ベアドッグは森で活躍する「いぬのおまわりさん」
ベアドッグとは、クマ対策のために訓練された犬をいいます。クマを狩猟するための狩猟犬ではなく、森のパトロールをしてくれるのです。
クマの匂いを感知する訓練を受け、飼育士(ハンドラー)の指示に従って大きな声で吠えたり、クマの居場所を特定することで、人が住む地域に近づくクマを森の奥へ追い払います。
「クマが人里近くにあらわれた!」なんてニュース、たまに見たことありませんか?
人にとって恐怖の存在であるクマは、狩猟銃などを打たれたり、時には殺されてしまう場合もあります。こんなとき、クマを傷つけることなく森へ返すベアドッグが大活躍するのです。
ベアドッグの歴史
北米ではクマ対策として、クマを傷つけずに人との共生を目的に、殺傷能力のないクマ撃退スプレーや花火弾、ゴム弾などの道具を使っていました。こうした中で、クマ対策専門家のキャリー・ハント氏は、「カレリアン・ベアドッグ」という犬種の特性に注目し、世界で初めてベアドッグのチームを作りました。
現在、日本では2匹のベアドッグが活躍しています。長野県軽井沢市の特定非営利活動法人「ピッキオ」が飼育している「タマ」と「ナヌック」です。
軽井沢市では2000年頃から、クマの出没やゴミ荒らしの被害が多発していました。
クマが人里近くに降りてくる理由として、
- クマの食糧が減った
- 人間が捨てた食べ物を漁るようになった
- 人間を恐れなくなった
などが考えられます。
追い払ったり、怖がらせるような対策を試みましたが、人を恐れなくなったクマには効果がありませんでした。また、クマと遭遇した人が襲われることも…。
「人もクマも安全に」、「人とクマの共生」を目指すピッキオにとって、これは大きな問題となりました。
そこでピッキオは2004年、アメリカのベアドッグ育成機関Wind River Bear Institute(WRBI)より、アジアで初めてとなるベアドッグを導入しました。その結果、クマの目撃件数が多発していた2006年と比べて、その数は劇的に減少したといいます。
さらに、国内でのベアドッグの繁殖に取り組みました。これは日本で初めての試みとなります。
ピッキオで飼育しているメスのタマと、WRBIから迎い入れたリオを交配させ、2018年3月、6匹の子犬が産まれました。2018年5月から徐々に訓練をし始め、来年にはベアドッグとして活動することを目標にしています。
ベアドッグに向いている犬種
クマが相手だけに、どんな犬種でもできる仕事ではありません。キャリー・ハント氏が注目したカレリアン・ベアドッグは一体どのような犬種なのでしょうか。
フィンランドのカレリア地方において、クマやシカ、イノシシなどの大型動物の狩猟犬として活躍していました。とくにクマを獲物として狩っていたため、「カレリアン・ベアドッグ」と名付けられたそうです。飼い主から離れて獲物を探し、飼い主が来るまで獲物を留めておくという性質を持ちます。
飼い主に忠実で、「この人がリーダーだ」と認めた人の指示しか聞きません。一方で、愛情を注げば注いだ分だけ返してくれるほど、愛情深い一面も持ちます。
飼い主を守るために相手に立ち向かっていく勇敢さがあり、知らない人や犬に対して警戒心を強く持ちます。もともとクマを相手に狩猟していたため、どんな相手でも怯むことがありません。
遠くまで届く大きな声や、噛む力の強さ、勇敢な性格、獲物に対しての性質などから、カレリアン・ベアドッグは向いている犬種だといえます。
ドッグベアとして活躍し始めてから、北米で人気が高まったといわれています。しかし、しつけがとても難しく、声が大きかったり本能的に噛んでしまう性質から、ペットには向かない犬種といわれています。
まとめ
私たち人間をクマから守ってくれるだけでなく、クマの命も守ってくれるドッグベア。まだ部分的とはいえ、その活躍は多大なものになります。繁殖に成功したことで、今後の普及拡大も期待できるでしょう。
ドッグベアが私たちの生活になくてはならない存在になるのも、近いのではないでしょうか。