猪犬とは猪を狩猟の犬
「猪犬(ししいぬ)」とは、犬を使って猪を狩る狩猟のために産み出され訓練された猟犬のことです。犬を使った獣猟と鳥猟を総称して「犬猟」といい、猪犬の他にも鹿犬やマタギ犬などの狩猟犬があり、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
猪犬以外に犬を使った狩猟の歴史はとても古く、平安時代からすでに狩猟犬は存在していました。現在、野生動物の狩猟は「害獣駆除」の他に「趣味」としても行われています。
猪犬の役割
猪犬は主人と一緒に山に入り、猪の臭いや痕跡から、人間が入り込めないような場所へ犬だけで猪の寝床を見つけ出し、猪を起こして追い出します。
また猪犬は、山で活動している猪を見つけると追跡し主人へと知らせます。主人は猪を追い立てる犬の鳴き声を頼りに、猪を待ち構えて猟銃で打ち仕留めます。
命がけで逃げる野生の猪はただ逃げるだけでなく、追い立ててくる猪犬に立ち向かう場合もあります。その時、猪犬はけっしてひるむことなく猪を確実に打ち、仕留められるように、吠えたて噛みつき、猪の反撃をかわしながら主人と見事なチームワークで実猟(=実際に獲物を捕れること)へ貢献します。
日本では犬を使った犬猟について、「一犬、二足、三鉄砲」といわれ、狩猟には犬の存在が欠かせないものなのです。
猪犬を使った害獣対策
住宅街に猪が現れたり、畑を荒らす猪が駆除されたりというニュースを年に数回は目にすることもあると思います。近年これらの害獣対策として「訓練された犬」が活躍しています。猪犬は山へ入る際、猪の駆除にも活躍します。現代では実猟としての猪犬はもちろんですが、「猪犬競技会」を目指す猪犬も存在します。
野生動物の生息域と、人間の農地や居住区は実は隣り合わせです。都心部に暮らしていると、野生の猪と遭遇することなど想像もできません。ですが、私たちのすぐ近くに野生動物は生息して、互いの居住域を侵さない適度なバランスを保って生きています。
しかし近年の異常気象や生息域、餌の減少、無責任な人間による餌付け、ゴミの投棄などでさらに野生動物と人間の距離が縮まってしまいました。農林水産省の調査では、日本全国で野生動物による農作物の被害は200億円を超えることが分かっています。
私たちが生きていくためには、猪犬などを使い野生動物による被害を防がなければいけません。しかし農作物を荒らす野生動物や、居住域に近づきすぎた野生動物を追い払ったり、害獣として駆除したりしなければならず、人への被害が出なかったケースでは、罪もない野生動物を害獣として命を奪うことには常に賛否両論です。
人間の居住域で猪の目撃情報が出ると、猪犬を使って人里に近づきすぎた猪を追い払う対策を続けていきます。犬に追われた猪が警戒心を強め、同じ場所に近づかなくなり、猪の命を奪う対策ではなく野生動物と人間が距離を保つ新たな対策に注目が集まっています。
猪犬に適した犬種
猪犬として活躍するのに適しているといわれる犬種をご紹介します。現代の犬たちは様々な仕事を担うため、身体的特徴を伸ばしながら人間によって作出されてきた古い歴史があります。犬という動物の誕生まで遡れば、全ての犬には「狩猟本能」があります。
ですが現代を生きる「家庭犬」が、たとえどんなに素晴らしい狩猟系犬種であっても、なんの訓練もせずに猪犬になれるわけではありません。
猪犬として活躍している犬種
- 甲斐犬
- 四国犬
- 柴犬
- 秋田犬
- 川上犬
- グレートハウンド
- ウルフハウンド
- ビーグル など
全ての日本犬は猪犬として、狩猟能力が高いといわれ、国内の犬猟に使われる犬種では人気は衰えません。また、ビーグル系犬種、ハウンド系犬種も受け継がれた狩猟能力が高く、猪犬として人気があります。
猪犬に選ばれる犬の性格
猪に立ち向かうほどの犬ならば「気が強く」、「喧嘩も強い」とても家庭犬として飼育できるような犬ではないとイメージされがちですが、実は猪犬を含むすべての猟犬に求められるのは穏やかな性格なのです。
猪犬として、犬は人とともに命がけで獲物との戦いを勝ち抜くには、深い信頼関係が必要です。阿吽の呼吸や、互いへの信頼がなければ、危険な山の中で身を守りながら猪と対峙することはできないのです。
猟犬として活躍する犬は、飼い主以外には心を開くことがなく冷たい印象をもたれることが多いのですが、猟をしていない時は、飼い主に甘える私たちの愛犬と何一つ変わりません。猪犬であっても、人や、その他の動物に対して攻撃性はなく、飼い主に忠実なのです。
猪犬になるための主な訓練
名犬といわれる猪犬になるためにはどのような訓練を重ねているのかご紹介します。
猪犬になるため狩猟犬の訓練は、狩猟本能が高い犬種を好む飼い主さんにとっても、役に立つことが多い訓練です。家庭犬としての躾にも応用して、狩猟犬としての本能を刺激し、一緒に楽しめるスポーツなどに活かしている飼い主さんも多くいます。
家庭犬としての訓練
猪犬になるため仕事を持つ犬、家庭犬として生きる犬、闘犬、全ての犬に必要な訓練は「家庭犬としての訓練」です。人と犬が安全に共生していくには絶対に欠かせない訓練です。飼い主を信頼し、喜び、楽しみ、安心を覚えさせ、猪犬になるためは、人や猪以外の動物に対して絶対に攻撃性があってはいけません。
犬としての社会性を育てる
猪犬になるためには犬としての社会性を育て、飼い主と一頭での狩猟、複数の犬とチームで狩猟、複数人のグループで狩猟などの訓練は様々です。猪犬は犬として、しっかりと社会性を身につけなければいけません。子犬同士、母犬からの教育、先輩犬への礼儀作法を産まれた時から自然に学び、育てる環境を与えます。つまり、本来の犬らしい幼少期を過ごさせるということです。
幼少期から山歩きを重ねさせる
猪犬になるため、犬の性質を十分に熟知した者が、自分勝手な行動をするのかしないのかを見極め、山の中で自由に犬を遊ばせます。犬には離れすぎず、離れても確実に戻ってくるよう覚えさせます。猪犬になるため自分本位での行動ではなく、主人主体の行動に共に動くことを何度も経験させます。そして、山で遊ばせて犬を放す時には、絶対に山から出ない訓練が必要です。
完ぺきな呼び戻し
猪犬になるため主人に呼ばれたら、犬は現在進行で全ての行動を中止して戻るよう訓練します。飼い主から離れすぎれば、犬自ら戻る。呼ばれたら確実に飼い主の元に戻る。これらは猪犬にとってとても重要な訓練です。
猪犬になるため、完ぺきな呼び戻し訓練では犬の安全を守ることももちろんですが、犬がパニックなって迷子になってしまったり、チームの統制を乱してしまったりします。猪犬になるために完ぺきな呼び戻し訓練ができないと、飼い主の元へ戻れなくなった猟犬が保健所に収容され、殺処分されている地域もたくさんあります。
猟犬を扱う狩人は、自分の犬がいなくなればぜったいに放置はしません。ですが近年、趣味で犬猟を楽しむ人が、猪犬になるための訓練など未熟な犬を連れて山へ入り、犬が迷子になっても探さず放置されてしまうことがあります。
攻撃性や性格を見極める
猪犬になるために他犬や他動物への攻撃性は不要です。猪以外の動物に興味を持たせない訓練も必要です。ですが他の動物へ対する強い威嚇や攻撃性、過度の怯えがある犬は猪犬には向いていません。
猟の経験を積ませる
猪犬の訓練を専門の訓練所や、出身犬舎での訓練を依頼する人もいますが、基本的に、一緒に狩りに出る主人とともに、猟の経験を積ませることが大切です。狩人の猟の方法や癖、技量などに合わせて猪犬は猟を覚えて感覚をつかませます。
どんなに素晴らしい猪犬に作り上げてもらっても、狩人との相性が悪ければ本領を発揮できません。生後10か月~1年で、野生の猪を噛ませたり、先輩犬について、猪を起こして追い立てたりしながら経験を積み重ねていきます。
猪犬のおすすめブログ
猪犬について詳しく紹介されているブログやHPをご紹介します。自身の経験などで書かれているブログは、とても詳しく猪犬について書かれているので、ぜひ一読してみてください。
まとめ
今回は猪犬についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?身近に猪犬がいるという方も少なく、どのような仕事をするのか?どのような犬なのか?ピント来ない方も多いのではないかと思います。
人と犬との共生の歴史はとても古く、国外では人間が猟をして生きていたころ、すでに狩猟犬の存在が確認できる壁画などが残されています。猪犬を始め、私たち人間のために働く犬たちのこと、多くの方に知っていただけるきっかけになれば嬉しいです。