働く犬の適性を予測する研究
私たちの身の回りには、人間を手助けするために、その能力を発揮している働く犬たちがたくさんいます。
中でも盲導犬など体の不自由な方をサポートする介助犬や、警察や軍隊で働く爆発物探知犬などは高度な能力が要求されるため、数が不足しがちです。
訓練を行っても、適性がないと判断された犬は普通の家庭犬となり、訓練にかけた時間や費用が無駄になってしまうことも少なくありません。
アメリカのアリゾナ大学の、ケーナイン認知センターの研究チームでは、訓練を始める前に犬の認知能力をテストして、作業犬としての適性を判断する方法を模索しています。
気質や身体的特徴だけではない、作業犬の適性
従来の作業犬の訓練現場で、どの犬が与えられた仕事に対して適任かを見極める時に重点を置かれていたのは、犬の気質や身体的な特徴で、認知能力というのは今まであまり注意を払われていませんでした。
しかしアリゾナ大学の研究チームは、作業犬候補たちは訓練中に物事を認知するということを学習しなければならず、それが犬によっては大きな壁になっていることに関心を持ちました。
作業犬の候補を選ぶときに、あらかじめ認知能力のテストを行えば、どの犬が適性が高く優秀な作業犬になるかが予測できるのではないかというのが、今回の研究のテーマです。
この研究では、2種類の作業犬に焦点を当ててリサーチが行われました。
体の不自由な方をサポートする介助犬と、軍隊で働く爆発物探知犬です。
この2種類の作業犬には同じ犬種も多いのですが、求められる適性は全く違うものです。
犬がどの認知分野で優れたスキルを持っているかを見極めることで、犬が良い介助犬になるか、良い探知犬になるかが予測できると考えられます。
認知能力から作業犬の適性を予測するためのリサーチ
研究チームは、実際に介助犬候補と爆発物探知犬候補の犬たちを対象にして、リサーチを行いました。
リサーチに協力したのは、カリフォルニアの介助犬訓練のための団体に所属する164匹の犬と、アメリカ海軍の222匹の犬でした。
まず介助犬候補の犬たちは、6か月の集中訓練プログラムを開始する18か月齢の時点で、認知能力のテストを行いました。
テストは隠したものを見つけるなど、犬が人間と遊ぶような形態を取り入れたもので25種類の認知のスケールが査定されます。
介助犬として求められる適性は、社会的なスキルです。
人間をよく観察して注意を払い、アイコンタクトが継続して実行できることが大切です。
介護犬候補たちは、この訓練プログラムを最終的に卒業できたかどうかを「成功」の基準とみなしました。
研究チームが最初に行ってテストの結果は、86%の精度で卒業犬の上位25%を予測することができました。
爆発物探知犬たちにも、介護犬候補と同じ認知能力のテストが行われました。
軍隊では、訓練は日々進行しており卒業などのゴールはないため、犬たちの成功の基準は日頃の訓練の記録とハンドラーへのアンケートに基づいて測定されました。
探知犬に求められる適性は良好な短期記憶、指さしジェスチャーなどの人間のボディランゲージに対する感受性が重要ですが、認知能力テストでこれらの分野で優れていた犬は、訓練の記録でも良い結果を出していたことが分かりました。
この結果は、作業犬の適性を予測するために気質や身体的特徴と併せて、犬の認知能力が考慮の基準になることを示しています。
まとめ
犬の認知能力テストが、介助犬や爆発物探知犬の適性を予測するための基準として、考慮できるという研究結果をご紹介しました。
作業犬の適性を早期に正確に見極めることは、訓練にかかる費用を節約でき、作業犬が必要な人々に適切な犬をより早く届けられることにつながります。
適性のない作業の訓練を続けるというのは、時には動物福祉に反することにもなりかねません。
犬がどのように考え、どのように問題を解決するのかという認知の問題の研究は、人間と犬の両方にとって希望の詰まったものと言えそうですね。
《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/10/181025151037.htm
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2018.00236/full