保護犬という存在を知った日
年末も差し迫った寒い冬の日、以前から犬を飼ってみたいという漠然な夢を持ちながらも実行に移せぬまま、ネットサーフィン中で「保護犬」という存在を知りました。保護犬について調べれば調べるほど、保護犬に対して自分が何かできることはないか?と考えるようになり、まずは保護犬を見に行って見ることにしました。
初めて見た現実
私はまず、自宅から一番近い場所にある、動物愛護センターに収容されている保護犬を見に行くことにしました。
動物愛護センターの職員さんに連れられて来たのはその建物の地下にある、とても薄暗い場所でした。四方を冷たいコンクリートで囲まれて、そこには四つに区切られた小さな檻のようなものがありました。
中には、保護犬が一頭ずつ収容されていました。職員さんが一頭ずつ説明をしてくれました。寒がりなチワワ、よく吠えるミニチュアダックス、高齢で受け入れたとしても看取りの段階に入っていくであろうというミニチュアダックス。
その小さくて暗くて寂しい場所にいる彼らはとても寂しそうに見えました。私はすぐにでも全ての犬を保護して、連れて帰りたい気分にすらなりました。
しかし現実には、その建物を一人で後にするしかありませんでした。
年が明けて
年末年始は動物愛護センターで目にした光景、保護犬たちなどが忘れられまま過ごしました。そしてその翌年には、主に保護犬の里親探しをしているNPO団体のいくつかに足を運びました。
それぞれの団体で保護犬に対する対応は様々でしたが、資金不足や人手不足でそれぞれの保護犬たちに満足に接するのは難しそうな印象を受けました。
中には、マンションのような建物の一室に保護犬たちを自由に放し飼いにし、犬を見に来た客にワンドリンク制で保護犬と接するという活動をしている団体もありました。
毎日、入れ替わりち替わり、知らない人がやってきて、また、時間になると人が入れ替わり、また別の人が彼らを抱っこしたり触ったりするということが果たして、彼らのストレスとはならないのだろうかと疑問に思ったりもしました。
ロッシーとの出会い
その日、私は京都の動物愛護団体で初めてロッシーに出会いました。彼は、私を見ると思い切り尻尾を振って飛びついて私の顔をペロペロ舐めようとしました。とても人懐っこく天真爛漫、その瞳は純粋で真っ直ぐでした。私は、その場でロッシーの里親になりたいと少し迷いました。けれども、行ってみたい動物愛護団体がもう一つあり、ロッシーはひとまず保留にして大阪の動物団体へ向かいました。
ペロちゃんに会いに
向かおうとしていた大阪の動物愛護団体のホームページに気になる保護犬の存在があり、私はその保護犬にも一度会ってみたかったのです。
名前はペロちゃんというパピヨンの女の子でした。ペロちゃんはロッシーとは違ってとても控えめな子でとても可愛らしい顔をしていました。私にもすぐに懐いてくれました。
できることならペロちゃんも一緒に引き取りたい気持ちでしたが、そうすることはできず、私は少し考えました。
しかし、ペロちゃんには申し訳ないと思いながらも、やはり私の心を占めているのは京都にいるロッシーの存在でした。
いよいよロッシーの里親に
その後、私は急いで京都の動物団体にロッシーの里親になりたい旨を電話で伝えました。団体の方も電話越しにとても喜んでくださり、私は急いで京都へ向かいました。
到着するとロッシーは先ほどと同じように大きく尻尾を振りながら、私に飛びつき、私の口を舐めようとしました。さっきと違うのはロッシーの口からは食べたばかりであろうドッグフードの匂いがしていたことでした。
私はロッシーの譲渡契約を済ませ、いよいよロッシーと本当の家族になりました。ロッシーはもともとは高齢のご夫婦が飼育しておられ、そのご夫婦が老人施設へ入所をすることになり、動物愛護団体に持ち込まれたということでした。
私は何があっても絶対にロッシーを離さないと心に誓いました。
家に連れて帰ったロッシーは最初は落ち着き無くうろうろしていましたし、ドッグフードも食べませんでした。それでも、ロッシーのペースで少しずつ我が家の環境にもなれていったように見えました。トイレも散歩や室内の定位置でできるようになり、食欲も旺盛、相変わらずの天真爛漫な明るく可愛い子でした。
突然の引越し
ロッシーと落ち着いた生活をしていた私でしたが、その年の12月に仕事の関係で引越しをしなければならなくなりました。正直、私は不安でした。私の人生において初めての引越し。また、環境が変わることのロッシーへの影響。私は、少し頭の中を整理しすることが必要でした。そんな時、ロッシーはいつも私のそばで尻尾を振って隣に座っていてくれました。私の顔をロッシーのその澄んだ瞳で見つめてくれました。
私は、前へ進もうと決心しました。初めての引越しでしたが、ペットが飼えるマンションの部屋探しから契約、引越し業者への申し込み。それまで引っ込み思案であった私が、ロッシーとの生活を守る、ロッシーが支えてくれている、ということが原動力となり、すべてを無事に終わらせることができました。
環境の変化から見えてきたもの
引越しの翌日、私は仕事へ行かなければなりませんでした。外の環境ももちろんですが、部屋の中もなんだか今までとは違った空間で人間でも心から休まることができないような感覚に襲われました。それでも、どこにいても変わらず私のそばには愛するロッシーがいて、それだけで勇気も希望も立ち向かう強さも湧いてきました。
引っ越したばかりの慣れない部屋にロッシーだけを置いていくのは、心が張り裂けそうに辛くて心配で申し訳ない気持ちが渦巻きました。
その日、急いで仕事から帰ってみると、リビングにロッシーのうんちとおしっこがありました。いつもは散歩のときや所定の場所でしか排泄しないロッシー。ロッシーもきっと不安や心配や心細さやストレスをたくさん抱えていたのだと実感しました。
私はロッシーを抱きしめ、何度も謝りました。
あれから3年
最後の引越しをしてから3年が経ちました。ロッシーも私も、今ではすっかり新しい環境に慣れることができました。今ではロッシーはお留守番をしても、必ず私が帰ってくると信じて待っていてくれているように感じます。あれから一度もリビングで排泄をしたことはありません。3年間という月日の中で、様々な出来事がありました。それでも、私は、ロッシーがいてくれるおかげで今の生活を頑張ることができています。ロッシーはかけがえのない私の家族です。
まとめ
このような経験を通して私は、自分にとって、どうしても守りたい、かけがえのない大切な存在がいるということは、生きる上で大きな意味を持つと思います。そして、人間的に強く、優しくなれると思います。また、自分も愛犬もこの世に生まれてきたこと、そしてその両者が奇跡的に結ばれていることにとても感謝して毎日を過ごしています。ロッシーにも自分にも生まれてきてくることができてありがとうという気持ちでいっぱいです。