1.犬のしつけの基本〜考え方と飼い主の心構え
しつけは愛犬の命を守るためのもの
あるしつけ教室に参加した時、トレーナーが発した言葉がとても印象に残りました。
「しつけとはイイコにするためじゃないですよ! その子の命を守るためにするんです!」
たとえば呼び戻し。もしリードが外れてしまった時、「おいで!」のひとことで犬がすぐに戻って来れば、交通事故など悲惨な事故を防げるということ。
目からウロコが落ちました。
緊急時こそ、しつけがものをいう
3.11の震災後、しつけができている犬ほど早く里親さんが見つかったと聞いたことがあります。また、日頃からハウスをはじめしつけができていれば、避難所その他病院などの施設でも、犬自身もストレスが少なく、周囲にも受け入れてもらいやすいといいます。
犬が苦手な人にも受け入れてもらえるように
犬はいまや単なるペットではなく家族、そして社会の一員でもあります。
犬が人間社会の中で多くの人に受け入れられるようにするには、人に迷惑をかけないようしつけることが不可欠。
「まぁ、これだけちゃんとしつけられているなら、いいか」と、犬が苦手な人にも肯定的に受け入れてもらうためにも、しつけは大切です。
犬にリーダーは必要?
これまで犬は狼の子孫=群れで暮らす動物なので、食事は人間が先、玄関の出入りも人間が先、ソファやベッドに犬を乗せてはいけない、など、人間が犬のリーダーとして主導権を握るしつけ法がメジャーでしたが、最近では事情が違ってきました。
主従関係ではなく信頼関係へ
犬は犬どうし、または人とコミュニケーションを取りながら意思疎通をはかり、時には共同で行動する社会性を持つ動物。状況判断に優れ、学ぶことができ、様々な環境にも適応できる動物です。
最近では、主従関係で従わせるのではなく、犬の気持ちを汲んだ対応で信頼を勝ち取り、犬が自ら喜んで飼い主の意図に従うよう導くという考え方にシフトしています。
してはいけないことを力で教えるのではなく、してほしいことをほめながら教える方法がメジャーとなっています。
2.子犬のしつけ方
子犬・・・生後〜6ヶ月
子犬期の学びは、その子の一生を左右するほど重要なもの。正しい知識で臨みたいものです。
社会化期
子犬が社会に本格的にデビューするための準備期間として、生後3ヶ月頃までを社会化期と呼びます。
恐怖心より好奇心が強く、物事をどんどん吸収できる学びの時期なので、日常の様々なことを経験させ、最低限のしつけを行います。
人、音、物、景色、外の環境にならしていく
単純なことのようですが、実はこれがとても重要。これらの経験が少ないと、その後、特定の物事を極度に怖がったり過剰に反応するようになりがちです。
家族以外の人に慣れるためにも、来客があれば、その人の手からおやつをもらったり、触れ合ってもらうのも良いでしょう。
また、電話の音、掃除機の音、チャイム、外なら救急車やバトカーのサイレン、飛行機の音など、人間社会にあふれている様々な音を聞かせたり、ワクチン前なら、抱っこして家の周辺を歩きながら、徐々に車や自転車、バイクが走っている様子を見せていきましょう。
体のどこでも触れるようにする
耳、口周り、爪先、おなかやお尻付近など。爪切りや歯磨きなど日常のケアを嫌がらずにできるようにするためにも大切。特に犬は金属に触れることを嫌う傾向があるので、爪切りでつま先を撫でるなどして感触に慣らしていくと良いでしょう。
トイレのしつけ
寝起きや食後、遊びの後、興奮した時などに排泄することが多く、それらのタイミングでトイレに誘導し、成功したらよくほめることを繰り返すと早く覚えます。
特に排泄の姿勢をした時に「ワンツーワンツー」「チッチ、チッチ」など声かけをすると、外出前など、排泄して欲しいときに促すこともできるようになります。
たとえトイレを失敗しても、粗相した場所に鼻を押し付けて怒ったり、叩いたりしてはいけません。犬が「排泄自体を怒られた」と、誤って認識をしてしまい、次からは怒られないように飼い主さんの見ていない場所で隠れてトイレをしてしまう可能性があります。
また、「怒られたこと=かまってもらえる」と思い違いをして、かえって粗相をするようになることもあります。粗相を見つけたときには怒らずに片づけて、臭いを残さないようにしましょう。
ハウスのしつけ
ハウスの中におやつを入れて自分から入ったところでほめましょう。最初はいきなり扉を閉めず開けたままで。中で過ごすことに慣れてきたら、短時間ずつ扉を閉めて、外からおやつをポロポロ入れ、ハウスの中にいると良いことがあると教えると、自分から喜んで入るようになり、扉を閉められても平気になっていきます。
ハウスは(おやつがもらえるなどの)嬉しいことがある場所、居心地の良い空間と思えるためにも、罰を与えるためにハウスに閉じ込めることがないようにしましょう。罰でハウスに閉じ込められるなどの嫌な経験をすると、かえって犬がハウス嫌いになってしまいます。
3ヶ月頃から基本的な指示のしつけを開始
物事への理解力も育ってくるので、オスワリ、フセ、マテ、オイデなどの基本的なしつけを開始すると良い時期。様々な方法がありますが、ここではごく一般的な「ほめて教える」方法を簡単に紹介します。
アイコンタクト
全てのしつけの基本。おやつを人の目の高さに持って名前を呼び、目が合ったらほめておやつをあげる。おやつの代わりに音の鳴るおもちゃで気を引き、目が合ったらそのおもちゃで遊んであげるのも良いでしょう。
オイデ
二人でやると簡単にできる方法。ひとりがしゃがんで子犬を保定。もう一人が少し離れたところでおやつを見せて「○○(名前)おいで」と呼び、同時に子犬を押えている人が手を放します。犬が足元までやってきたらおやつを犬の鼻先から人の目の高さまで動かし、お座りしたらよくほめておやつをあげます。
※決してやってはいけないこと・・・名前を呼んで犬が来た時に「何でもっと早く来ないの!」と叱ったり叩いたりすると、呼んでも来ないコになってしまいます!
オスワリ
犬は放っておいても座るもの。たまたま座った瞬間に「オスワリ」と言ってフードをひと粒口に入れてやるだけでも子犬はすぐに覚えます。
または部屋のすみなど、犬がそれ以上下がれない場所で、フードを鼻先から耳の間に動かすと、目で追って頭が上がり自然にお尻が下がるので、お尻が床にしっかりついた瞬間に「オスワリ」と言って、「イイコ」とほめておやつをあげる方法もあります。
フセ
オスワリ同様、部屋の角などでフードを犬の鼻先→真下→手前に向けてL字型に動かし、フードを追って犬の頭が下がり前脚がしっかり床についたところで「フセ」と言って、よくほめておやつをあげます。
マテ
これはアイコンタクトとオスワリがしっかりできるようになってから。
まずオスワリさせ、おやつなどを使ってアイコンタクト。そのおやつを見せたまま、最初は2〜3秒でもじっとしていられたら「イイコ」とほめておやつを上げましょう。これがしっかりできるようになったら「マテ」の言葉をつけてじっとしていられる状態をキープ。次の段階では、「マテ」の指示を出した後、ゆっくりおやつを下において、少しでも待てたら「ヨシ」でおやつを与え、徐々に「マテ」の時間を延ばしていきます。
お散歩の練習
ワクチン前のまだ外に出せない時期は室内で練習します。まずはカラーとリードに慣らすこと。最初はカラーにリードをつけたまま自由にさせます。
子犬がリードを気にしなくなったら、リードを持って室内を歩いてみます。名前を呼んでこちらを見たらおやつをあげます。
次の段階では、おやつで足の横に誘導し、1歩でも2歩でも横について歩けたら、よくほめておやつをあげます。さらにできるようになったら歩く距離を徐々に増やしていきます。
室内でできても、外では周囲に気を取られて、飼い主さんの存在すら忘れたかのようにふるまいがち。そういう時は名前を呼び、こちらを見たらおやつをあげたり、無言で方向転換をして子犬がついてきたら、よくほめておやつを上げましょう。
青年期・・・生後6ヶ月〜12ヶ月
考える力や自信が出てきて、言うことをきかなかったり指示を無視するような場面も・・・。いわば反抗期。叱るのはマイナスです。あらためて基本的なしつけを繰り返したり、一緒によく遊んで、飼い主と一緒にいること=楽しいこと、と結びつけていきましょう。
3.成犬のしつけ・・・生後12ヶ月〜
絆が深まる反面、飼い主の手抜きも目立ち始める時期
意思疎通もできるようになり、ますます犬のいる生活が楽しくなってくる頃。
いっぽうでは、しだいに飼い主さんが手を抜き始める頃でもあります。
また、子犬の時期にしっかり教えていなかったため、オスワリやマテができないために困る状況に直面することも・・。
成犬でもしつけは可能
成犬になってもしつけはできます。時間はかかりますが基本的には子犬と同じ方法で根気よく教えていきましょう。
また、様々な問題行動も出がちですが、放置せず早めに対応することです。
自信がない場合は、ドッグトレーナーに相談を。出張トレーニングを依頼する方法もあります。
愛犬と一緒に楽しめることを見つける
基本的なしつけができてきたら、愛犬と一緒に楽しめることを始めるのも良いでしょう。
代表的なものでは、アジリティ(犬の障害物競走)やフライングディスク(フリスビー)、ドッグダンス、ドッグヨガなど様々な種目があります。これらはすべて犬と人との共同作業。信頼関係を深め、絆を強めるにはとても良い方法です。
4.しつけに役立つグッズ
環境音CD『WANモア・レッスン アウトドア編』
掃除機や電話の音、電車やバイク、雷の音など、様々な日常的な音が収録されています。社会化期の子犬や特定の音が苦手な成犬にも、さりげなく室内に流して慣らしていくのに役立ちます。最初は小さな音から、徐々に大きな音へ。CDを流している間は一緒に遊ぶなど、ポジティブな経験と結びつけて行くのがポイント。
クリッカー『ペットセーフ クリッカー』
犬が、飼い主が望む行動をした瞬間にカチッと音をさせて「それが正解!」と伝えるしつけの道具。言葉で教えるより、音が常に一定なので犬に伝わりやすく、習得も早いという便利な道具。カチッと鳴らした後、必ずフードやおやつをあげることが大原則です。
クリッカーの使い方を解説した本もあります。
コングやトリーツ・トイ
中におやつを詰め、お留守番の時に犬が退屈しないよう与えるのが一般的な使い方。トリーツ・トイは転がしたりすることで小さい穴からおやつがこぼれ落ちる仕組み。どうしたらおやつを取り出せるか頭を使うため、知育効果もあります。様々な形、素材、大きさがあるので、愛犬に合ったものを選びましょう。
5.しつけの大切さ、幸せなペットライフをめざして
ごく基本的なしつけだけでも、犬との生活の可能性は広がる
我が家のしつけデビューは少々遅く2才半の時でしたが、前半で解説した方法で基本的なしつけをひと通り行い、子犬よりは手こずったものの、それでもちゃんと覚えてくれました。
甲斐あってか、6才になった今では「お行儀が良いコね」とほめられることも増え、どこへでも安心して連れて行くことができ、ペット可のホテルの宿泊もOK。イベントなどにも積極的に参加でき、犬と暮らす楽しみがより広がりました。
さいごに
私自身の経験から、例えば「オスワリ」ができるようになったことそのものより、しつけを通じて犬との意思疎通が格段に深まったことこそが一番の収穫と感じます。
最近では、視線ひとつ、合図ひとつでこちらの意図を理解することも増えてきました。
飼い主さんの中には、しつけによって犬を型にはめることを好まないなど、しつけに抵抗を感じる人もいるようです。
でも、たとえ形から入ったとしても、基本的なしつけを行う中で、意思疎通がはかられ、見えない絆が育まれる過程こそが、とても重要な気がします。
特に犬を初めて飼うなど、どう接してよいか分らない人にとって、しつけは信頼関係を築くための最初のきっかけとなります。
犬は人間の笑顔を認識できることが最近の研究で明かされています。
指示を教え、それができれば飼い主は嬉しいもの。そして犬もまた飼い主のその様子に嬉しくなるのです。笑いかければ笑顔が返って来る・・・そんな気持ちで、楽しみながらしつけを行ってほしいと思います。
ユーザーのコメント
20代 女性 こなつ
車に吠える。花火に吠える。チャイムに吠える。怖い時に吠えるわんちゃんは子犬の時にいろんな音、環境になれていないことが多いです。うちの子は注射が終わったときからすぐに車に乗っていろんなところに連れて行っていろんなことをしていたので、何に対しても吠えないですし、知らぬ間にそれなりのマナーが身について何処え連れて行ってもお利口にしていてくれます。
トイレのしつけだけはきちんとしましたが…。なので私は、いろんなことに慣れさせるのはしつけの前に大事なことだと思います。
30代 女性 Chappy
愛犬とお散歩中、いきなり首輪からスポッと外れたことが一度ありました。
車やバイクが通る場所に近かったので、一歩間違えれば大事故につながる可能性もありました。
私は、生後半年の赤ちゃんを抱っこ紐しながらお散歩していたので、走って逃げられたらもうだめだ…と本当に冷や汗をかきました。
追いかけたら愛犬は面白くなって逃げる!とその瞬間思い、大丈夫だよ!大丈夫だよ~!とそっと近づき首輪を閉めることができたのですが、これがもしも飼い主の言うことを聞かず走っていってしまっていたらと思うと、今でも怖くてたまりません。
ですから、命を守るためにしつけをするということは本当に大切だと思いました。
30代 女性 TIKI
何事も始めが肝心で、「そのうちしつける」ではなく、飼い始めた今から少しづつ根気強くやっていきたいと思いました。
女性 雀3号
子犬のしつけでは叱る時期を間違えると、その後もトラウマになりしつけ自体が難しくなる、と聞きました。褒める時期、叱る時期を見極めてしつけていくことも大事だと思いました。
何にでも興味を持ち始める社会化期にはたくさんの人やもの、行動をできるだけ多く吸収させることで無駄吠え防止にも繋がります。犬は自分のわからない未知のものに不安を覚えます。大事にと家の中に閉じ込めておくのではなく、積極的に出かけていくことがとても重要ですね。
以前車の通りが多いところで愛犬の首輪が外れてしまい、車道のすぐ隣を全力で走って逃げられてしまったことがありました。この時「オイデ」をしても興奮した状態で全く効かず、愛犬はこのまま行方不明になってしまうかもしれないと血の気が引きました。最終的には「オヤツ!」の単語に効果があり、すぐに走って戻ってきました。どんな言葉でもいいので愛犬がこちらに戻ってくるコマンドは必ず教えた方が良いです。
犬も同伴できる宿などでは、予約の時点で参考までにしつけの有無などを尋ねられることがあります。どこかへ出かけた際に愛犬が大人しく座って待っていられる姿は、「命令をしっかり聞ける犬だから大丈夫だ」と他の方の安心や信頼にも繋がると思います。
女性 桃実
女性 匿名
女性 おたま
子犬の時に初めに教えるのがこの「お座り」と「待て」ですよね。このふたつが命綱になるとは。必ず犬に基本的なしつけは入れないといけないな、と痛感しました。
女性 うつぼ
女性 Mae
女性 猫