PTSDセラピードッグの育成訓練プログラムと退役軍人
戦場から帰還した兵士が、退役後もPTSD(=心的外傷後ストレス障害)に苦しむ例は多く、長きにわたって社会問題となっています。そのPTSDへの有効な対策のひとつとして、セラピードッグの存在が研究されています。
アメリカのシラキュース大学の公衆衛生学科では、PTSDセラピードッグを代替医学として捉え、有望な戦略であるとして研究が続けられています。
PTSDの患者とセラピードッグと言えば、従来は訓練を終えたセラピードッグを患者の元に送り、生活を共にすることで、精神的なストレス障害を和らげていくというものでした。
今回シラキュース大学の研究者は、PTSDを抱えた退役軍人が、将来自分のセラピードッグになる予定の犬を訓練するプログラムに参加して、自ら訓練することが症状にどのように影響するかを調査しました。
自らセラピードッグを訓練することの効果
プログラムに参加した退役軍人は、プログラム終了後に症状がどのように変化したかを比較するため、現状を把握するベースライン調査を12か月間かけて受けました。
その後、参加者は将来自分のセラピードッグとなる予定の犬を選択し、ペアを組みました。
参加者と犬は、プロのドッグトレーナーが指導のもと、週1回90分の訓練セッションを12〜18か月間受けました。
訓練セッションは、犬の行動管理と訓練のスキルを学ぶということの他に、人と犬の結びつきを強くするという狙いもあります。
訓練セッションのプログラムを完了した後に、参加者の退役軍人たちの症状を、先のベースライン調査との比較や、聞き取り調査から分析した結果、ストレス及び外傷後ストレス症状が有意に減少していました。
中でも注目を集めたのは次のようなものでした。
- 孤独感が減少した 47%
- 精神面の健康と感情面の幸福感が改善した 44%
- 新しく目的意識を持てるようになった 35%
- PTSDの症状がコントロールできるようになった 12%
犬から与えられる「癒し」は一方通行ではないということ
この調査の結果は、PTSDの症状を持つ退役軍人にとって、犬の飼い主になるという責任と、自分自身と犬の訓練が、自己肯定感や自己批判に対してポジティブな影響があったことを示しています。
つまり訓練された犬と暮らすという受け身の態度よりも、自分自身が、責任のある飼い主として犬をトレーニングすることが、より良い癒しをもたらしたということです。
私たちはPTSDとまでは言えないまでも、大なり小なりのストレスを抱えて生きており、ペットと暮らすことで、そのストレスを和らげたいと考える人もたくさんいます。
ペットがストレス緩和になること自体は良いのですが、動物に対して、一方的に癒しを求める姿勢では動物に負担をかけ、そのために人間の方も癒しどころか、新たなストレスを抱え、飼育放棄につながる例も少なくありません。
この研究結果は、自らが主体になって責任ある飼い主として犬のトレーニングを行うことが、人間と犬の両方を良い方向に導いていることを示しています。
これは一般の家庭犬と飼い主という関係の中でも、心しておきたいことだと感じました。
まとめ
PTSDを持つ退役軍人が、セラピードッグを自ら訓練するというプログラムが、外傷後ストレス症状の減少と、感情面の改善に有効であった、というリサーチ結果をご紹介しました。
日本ではまだ、精神的なサポートをするセラピードッグは一般的ではありませんが、犬に一方的に頼るだけではない方法が、より効果的であるということは、犬と接する全ての人が知っておきたいと思います。