犬の歴史!人間は最も古い親友関係だった

犬の歴史!人間は最も古い親友関係だった

犬の家畜化は1万5千年ほど前から始まったといわれています。以来人と犬は一度も歴史的に隔絶されることなく、現代まで共生しています。犬はなぜ生まれ、なぜ人と暮らすことを選んだのか、歴史を紐解いて考えます。

犬と人間の歴史

犬と人間のハイタッチ

犬は人間の最も古い親友であるといわれています。1万5千年ほど前から人間に家畜化された犬たちが、長い年月をかけてともに働く相棒となり、現在は家族の一員といわれるようになりました。

犬はなぜ生まれ、なぜ人間とともに生きるようになったのでしょうか。犬と人の関係を探るために、歴史をさかのぼってみましょう。

犬の祖先とは

犬の祖先は何かという問題は、遺伝子の分析により、タイリクオオカミから派生した4種類の動物が犬の祖先であるという説が有力です。以前はジャッカルやコヨーテなどの動物も犬の祖先として候補に挙がっていました。

しかし、1993年、アメリカの進化生物学者、ロバート・ウェインがおこなった遺伝子のミトコンドリア解析により、タイリクオオカミと犬との違いがわずか0.2%であることが明らかになりました。

両種は交配可能で仔には生殖能力が備わっているため、犬とタイリクオオカミは遺伝的に同じ動物種であると、ウェインは結論づけています。

しかし、いつオオカミから派生したかについては、今でも議論があります。1994年カルレス・ヴィラは、DNAの塩基配列より、オオカミから分岐した4種のグループがすべての犬の祖先となっていることを発表しました。

また、そのような塩基配列の変異が発生するために必要な時間から逆算して、犬がオオカミから分岐して進化したのはおよそ13万5千年前であると推測しています。

しかし、この説にも多くの問題が指摘されており、正確なことはまだ論争があります。

オオカミから犬への進化

では、人間と犬はいつから、どのように共同体として暮らし始めたのでしょうか。

現在は野生のオオカミが人間の残飯を目当てに集落に近づき、そのうち従順な性質の個体が人間に繁殖されて犬となったという説が有力です。

しかし、強い攻撃性を持つ野生のオオカミを家畜として飼いならすことは容易ではありません。そのため、生後間もない幼獣から飼いならしたか、もしくは人懐こい個体だけを選んだのではないかなどと考えられていますが、正確なことはわかっていません。

犬の家畜化の過程の検証としては、旧ソ連で行われたギンギツネ実験が有名です。キツネを親和的な性格と攻撃的な性格に分け、別々に交配させて世代を重ねます。

すると、親和的なキツネは徐々に体に模様が現れ、尾が巻き、鼻が短くなり、容姿が犬に近づいていきました。そして攻撃性が下がるのと反比例して人間のしぐさを理解する認知能力が上がっていくことがわかったのです。

この過程が、長い年月をかけて古代の人類とオオカミの間にゆっくり起こったのではないかと現在では推測されています。

野生動物から家畜化した犬

犬が人の家畜となった時期は、1万5千年前ほどではないかという説が有力です。およそ1万4700年前と推定されるドイツのボン・オーバーカッセル遺跡からは、病気になり働くことができなくなった犬を人間が看病し、丁重に埋葬した形跡が出土しています。

また、イスラエルのアイン・マラッハ遺跡では、高齢女性の墓に子犬が一緒に埋葬されている遺跡が発掘されています。

これらの遺跡から、1万5千年前から人類が犬を単に狩りのお供や夜の見張りのための使役犬としてだけでなく、集落の飼い犬として大切に扱っていたことがわかります。

人間が犬に与えた仕事

犬が家畜となった当時、人間から与えられていた仕事は、狩りのお供と見張り役だったといわれています。

犬が家畜化された時期は、人間の狩猟スタイルが直接打撃から飛び道具を使った遠隔射撃へと変化した時期と重なっています。遠隔射撃による狩猟が進んだことで、傷ついた動物を追い詰めたり捕らえたりする狩猟犬の必要性が高まりました。

また、犬が敵の侵入を吠えて教えるよう進化したことにより、人間が夜休息をとることができ、結果的に子孫繁栄につながったともいわれています。

人類は犬を家畜化することで安定した獲物獲得率と夜の安眠を手に入れ、犬は家畜化されることで厳しい自然環境から隔離され、毎日の餌と寝床を約束されたのです。人間の残飯を食べるため、犬は肉食から雑食動物に進化し、炭水化物を消化する能力を獲得しています。

日本における犬の歴史

日本における犬の歴史は、縄文時代早期まで遡ることができます。

日本で見つかっている最古の犬の骨は、佐賀県の遺跡から出土した約7千年前のものです。DNA鑑定の結果、秋田犬や柴犬、紀州犬などと一部一致したことで、現在の日本犬の祖先は縄文時代早期まで遡ることが判明しました。

縄文時代の犬は主に狩猟に使われていた形跡を残していますが、その後奈良時代から平安時代頃から犬の「ペット化」が進んだと思われます。鎌倉時代以降武士の時代には「犬追物」や「闘犬」など悲しい歴史をたどります。

そして愛犬家として最も有名な歴史上の人物としては、江戸幕府5代将軍徳川綱吉があげられるでしょう。綱吉の治世では、1682(天和2)年に犬を虐殺した者が死刑に処されて以来、動物愛護的な法令が頻発されました。

徳川綱吉は、特に犬を大事にしていたことから「犬公方」と呼ばれており、一節には日本犬である狆を100頭以上飼育していたといわれています。

縄文時代の狩猟犬に始まり、奈良・平安時代はペットとして屋外飼育、鎌倉時代の悲しい歴史をたどり、江戸時代には法律で保護された日本の犬たち。現在は西洋文化による室内飼育が当たり前となり、ペットから「家族の一員」へと変わりつつあります。

『進化をとげた』現代の犬と人間の関係

盲導犬と人間

当初は狩りの相棒として始まった人間と犬との関係ですが、その後人類と犬は信頼関係を深め、犬は人の生活の中で様々な役割を担うようになります。

人間は犬を品種改良することにより、それぞれの仕事により適した気質や体型に犬を変化させてきました。今や両者の生活は切り離すことができないものになっています。

人間を助けてくれる犬達

犬はさまざまな用途により分類され、飼育されて人間の生活を助けてきました。

  • 盲導犬
  • 介助犬
  • 聴導犬
  • 警察犬
  • 災害救助犬
  • 牧畜犬

盲導犬や聴導犬、介助犬は最も身近な使役犬です。盲導犬は主にラブラドール・レトリバーですが、聴導犬、介助犬は様々な犬種が任務にあたっています。

子犬の頃に性質テストに合格した犬が、幼少期より人を助ける訓練を受けます。そして、訓練を終えてから老化が進む頃まで、たった一人の人の生活を支えるために尽くすのです。

警察犬と災害救助犬は猟犬の血を引く犬種がふさわしく、日本ではジャーマンシェパードやゴールデンレトリバーが多くを担っていますが、雪山などではセントバーナードも活躍します。

ボーダーコリーやコーギーなどは牧畜農家の助けとなり、放牧中の羊や牛をオオカミから守ったり、正しく移動できるように導いたりします。コーギーは牛や羊の足元に噛み付いて行動を制御するため、かつては牛に踏まれにくいよう長い尻尾を断尾する慣習がありました。

愛玩犬として、人間のパートナーに

現在では使役犬として飼育される犬より、家族の一員として過ごす犬が増えています。

かつて日本ではほとんどの犬が外飼いされていましたが、小型の西洋犬種の人気により、今や室内飼育が当たり前となっています。

室内飼育が普及したことで人間によるケアが行き届きやすくなり、ペットフードの改善や獣医療の進化も助けとなり、犬の寿命はここ30年間で倍近く伸びています。

犬の品種改良の歴史

オオカミ

現在は、数百種類の犬種が存在します。犬はその用途に合わせて品種改良がなされてきました。

犬より少し後に家畜化された猫が多くても100種程度で、大きさや姿もそれほど差がないことと比べると、どれほど犬が人間の仕事に役立つパートナーだったかがわかります。

中世ヨーロッパの貴族にとって、狩猟は地位と力の象徴として極めて重要なものでした。貴族たちは追う動物の種類や狩猟方法によってさまざまな犬種を作り出しました。

獲物の位置を知らせるポインター、ウサギ狩りに使われていたビーグル、またボルゾイはウサギ狩りやオオカミ狩りのための犬種でした。

また、番犬としてドイツで作られたドーベルマン、警察犬・軍用犬としてジャーマンシェパードやシュナウザーなど、狩猟目的以外の品種も作出されました。

闘犬として誕生した犬種もいます。ピットブルは19世紀頃イギリスで闘犬競技のために作られました。しかし動物愛護の観点から闘犬が禁止された現在は、牧羊犬や番犬、時には子供の保護者として優秀な働きをしています。

またもとの犬種から更に改良を重ねて別の犬種が作出されることもあります。

例えば、水猟犬として有名なプードルですが、その祖先として「バルビー」という犬種も存在します。撃ち殺した獲物を回収するレトリーバーは、カナダの網引き犬だったニューファンドランドを祖先に持っています。

そして、18世紀中頃に富裕層で流行した犬の品評会が、やがて庶民の間にも広がっていきます。産業革命で豊かになった庶民が犬を飼うことができるようになり、この頃から愛玩犬である小型犬種が増えていきました。

かつてはフランス貴族に愛されたパピヨン、もとは中国内のチベット出身といわれるパグ、白く輝く被毛を持つマルチーズやボロネーゼも、まさに人間に愛されるためだけに生みだされたのです。

それぞれの犬種はもともとはオオカミに似た形から、犬種の機能を高めるためにかけ合わされ、改良され、人間のパートナーとして変化してきたのです。

まとめ

犬と人間のハイタッチ

犬は人間の最良の友といわれますが、これは犬が最古の家畜動物だからというだけではないでしょう。私たち人類は、狩猟時代から現代に至るまで一度も犬と隔絶された歴史を送ることなく、進化を共にしてきたのです。

狩猟や番犬を任されていた時代から、人間の生活を豊かにすることに貢献してきた犬たち。現在では多くの犬が、家族の一員としての地位を獲得し、寒さや飢えのない暮らしを享受しています。

犬がいつから人間とともに暮らし始めたのか、そのときいったい何があったのかの謎を解くには、今後の研究結果を待たなければなりません。しかし犬は人間との暮らしを選ぶことで、地球上で最も繁栄に成功した動物種の一つとなりました。

犬と人、どちらか一方に利があったわけではなく、お互いに「最良の友であり続けること」が、イエイヌとホモサピエンスの繁栄を築いたのかもしれません。

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