犬ぞりで活躍する犬種はどんな犬?
現在、一般の人でも体験できる「犬ぞり」です、かつては寒冷地での人や荷物の運搬に欠かせない手段でした。ここでは、犬ぞりの歴史や犬種の特徴についてご紹介します。
犬ぞり犬種たちの活躍の歴史
犬ぞりの歴史は非常に古く、3万〜3万5千年前にはすでにモンゴルに存在していたと考えられています。
紀元前1000年頃、移住先が北極圏に近づくにつれ、犬ぞりの需要がさらに高まっていきました。犬たちは、カナダ北部の寒冷地に住む先住民イヌイットの間で、狩猟犬や「犬ぞり」の役割を担っていました。
主に北極地方などの高緯度な地域で馬などの、人や荷物を運送する役割を果たす動物や車輪を使用できない、狭い雪道などで犬ぞりが活躍していました。
日本では、1983年の映画「南極物語」が注目を集め、南極観測隊として参加し、無事生還した樺太犬のタロ・ジロの実話が語られています。
また、1932年にニューヨーク州レイクプラシッドで開催された冬季オリンピックでは、公開競技として犬ぞりが行われた歴史もあります。現在では、レースや犬ぞり体験などの観光の一環として人気を博しています。
そり犬として活躍できる犬種の特徴
そり犬として活躍するには、主に以下の条件が求められます。
- 高い身体能力
- 重いものを牽引するための頑丈な体と筋肉
- 長時間の移動に耐えられる体力
- 極寒の地での厳しい生活にも耐えられる強靭さと忍耐力
体重45kg前後の大型犬は、寒冷地で重い荷物や人間を乗せて長距離を移動するそり犬として利用されている。そり犬1頭で犬自身と同じ重さの荷物を運ぶことができると言われている。
重い荷物や人間を、寒い地域で長距離運べるように、体重45㎏前後の大きな犬が、そり犬として活躍しています。そり犬1頭で、犬自身と同じ重さの荷物を運ぶことができると言われています。
犬ぞりで活躍する7犬種
大型犬が活躍する「犬ぞり」ですが、主にどのような犬が活躍しているのか、代表的な7犬種をご紹介します。また、日本ではあまり見かけない犬種も取り上げますので、ぜひご覧ください。
シベリアンハスキー
シベリアンハスキーは、ロシア連邦領内のシベリア地方を原産地とする犬種です。そり犬としての歴史は古く、シベリアの先住民であるチュクチ族のそり犬として活躍していました。
シベリアンハスキーは、一般的に穏やかで人懐っこく、飼い主に従順な傾向があります。この犬種の特徴は、「黒・青・茶・黄・オッドアイ」など、様々な目の色があることです。
シベリアンハスキーは身体能力が高く、重いものを牽引したり、長時間の移動に耐えられる強さがあります。これは、そり犬として飼育されてきたためだと考えられます。
アラスカンマラミュート
アラスカンマラミュートは、アメリカのアラスカ地方で誕生した犬種で、極寒の地でソリを引く役割を担っていました。
また、先住民であるマラミュート族の狩猟のパートナーだったという歴史もあり、重い荷物を運びながら長距離を移動していたため、引く力と長距離に耐えるスタミナを持っているのだそうです。
アラスカンマラミュートとシベリアンハスキーはよく間違えられますが、両種の違いはその大きさにあります。
〈シベリアンハスキー〉
- 体高:50〜60cm
- 体重:15〜27kg
〈アラスカンマラミュート〉
- 体高:58〜71cm
- 体重:39〜56kg
アラスカンマラミュートは、ハスキーより一回り大きいのが特徴です。シベリアンハスキーは主にロシアが原産地で、アラスカンマラミュートはアメリカが原産地です。
グリーンランドドッグ
グリーンランドドッグはグリーンランド固有の犬種で、残念ながら日本ではほとんど見ることができません。
極寒の地での過酷な生活にも耐えうる体力と忍耐力を持つことから、犬ぞりや狩猟に利用されていました。一時は絶滅の危機に瀕していましたが、現在は数を回復し、犬ぞりやレースで活躍したり、家庭犬としても人気があります。
ノルウェジアン・エルクハウンドグレー
ノルウェジアン・エルクハウンドグレーは、ノルウェーを原産地とする犬種です。
非常に古い犬種で、8世紀ごろにはスカンジナビア半島で狩猟や熊狩りに参加していたと言われています。もちろん、冬場はそり犬としても活躍していたようです。
西ヨーロッパを侵略したヴァイキングも、遠征の際には必ずノルウェジアン・エルクハウンドグレーを連れて行ったという歴史があります。
ニューファンドランド
ニューファンドランドは、主にカナダを原産地とする犬種です。
カナダでは飼育頭数が制限されていたため、一時は絶滅の危機に瀕したが、その後、イギリスのドッグショーで紹介され、人気犬種となり、積極的に繁殖が行われるようになりました。
頑丈な体と筋肉を生かし、重い荷物を運ぶそり犬として活躍しています。
カナディアン・エスキモードッグ
カナディアン・エスキモードッグは、カナダの北極圏を原産地とする犬種です。
古くはイヌイット族によって飼育され、主に荷物の運搬に使用されていたと言われています。冬場は1頭あたり45〜80kgの荷物を24〜110kmの距離を運んでいた記録があります。
カナディアン・エスキモードッグの特徴は、体高51〜69cm、体重27〜48kg、筋肉質で引き締まった体、長いマズルと脚です。
樺太犬
樺太犬は、北海道よりさらに北に位置するロシア連邦の領土サハリンと千島列島に住むアイヌの人々によって生み出されたと考えられています。
体高54〜67cmの大型犬で、筋肉質でたくましい体つきをしています。前脚の筋肉は、犬ぞりを引くために発達したと考えられています。
また、樺太犬は北の大地に生息しているため、寒さに強く、1902年に陸軍の白瀬中尉らが犬ぞりとして活躍していたといわれています。樺太犬は戦後、日本が南極を観測した際にも活躍しました。
しかし、残念ながら車社会の到来とともに使役犬として必要とされなくなり、キノコックス症の発生など不幸が続き、1970年代には樺太犬はほぼ絶滅してしまったとのことです。
犬ぞりにおける犬たちの仕事
実は犬ぞりを牽引する犬たちにも、隊列やポジションが存在します。立地に合わせた隊列からなり、それぞれのポジションに適した性格の犬が選ばれています。
ここでは、犬ぞりにおける犬の仕事について見ていきます。
地形に合わせた隊列が組まれる
そり犬のつなぎ方は、大きく分けて2通りあります。
ファンタイプ
1頭1頭をソリに直接繋ぐ方法です。カナダ北部のイヌイット族に古くから伝わる方法で、犬が広がって走る姿が「扇(ファン)」のように見えることが由来と言われています。
タンデムタイプ
犬を2頭ずつ、縦のラインに並べて繋ぐ方法です。
幅を取らないので、森林などの狭い道や急な道を走るのに適しています。犬ぞりレースや犬ぞりツアーでは、主にタンデムタイプが使われています。
そり犬にはつなぐ位置に合わせた役割分担がある
犬ぞりでは、それぞれの犬に決まったポジションがあります。主なポジションは以下の通りです。
リードドッグ
先頭(前列)を走る犬のポジションで、そりの進路を決める重要な役割を担っています。
賢いことはもちろん、操縦する人間に忠実に従う性格が必要とされます。リードドッグの割合はメスが多いといわれ、直観力が優れていて、物怖じせずに進むことができる犬が適任です。
ポイントドッグ
別名スイングドッグとも呼ばれ、リードドッグの後ろを走る役割の「ポイントドッグ」です。
全体的な協調性と方向性、足の速さ、そしてある程度のスタミナが必要なポジションです。スピードとスタミナを兼ね備えたバランスの良いタイプの犬がこのポジションに付きます。
チームドッグ
ポイントドッグと最後尾の犬の間を走る「チームドッグ」は、引っ張る力の底上げをする役割があり、「チームドッグ」が必要なのは、そり犬が8頭引きの場合のみです。
※6頭の場合は「チームドッグ」は省略されます。
ホイールドッグ
ホイールドッグはそりに一番近い最後尾に配置され、そりを操縦する人とそり犬をつなぐ役割を担っています。このボジションは、協調性があり、体力のある犬が選ばれることが多いのが特徴です。
人も犬の負担を減らすために協力している
犬ぞりの操縦者は「マッシャー」と呼ばれ、これは犬に人や物を運ばせる行為「マッシング(mushing)」に由来しています。そりに乗ったマッシャーが「行け」「止まれ」などの指示を出し、犬をコントロールします。
突然のアクシデントに慌てたり、疲れて犬の存在を忘れるようなことが続くと、犬は混乱し、反応しなくなることがあります。犬から尊敬されるマッシャーになるには、自分自身の体力が必要とされています。
犬の負担を減らすためには、ペダリング(地面を蹴る)したり、犬が疲れてきたらソリから降りて雪道を走るなどの協力が必要です。また、犬たちの負担を軽くするために、隊列を組み替える作業も行っています。
まとめ
犬ぞりは古くから人や荷物の運搬に使われており、他の使役動物や車両が通れない極寒の地で幅広く活躍していました。
基本的に、大型で力持ちの犬種が犬ぞりを引っ張ります。ただ全速力で走るのではなく、一定の隊列を組み、各犬のポジションも決まっています。
現在、日本の寒い地方では「犬ぞり」体験が実施されているので、興味を持った方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。