元の愛護センターに捕獲されたそうです。ガリガリにやせ細った体には、赤い首輪がしっかりとついていたそうです。運よく鳥獣猟犬を専門に保護する団体に救出され、殺処分を免れることができました。
ワンどころか、鳴き声ひとつあげないおとなしい子で、シェルターの生活にもすぐ順応したそうです。代表の方は当時、おとなしすぎて心配だったと言っていました。
ボランティア団体との出会い
子どもの頃に初めて飼育した犬がポインターでした。父が趣味で猟をやっていたので、実猟犬でした。持久力と機敏さを備えたアスリートの側面はよく理解していました。そして猟を離れれば、おちゃめでフレンドリーな犬種であることも知っていました。14年の天寿を全うした以前の愛犬が忘れられず、2度と犬は飼えないと思っていました。ただ、もし飼うなら絶対ポインターでなくては嫌だ、とも思っていました。
しかし我が家には当時、既に保護猫が3匹いました。小さな動物に反応するポインターと猫は相性が悪いのです。そして、運動量が必要とされるアクティブな犬種であるポインターを都会のど真ん中で、しかも共働き世帯で飼うことなんてできないと諦めていました。でももう一度ポインターに触れたい、とネットでポインターを検索していたら、鳥獣猟犬を専門に保護する団体をみつけました。悩んだ末、短期のボランティアに申し込みました。
そこで見た犬たちは私の想像を超えていました。お散歩時「走らない」のです。もちろんグイグイ引く子もいましたが、住宅街をポインターと「歩いてお散歩」できるのです。団体が人と共生できるよう、お散歩の訓練をしているお陰なのですが、私の中に光が差しました。都会でも、ポインターと一緒に暮らせる術があるのだと。私の中で決意が固まった瞬間でした。
愛犬を選んだ理由
そのままボランティアを続けることも選択肢としてありましたが、自分の性格上、家族の一員として保護犬を迎えるほうが性に合っていました。しかし、事を急いでミスマッチを起こしてしまってはお互い不幸になります。
いつか我が家にあの団体から犬を引き取るという決意のもと次のことを心に留めました。
- 決して裕福とはいえない我が家では、重病を抱えた子は引き取とらない(引き取れない)
- 猫と共存できる、おとなしい穏やかな子が現れるまで必ず待つこと(何年かかっても)
- 引き取ったあとも、責任を持って愛情をかけられるよう、生活環境を整備すること
そして3年を経て、「おとなしすぎる位おとなしい」奇跡的に持病のない犬に出会えました。ただ、自分がイメージしていた「ポインター像」とはちょっと違う子でした。
「白黒」の「グイグイ」くるタイプではなく、レバー色で割と目に力がない子でした。
面会時、候補は3頭いましたが直感で「この子となら暮らしていける」気がしたのは意外でした。
引き取りから現在まで
迎え入れて
3年前の4月、愛犬ごるびぃ(以下ごるびぃ)は団体の代表者に連れられて我が家にやってきました。3階建ての1階部分を専用部屋とし、まずはクレートで過ごしてもらうことにしました。猫も代わる代わる見に来ましたが、ウンともスンともいわず、数日はおとなしくしていました。散歩も引きがなく、拍子抜けするくらい楽ちんなスタートでした。
しかし数日後、クレートから出し、体をブラッシングしたりなでたりしたら…今まで抑えていた感情が爆発したのか、ピーピー鳴くようになってしまいました。住宅街なので近所迷惑になるといけない、と同じ部屋で寝てしまったのが失敗でした。団体に「絶対やってはいけない」と言われていたことなのに、楽な方法を選んでしまったのです。そこからは「鳴けば来てもらえる」という学習をしたごるびぃとの心理戦が始まりました。私は何度もトレーニングの基礎に立ち返り、ごるびぃはすこしずつ自我に目覚め自己主張するようになってきました。
後から聞くと、4月の私は周りからみてもハッキリわかる位憔悴しきっていたそうです。しかしそれに反比例するようにごるびぃの目の輝きはどんどん増していきました。今まで、遠慮していたんだね、ようやく安心して自分を出せるようになったんだね、ごるびぃ…。
それから
それから紆余曲折ありましたが、現在はごるびぃを自宅でフリーな状態にしています。賛否両論あるところですが、同じベットで人と、猫と犬が所狭しと折り重なって寝ています。
当初は様々ないたずらやお遊びもありましたが、お留守番時もフリーで自由気ままにおとなしく過ごしています。時折、暴れたりするときは「何かが足りない」というごるびぃの主張だと思って反省し、改善しています。
昨年、一番古株の猫が天国に旅立ってしまい、家の様子がおかしくなりました。猫と犬がみんな家じゅうを連れ立って歩くのです。寂しいのかな…と心配したのもつかの間、なんとごるびぃは「猫になる努力」をしているようなのです。猫のようにダイニングテーブルにジャンプして登ってみたり、毛づくろいをまねてみたり…(専門家に聞いたところ、犬と猫の多頭飼育ではよくある現象らしいです)。柄にもなく死んじゃったお兄ちゃんの代わりになろうとしているのかな?などと思っています。
ごるびぃのトラウマ
おちゃめだが、おとなしく、出会った人にも犬にもフレンドリーに接するごるびぃ。どこを触られても、何をされても声一つあげずにゆったりしています。茫洋としたのんきな子で悩みなんてないんじゃないか、と思ってしまいます。
そんなごるびぃにも、苦手なものがあります。「雨と雷」です。雨や雷が苦手な子は犬種を問わず、一定数いるようですが、ごるびぃのそれは異常なくらいの怯え方です。
雨が降る前から震えだし、か細く泣き叫び家じゅうを右往左往します。雨が少しでも降っていると決して散歩にはいきません。何日続いても、です。生来の気性というのも関係しているかと思いますが、私はごるびぃの放浪時に関係があるのではないかと思っています。
どういった経緯で捨てられたのかは正確にはわかりません。しかし、捨てられた際に山中で聞いた雷や放浪中に降り注がれた雨を思い出すのではないかと想像しています。行きつけの獣医さんには「おとなしくていい子だけど、心にトラウマ的な闇を抱えているから気をつけてみてあげてください」と言われています。知り合いの専門家には「おとなしすぎて猟で使えなくて捨てられちゃったんじゃないか」とも言われています。
元の飼い主に伝えられるならば
どんな理由かはわかりません。けれど何の罪もない、こんないい子をどういった理由にせよ、遺棄して平気で生活している飼い主が許せないと、ごるびぃが震えるたびに思います。持病もなく虐待された形跡もない位、素直なおとなしい子。だからといって決して無傷なわけではないのです。そんな子に一度でも捨てられ、見知らぬ土地で飢えながら彷徨う「トラウマ」を与えて苦しめていることを感じてほしいと思います。迷子になったとしたらなぜ探さないのだろうと…。
ごるびぃは男の人が好きです。それも「作業着を着た中年の男性」に異様なまでに愛着を示します。これは私の想像でしかないのですが、きっと元の飼い主は作業着のような服を着た男性だったのでは、と思っています。3年経った今でも、遠くで作業着の男性を見かけるとすごい勢いで走っていきます。まるで、飼い主を見つけたかのように…。
これから
年齢は推定でしかないのですが、もう少ししたらごるびぃもシニア年齢に突入します。今は軽快に登り降りしている階段も、いずれは介助が必要になるかもしれません。仲良しの猫達ももしかしたら突然先立ってしまうかもしれません。引き取る時に誓った「責任を持ってこの子を幸せにする」という言葉もちゃんと守れているのかわかりません。だけど、絶対に約束できるのは、どんなことがあってももう決してひとりぼっちにはしない、ということです。
引き取る時に生活面(時間のやりくり、金銭面)や想定されること(病気の可能性)をシミュレーションしたつもりですが、やはり予想外のことも多く起こります。昨年、エコーで極小のしこりがみつかり、脾臓を全摘出しました。ひと月前に猫を悪性腫瘍で亡くしたばかりで、その時は生きた心地がしませんでした。幸いにも良性で、変わらず元気いっぱいに過ごしています。
しかし、今後何があるかは、どんなに用心していても誰にもわかりません。保護犬との暮らしに正解はない、と思っています。ただ、今、この瞬間をできるだけ一緒に仲良く生きる、ということしかできないと思います。
ごるびぃのエピソードが、保護犬の引き取りを検討している方の参考になれば幸いです。