人から犬へのあくびの伝染は共感の表れではない【研究結果】

人から犬へのあくびの伝染は共感の表れではない【研究結果】

一緒にいる人間から犬へあくびが伝染することについて、従来の説を否定する研究が発表されました。犬におけるあくびの伝染についての研究をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

人間のあくびが犬に伝染することについての研究

一緒にあくびをする犬と女性

なぜあくびをするのか、についても、脳に多くの酸素をいきわたらせるためや脳の温度調節のため、心理的な原因から、など様々な説が唱えられ、不明なことも多くあるのですが、この「あくびの伝染」についても心理学や認知科学、発生学などの点からの研究が数多く行われており、そのいくつかは「あくびの伝染は犬が相手に対して共感や親愛の感情を抱いていることの表れである」ことを提唱しています。

犬も伝染性のあくびをする、犬の伝染性のあくびも相手に対する共感の表れではないか、という研究結果がこれまでに出されていたのですが、今回、この犬における「あくび共感説」について、ニュージーランドのオークランド大学の動物心理学の研究者たちが、過去の6つの研究におけるデータを再検証する調査と新たな実験を行い、その結果が発表されました。

あくびが伝染するのは共感のシグナルなのだろうか?

人間のあくびが犬に伝染するという現象を調査するため、研究チームは過去に発表された犬の伝染性あくびに関する6つの研究からのデータを、それぞれの研究で用いられていた方法とは異なる統計解析手法、ベイズ統計学による手法を用いて再解析しました。データには257匹の犬が含まれています。これは、今までの犬のあくびに関する研究で最も規模の大きいデータということになります。

今回の研究で、まず研究者は「犬は伝染性のあくびをするのか」を再検証しました。その結果、「犬は伝染性のあくびをする」ことが確認され、次に「犬の伝染性のあくびはあくびをした人との親密さや犬の性別によって影響を受けるのか」を過去の研究の再検証と新たな実験によって検証しました。

検証の結果、「犬の伝染性あくびは共感によるものである」という説を支持する証拠を見つけることはできませんでした。最初にあくびをした相手との親しさや伝染性あくびをした犬の性別、最初にあくびをした人との社会的な関係のどれもに、犬の伝染性あくびとの関連が認められなかったのです。

この研究では、犬へのあくびの伝染は、最初にあくびをした人に対する共感の表れとは言えなかった、ということです。ちょっと残念ですね。

奥が深い「あくびの伝染」

女性に抱かれてあくびをするジャックラッセルテリア

研究者はデータの再検証の結果から、犬に「伝染性のあくび」が存在するということに対しては強力に断定できる結果が得られたと述べています。しかし、伝染性のあくびが他者への共感のシグナルである、という説を支持する結果は得られなかったとしています。

しかし、この研究が犬の伝染性あくびと共感の関連を完全に否定するものでもありません。また、犬の人に対する共感性について何らかの結論を述べているものでもありません。研究者は共感をは一般的に「他者の状態に対する感情的および精神的感受性」と広く定義されています。しかし、この「共感」を何で測るのか、が難しいのです。過去の研究でも今回の研究でも「親しさ」や「性別」、「社会的な関わり方」をもって共感の程度を判別していますが、それらはあくまでも「共感」を測る間接的な尺度でしかないのです。今後、伝染性あくびと共感の関連について研究するならば、人間以外の動物で「共感度」を直接測る手法の開発が重要となる、と研究者たちは言っています。

今後、伝染性あくびに関する研究は、動物の伝染性あくびの理由はストレスによるもの、コミュニケーションの一環として、警戒心から起こるものなど、共感以外のものではないか、という研究や、哺乳類以外の動物での研究が進められる可能性があるそうです。

まとめ

ソファーであくびをするゴールデンレトリーバー

過去のいくつかの研究が提唱していた「犬にあくびが伝染するのは犬がその人に共感しているから」という説に対して、データの再検証から「あくびの伝染は共感が存在するというシグナルにはならない」という結果が発表されたことをご紹介しました。

犬は私たちのすぐそばで様々な表情を見せてくれるので、自分のすぐ後にあくびをしたりすると「感情的につながっているのかな」と思いたくなりますが、そのプロセスを理解するためにはまだ分かっていないことがたくさんあるようです。今後の研究で、さらに深い犬の心理が明らかになっていくとしたら楽しみですね。

《記事内の論文》
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.2236

【この研究の背景についての補足】

 あくびがうつる、という経験はほとんどの方がしたことがあると思います。人間においては、この伝染性あくびと共感との関連性は、概ね認められています。他者への共感力が乏しい4歳未満の子供と自閉症スペクトラムを持つ子供では伝染性のあくびが見られにくいこと、より親しい人との間に伝染性あくびが見られること、男女ともに伝染性あくびをするが女性でより頻回に伝染性あくびが見られること、がその根拠となっているようです。

しかし、動物、特にチンパンジー以外の動物においては伝染性あくびに関する研究が少なく、また研究によって全く違う結果も出ていることから、今回の研究者たちは複数の研究を再解析する必要性を感じたとのことです。

今回の研究結果からは犬の人からの伝染性あくびと共感との関連は否定されましたが、データ再解析の対象となった6つの研究の中には、日本で行われた「犬にあくびがうつるのは共感による可能性がある」とする研究もあるので、最後にご紹介いたします。

獣医師:木下明紀子
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