まずは身体的な問題がないか確認を

散歩中に止まる理由として、最初に考えておきたいのが身体的な問題です。
足や腰などの痛み、体調不良、暑さによる負担などがあれば、当然歩きたくなくなることがあります。
これまで普通に歩いていた犬が突然止まるようになった、歩き方にも変化がある、散歩そのものを嫌がるようになったなど、身体的な原因が心配される場合は動物病院を受診しましょう。
ここからは、そうした身体的な問題がない健康な犬が、なぜ散歩中に立ち止まるのかを考えてみます。
1.「今、これがしたい」がある

犬にとって散歩は、飼い主と一緒に目的地まで歩くだけの時間ではありません。
気になる匂いを見つけて、もう少し嗅いでいたい。いつもとは違う方向へ行ってみたい。向こうにいる犬や人を、もう少し観察していたい。
そんな「今はこれがしたい」というものを見つけて、立ち止まる犬がいます。
特に、こだわりが強かったり、いわゆる「頑固」と表現されるような気質を持っていたりする犬では、一度興味を持ったものから気持ちを切り替えるのに時間がかかることがあります。
でも、それは必ずしも「飼い主に逆らっている」ということではありません。その瞬間、その子が「大事にしたいこと」を見つけただけ。それ以上でも、それ以下でもないことが多いのです。
「ここで犬の希望を聞いたら、わがままになってしまうのでは?」「上下関係に影響するのでは?」と心配する方もいるかもしれません。
しかし、その瞬間に犬が「もう少し匂いを嗅ぎたい」「今日はこっちへ行きたい」と思ったことだけで、それまで築いてきた飼い主との関係性が大きく変わってしまうとは考えにくいでしょう。
反対に、リードを引いて人のペースに戻したとしても、「自分の希望を通すのはわがままだから、これからはやめよう」という人間側の価値観まで犬に伝わるとは限りません。
人との関係でも、好きな人が大事にしているものを、自分も大切にしたいと思うことがあります。犬との暮らしも、同じではないでしょうか。
散歩の途中で愛犬が何か「大事にしたいこと」を見つけたときは、飼い主も一緒にそれを大事にしていいのだと思います。
2.「動きたくない」のではなく「動けない」

私たち人間も、想定していなかった出来事が突然起きたり、同時にいくつものことが舞い込んできたりすると、情報を処理することに頭がいっぱいになり、一瞬動けなくなることがあります。
突然の出来事に呆然として、言葉が出ない。何から考えればいいのか分からなくなり、一瞬表情まで消えてしまう。
そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。
私たちの脳は、「想定外」や「多すぎる情報」に直面すると、処理が追いつかず一時的に止まってしまうことがあります。
犬の散歩でも、似たようなことが起きることがあります。散歩中には、人、犬、自転車、車、音、匂いなど、たくさんの情報が次々と入ってきます。
一つのことに集中することが得意な、いわば「シングルタスク型」の犬では、一つずつなら対応できても、複数の情報が同時に入ってくるとうまく処理できなくなることがあります。
その結果、その場で立ち止まり、動かなくなってしまいます。
飼い主から見れば、「また歩かない」「こっちへ来るのを拒否している」という姿に見えるかもしれません。
でも、この場合は「歩きたくない」のではなく、たくさんの情報を処理することに脳が追われて、今は動けないのかもしれません。
このタイプの犬に必要なのは、「頑固だから歩かせなければ」と考えることではなく、その子が処理しやすい環境をつくってあげることです。
人や犬の少ない道を選ぶ、交通量の少ない時間帯に散歩するなど、入ってくる情報を少し減らしてあげるだけでも、その子にとって歩きやすい散歩になることがあります。
「止まる」という行動だけを見ないで

散歩中に立ち止まる。人から見れば同じ行動ですが、犬の中で起きていることは同じとは限りません。
「今はこれがしたい」と、自分の意思で止まっている犬。たくさんの情報を一度に処理できず、「今は動けない」状態になっている犬。
どちらも、単純に「頑固」「拒否」「わがまま」という言葉だけでは説明できない行動です。
犬にも、生まれ持った性格や気質があります。
こだわりが強く、気持ちの切り替えに時間がかかる犬もいれば、次々と興味の対象を変えていく犬もいます。
周囲の変化やたくさんの刺激を楽しめる犬もいれば、自分のペースを乱されると集中できず、困ってしまう犬もいます。
散歩中に愛犬が立ち止まったら、「どうしたら歩かせられるだろう」と考える前に、「この子は今、何を大事にしているんだろう」「もしかしたら、ちょっと情報が多すぎるのかな」と、その子の側から一度眺めてみてください。
いつもの「止まる」という行動が、少し違って見えてくるかもしれません。



