さまざまなストレスを和らげるセラピードッグ
入院中の子供たち、介護施設の高齢者の方々、災害の被災者の方々、犯罪被害者などの精神的なストレスを和らげるセラピードッグの存在はよく知られています。セラピードッグが人間に及ぼすポジティブな影響についてもたくさんの研究が発表されています。
ではストレスを抱えている犬がセラピードッグといっしょに過ごすことで、人間の場合と同じようにストレスが緩和されるのでしょうか?
スイスのバーン大学の研究チームが、ストレスの多い軍用犬と彼らを癒す犬についての興味深い研究を発表しました。
軍用犬たちが抱えるストレス
スイスの軍用犬たちは警備、救助探索、爆発物探知などの任務についています。
軍用犬としての育成期間中、つまりまだ若い時期に彼ら軍用犬候補たちが普通のペットのような社会化の機会を得ることはほとんど無いのだそうです。軍用犬として働くようになった後は個室の犬舎で一匹ずつ飼育されるため、軍用犬たちが安全な環境の中で他の犬といっしょに過ごす機会はたいへん限られています。
社会化の不足は感情的なストレスへの耐性を低くすることはよく知られています。緊張に満ちた任務から来るストレスに加え、軍用犬の社会化不足は攻撃的な行動や極端な防衛行動への引き金になってしまいます。
成犬になった後では、社会化不足の悪影響を完全に拭い去ることはほぼ無理であると多くの研究者が既に述べています。しかしバーン大学の研究者はこの通説に対抗するように、よく社会化された他の犬たちと短時間の接触を持つことが軍用犬たちのストレス関連行動を軽減するかどうかを実験によって観察しました。
社会化された犬と軍用犬のセッション実験
実験に参加した軍用犬は29匹。8週間の実験観察期間中、軍用犬たちは週に1回3時間のセッションを受けました。
よく社会化され他の犬と穏やかに過ごせるように訓練を受けた犬(単独またはグループ)と単独の軍用犬がいっしょに時間を過ごします。軍用犬のハンドラーが同席していますが、何か危険な状態が起きそうな時に介入するだけで、基本的にはノータッチです。犬たちはごくカジュアルな社交の機会を持ちました。
犬による犬のためのセラピータイムとも言えるようなセッションの前後で、軍用犬たちは行動テストを受けました。テストの結果はどのようなものだったでしょうか?
軍用犬たちへのセッションの効果
セッションの前後で軍用犬が受けたテストは、本物そっくりのビーグル犬の模型その他の見慣れない物体を近づけられた時のリアクション、面識のない雄犬が部屋に入ってきた時のリアクションを観察するというものです。
同時にセッションを受けていない軍用犬27匹も同じテストを受けて、その結果が比較されました。
テストの結果は非常に明白で、他の犬たちと社交の機会を得た軍用犬たちはストレスに関連する攻撃および防衛行動が大幅に軽減していました。
研究者は
と述べています。
まとめ
ストレスの多い環境で働く軍用犬が、よく社会化された他の犬と短時間いっしょに過ごすことで、ストレスに関連した問題行動が軽減したという研究の結果をご紹介しました。
社会化の機会を持つことができず任務自体もストレスの多い軍用犬が、他の犬と社会的な経験を持つことで、セラピードッグと過ごす人間と同じような効果を得たということです。
一般の犬の訓練の場面でも、問題行動を見せていた犬が他の犬たちといっしょに過ごすことで改善されたという例は見聞きしますね。
犬が他の犬と社会的な時間を持つことの大切さ、きちんと訓練された犬が他の犬のストレスさえも軽減することへの感嘆など、いろいろなことを教えられる研究結果でした。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016815911730357X