犬は自分が大きいとか小さいとか理解しているの?
大きな体の大型犬が膝に乗って甘えて来ると「この子は自分のことをチワワくらいの大きさだと思ってる」と笑ったり、小さい小型犬が大きい犬に挑むように吠えると「自分が小さいって分かってないね」とため息をついたりというのは、日常でよく見かける光景です。
でも犬たちは本当に自分の体のサイズを認識していないのでしょうか?近年は犬についての研究が大幅に増えて犬の認知についても多くのことが判りつつあります。しかし認知研究の多くは他の犬や人間に対しての社会的認知に焦点が絞られており、犬た自分自身をどのように理解しているかについての研究はあまり多くありません。
アメリカのバーナード大学犬認知研究所のアレクサンドラ・ホロウィッツ博士が、2つの実験を通して犬が自分自身の体のサイズを認識しているかどうかを調査し、その結果が発表されました。
実験装置の開口部、自分が通り抜けられるかどうか認識している?
実験に参加したのは犬認知研究所のデータベースに登録されている家庭犬44頭でした。年齢は1〜11歳、平均5.5歳です。
第1の実験は木製の壁に幅61cmの開口部が付いた実験装置を使って行われました。開口部には上下する透明のスライドパネルが付いています。犬がいる位置と実験装置を挟んで反対側にはお気に入りのおもちゃを持った飼い主がいます。飼い主が犬の名を呼んで、犬は開口部をくぐって飼い主のところに行きトリーツをもらいます。
最初はスライドパネルを外した状態で、次にスライドパネルを少し下げるが犬は楽にくぐれる状態で、最終的にスライドパネルを大幅に下げて犬がギリギリまで体を低くして通れるかどうかくらいの状態で、飼い主が犬の名前を呼びます。
実験の様子はビデオ撮影されて、実験後に犬の行動を分析するために使われました。研究者は犬が自分の体の大きさを理解していれば開口部が小さ過ぎる時にはそこに近付くまでの時間が長くなり、姿勢を適切に調整して通過するだろうと仮説を立てました。
実験の結果は仮説の通り、開口部が簡単に通り抜けられるくらいの大きさの時には近付くまでの時間が短く、パネルが下げられて開口部が小さくなると近付くまでの時間が大幅に長くなりました。
小さい開口部をくぐり抜ける時の姿勢の調整方法は全ての犬に共通しており、頭を低くして鼻先から入って行くというものでした。上の画像のフェンスの下を覗き込んでいるヨーキーのような姿勢です。
スティックを咥えて一時的に体の幅が大きくなったらどうする?
第2の実験では、44頭のうちスティックで遊ぶのが好きだという13頭の犬が選ばれました。しかしそのうちの7頭は実験を完了することができず、実験データを取ることができたのは6頭のみでした。
実験1と同じ実験装置を使い、今度は口にスティックを咥えて開口部をくぐり抜け飼い主の元に行かなくてはなりません。スティックは大中小の3種類が使われました。スティックのサイズが大きくなると開口部で引っかかり、普通に咥えたままでは通過できないので工夫が必要です。
犬たちは何度か試行するうちに、通過する時にスティックを口から離したり首を傾けて角度を調整して通り抜けるという解決方法を編み出しました。一番最後のトライアルでは好きなサイズのスティックを犬自身に選ばせたところ、3頭は大、1頭が中、1頭が小、1頭は何も選択しませんでした。
1つめの実験の結果からは、犬は自分の体の大きさを把握して認識しており環境に合わせて調整することができると判りました。2つめの実験はデータの少なさから予備的なものとなりますが、犬は経験によって行動を変えられることを示しています。
まとめ
犬は自分の体の大きさを認識していること、環境に合わせて調整したり、口に咥えたもので体のサイズに変化があった時には経験によって対応を学習するという実験の結果をご紹介しました。
日常生活の中で犬を観察していると何となく「そうかな?」と思っていたことも、こうして複数の犬でデータを取って仮説を証明することで明確になります。犬が何をどのくらいどのように認識しているかを把握することは、犬の行動や生活環境を適切に整えるためにも必要です。
ところでこの実験ですが、犬が実験装置をなかなか通過できなかった時には過度にストレスを感じさせないように、装置の横のカーテンを開けて飼い主さんのところに行けるようにするという配慮をしていたそうです。さすがは犬の認知の研究所だと嬉しくなりますね。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/11/3/620/htm