おとなしい犬とは?
「おとなしい犬」という言葉には、無駄吠えが少ない、性格が穏やかで落ち着いている、感情の起伏が激しくない、といった意味合いが含まれます。これは、犬が持つ本来の気質だけでなく、育った環境や飼い主による適切なしつけによって形成される特性です。
おとなしい犬は、その穏やかな性格から、集合住宅での飼育や、小さな子供がいる家庭、犬の飼育が初めての方にとって、理想的なパートナーとなり得ます。
彼らは周囲の環境変化に対する順応性が高く、過度に興奮したり攻撃的になったりすることが少ないため、飼い主にとっても精神的な安らぎを与えてくれる存在です。
このような犬との暮らしは、日々の生活に静かで穏やかな時間をもたらしてくれるでしょう。
大型でおとなしい犬種
大型犬は穏やかで落ち着いた性格の犬種が多く、家族の頼れるパートナーになります。ここでは特に温厚で飼いやすく、初心者にもおすすめできる代表的な大型犬種を紹介します。
ゴールデン・レトリバー
特徴・性格
ゴールデン・レトリバーは、その名の通り美しい金色の被毛が特徴的な犬種です。性格は非常に温和で友好的、そして飼い主に対して深い愛情と忠誠心を示します。
人間や他の犬とも良好な関係を築きやすく、非常に賢いため、盲導犬やセラピードッグなど、様々な分野で活躍しています。忍耐力も強く、子供のいる家庭でも素晴らしい家族の一員となるでしょう。
飼いやすさ・注意点
非常に賢く、人懐っこいため、しつけはしやすい部類に入ります。しかし、もともと鳥猟犬であったため、活動的で多くの運動量を必要とします。毎日の散歩はもちろん、ドッグランなどで思い切り走らせる機会を作ることが大切です。
また、豊かなダブルコートの被毛は定期的なブラッシングが欠かせません。遺伝的に股関節形成不全などの関節疾患になりやすい傾向があるため、体重管理や床材への配慮が必要です。
ラブラドール・レトリバー
特徴・性格
ラブラドール・レトリバーは、世界中で高い人気を誇る犬種です。筋肉質でがっしりとした体格を持ち、非常にエネルギッシュです。
性格は極めて友好的で、人に対する信頼が厚く、好奇心旺盛で遊び好きです。ゴールデン・レトリバーと同様に非常に賢く、その作業能力の高さから警察犬や麻薬探知犬としても知られています。
飼いやすさ・注意点
学習能力が高く、飼い主を喜ばせることが好きなので、トレーニングはスムーズに進むことが多いでしょう。ただし、その有り余るエネルギーを発散させるためには、毎日の十分な運動が不可欠です。運動不足はストレスとなり、問題行動につながることもあります。
食欲が旺盛で太りやすい傾向があるため、食事管理には注意が必要です。また、遺伝的な疾患として股関節や肘関節の形成不全が知られています。
スタンダード・プードル
特徴・性格
プードルの中で最も大きいスタンダード・プードルは、優雅で気品のある外見が特徴です。全犬種の中でもトップクラスの知能を誇り、洞察力に優れています。
性格は穏やかで落ち着いており、家族に対して非常に愛情深いです。活発で遊び好きな一面もありますが、普段は落ち着いて過ごすことができます。
飼いやすさ・注意点
非常に賢く、物覚えが早いため、しつけはしやすい犬種です。プードル全般に共通する最大の特徴は、被毛が抜けにくいことです。しかし、カールした被毛は絡まりやすく、定期的なトリミングが必須となります。トリミングを怠ると皮膚病の原因にもなるため、専門家によるケアが必要です。
賢すぎるがゆえに、退屈を感じるといたずらをすることもあるため、適度な運動と知的な刺激を与え続けることが大切です。
バーニーズ・マウンテン・ドッグ
特徴・性格
スイス原産のバーニーズ・マウンテン・ドッグは、がっしりとした体格と、艶のある長い被毛が印象的な超大型犬です。
性格は非常に温和で、飼い主家族に対しては献身的で深い愛情を示します。自己主張することは少なく、穏やかで落ち着いた振る舞いをします。その穏やかな気質から「ジェントル・ジャイアント(穏やかな巨人)」とも呼ばれています。
飼いやすさ・注意点
穏やかな性格のため飼いやすいと思われがちですが、超大型犬であるため相応の飼育スペースと体力が必要です。特に暑さに非常に弱いため、夏場の温度管理は徹底しなければなりません。
豊富な被毛の手入れも欠かせません。また、残念ながら他の犬種に比べて寿命が短い傾向があり、股関節形成不全や癌などの疾患に注意が必要です。迎えるには相応の覚悟が求められる犬種です。
グレート・ピレニーズ
特徴・性格
フランスのピレネー山脈で家畜をオオカミから守る護衛犬として活躍してきた歴史を持つ、主に白色の被毛で、顔や耳などに淡いバジャー・マーキングが入る個体も見られる超大型犬です。
基本的には穏やかで思慮深く、家族に対しては深い愛情と忠誠心を持ちます。しかし、護衛犬としての本能から、縄張り意識が強く、見知らぬ人や物音に対しては警戒心を示すことがあります。独立心が強く、自分で考えて行動する能力に長けています。
飼いやすさ・注意点
その独立心の強さから、しつけには根気と一貫性が求められ、初心者には難しい側面もあります。超大型犬のため、広々とした飼育環境と十分な運動量が必要です。
豊かなダブルコートの被毛は美しさを保つためにこまめなブラッシングが欠かせず、特に換毛期は大変です。バーニーズ・マウンテン・ドッグと同様に暑さに弱いため、夏場の温度管理は非常に重要です。
中型でおとなしい犬種
中型犬はほどよいサイズ感で扱いやすく、マンションなどの集合住宅でも飼いやすい犬種がいます。ここでは無駄吠えが少なく、穏やかで初心者にも向く中型犬種をピックアップしました。
フレンチ・ブルドッグ
特徴・性格
コウモリのような大きな耳(バットイヤー)と、愛嬌のある表情が人気のフレンチ・ブルドッグ。性格は陽気で遊び好きですが、普段は落ち着いており、無駄吠えも少ない傾向にあります。飼い主と一緒に過ごすことが大好きで、非常に愛情深い犬種です。
飼いやすさ・注意点
多くの運動量を必要としないため、都市部のマンションなどでも飼育しやすいでしょう。しかし、「短頭種」と呼ばれる鼻の短い犬種特有の健康問題には十分な注意が必要です。特に呼吸器系のトラブルを起こしやすく、いびきをかく子が多いです。
また、体温調節が苦手で、暑さにも寒さにも弱いため、一年を通して室温管理が欠かせません。顔のシワの間に汚れが溜まりやすく、皮膚炎を起こしやすいため、こまめな手入れが必要です。
シェットランド・シープドッグ
特徴・性格
「シェルティ」の愛称で親しまれ、優雅な被毛と気品のある顔立ちが魅力の犬種です。非常に賢く、洞察力に優れ、飼い主の指示をよく理解します。
性格は穏やかで感受性が豊かですが、牧羊犬としてのルーツから、家族を守ろうとする警戒心を持つ一面もあります。
飼いやすさ・注意点
学習能力が高く、飼い主に従順なため、トレーニングはしやすい犬種です。ただし、警戒心から見知らぬ人や物音に対して吠えやすい傾向があるため、子犬の頃からの社会化が重要になります。
豊富な運動量を必要とし、知的な刺激も好むため、アジリティなどのドッグスポーツにも向いています。長く美しい被毛は、毎日のブラッシングが欠かせません。
ブルドッグ(イングリッシュ・ブルドッグ)
特徴・性格
ユニークで愛嬌のある容姿が特徴的なブルドッグは、その見た目とは裏腹に、非常に温和でのんびりとした性格をしています。普段は寝ていることが多く、落ち着いた生活を好みます。愛情深く、飼い主に対して忠実ですが、頑固な一面も持ち合わせています。
飼いやすさ・注意点
激しい運動は必要とせず、毎日のんびりとした散歩で十分です。フレンチ・ブルドッグと同様に短頭種であり、呼吸器系の疾患や皮膚のトラブル、そして体温調節の難しさといった健康上の課題を抱えやすい犬種です。
特に暑さには極端に弱く、夏場はエアコンの効いた室内での生活が必須となります。よだれが多く、顔のシワの手入れも日常的に行う必要があります。
小型でおとなしい犬種
小型犬は室内での飼育がしやすく、幅広い世代から人気があります。ここでは小型犬のなかでも特に性格が穏やかで、落ち着いて飼いやすい犬種を中心に解説していきます。
トイ・プードル
特徴・性格
日本で絶大な人気を誇るトイ・プードルは、その愛らしい見た目だけでなく、非常に賢く、活発で人懐っこい性格が魅力です。
抜け毛や体臭が少ないことも、室内犬として人気の理由の一つです。学習能力が非常に高く、様々なカットスタイルを楽しめることも特徴です。
飼いやすさ・注意点
賢いためしつけは非常にしやすいですが、甘やかすと要求吠えなどの問題行動を覚えることもあります。被毛が抜けにくい代わりに伸び続けるため、月一度程度の定期的なトリミングが必須です。
活発な犬種なので、小型犬といえども毎日の散歩や遊びの時間をしっかりと確保してあげることが大切です。
また、骨が細く、膝の皿が外れやすい「膝蓋骨脱臼(パテラ)」になりやすいため、高い場所からの飛び降りや滑りやすい床には注意が必要です。
マルチーズ
特徴・性格
純白のシルクのような美しい被毛が特徴のマルチーズは、古くから「抱き犬」として貴婦人たちに愛されてきた歴史を持ちます。そのルーツの通り、性格は穏やかで愛情深く、飼い主に甘えることが大好きです。明るく遊び好きな一面もありますが、基本的には落ち着いています。
飼いやすさ・注意点
飼い主への愛情が深い反面、神経質で臆病な一面もあり、子犬期からの社会化トレーニングが重要です。甘やかしすぎると、警戒心から吠え癖がついてしまうこともあります。
長く美しい被毛は抜けにくいですが、非常に細く絡まりやすいため、毎日のブラッシングが欠かせません。また、涙やけを起こしやすい犬種でもあるため、目の周りを清潔に保つケアが必要です。
シー・ズー
特徴・性格
「獅子犬」を意味する名前を持つシー・ズーは、長く豊かな被毛と、ぺちゃっとした鼻が愛らしい犬種です。性格は非常に穏やかで、プライドが高い一面もありますが、基本的に人懐っこく、他の犬とも友好的に接することができます。のんびりとしており、過度な運動は必要としません。
飼いやすさ・注意点
落ち着いた性格のため、初心者や高齢者でも飼いやすい犬種です。ただし、特徴的な長い被毛は毎日のブラッシングが不可欠で、定期的なトリミングも必要です。
短頭種であるため、いびきをかきやすく、暑さに弱いので夏場の温度管理は徹底してください。また、眼が大きく傷つきやすいため、物にぶつかったりしないよう注意が必要です。
ビション・フリーゼ
特徴・性格
綿菓子のように真っ白でふわふわの被毛が特徴的なビション・フリーゼ。性格は非常に陽気で社交的、人懐っこく、まるで陽気な子供のようです。「アフロカット」と呼ばれる丸いカットスタイルが人気です。
飼いやすさ・注意点
人とのコミュニケーションを好むため、しつけはしやすいですが、一人で過ごすことが苦手で「分離不安」になりやすい傾向があります。飼い主が留守がちな家庭には向かないかもしれません。
抜け毛は少ないですが、細くカールした被毛は絡まりやすく、毎日のブラッシングと定期的なトリミングが必須です。見た目によらず活発なので、日々の散歩や遊びでエネルギーを発散させてあげることが大切です。
パグ
特徴・性格
困り顔のようなユニークな表情と、短い被毛、くるんと巻いた尻尾が魅力のパグ。性格は非常に明るく楽天的で、愛情深く、飼い主を楽しませようとするユーモアのセンスも持ち合わせています。頑固な一面もありますが、基本的には穏やかで攻撃性は低いです。
飼いやすさ・注意点
無駄吠えが少なく、多くの運動量を必要としないため、マンションでの飼育にも適しています。しかし、短頭種特有の健康上のリスクが多く、特に呼吸器系の問題や暑さへの弱さは深刻です。
皮膚のシワに汚れが溜まりやすく、皮膚病にもなりやすいため、こまめなケアが必要です。食欲が非常に旺盛で太りやすいため、厳格な食事管理が求められます。
ペキニーズ
特徴・性格
中国の宮廷で古くから愛されてきた歴史を持つペキニーズは、ライオンのようなたてがみ状の毛と、堂々とした歩き方が特徴です。性格は独立心が強くマイペースで、猫のようだと形容されることもあります。
飼い主には深い愛情を示しますが、見知らぬ人にはあまり関心を示しません。プライドが高く、頑固な一面も持ち合わせています。
飼いやすさ・注意点
落ち着いており、多くの運動を必要としないため室内での飼育に向いています。しかし、その頑固さとプライドの高さから、しつけには根気と工夫が必要です。
褒めて伸ばす方法が有効ですが、しつこくされることを嫌う傾向があります。短頭種であるため暑さに弱く、豊かな被毛の手入れも欠かせません。椎間板ヘルニアにもなりやすいため、腰に負担をかけない生活環境を整えることが重要です。
おとなしい犬に育てるには?
犬種が持つ本来の気質は重要ですが、それだけでおとなしい犬になるわけではありません。飼い主による育て方が、犬の性格形成に大きく影響します。
子犬期の「社会化」で落ち着いた犬にする
犬の性格形成において最も重要な時期が「社会化期」です。これは一般的に生後3週齢から12週齢(または16週齢)頃までの期間を指し、この時期に経験したことは犬の一生に影響を与えます。
ワクチンプログラムを獣医師と相談しながら、安全な範囲で他の人や犬、様々な物、音、場所に慣れさせることが重要です。
適切な社会化は、将来、犬が過剰な恐怖心や警戒心を抱くのを防ぎ、落ち着いた成犬に育つための土台となります。
穏やかな犬に育つための「ブレないしつけ」
犬を混乱させないために、家族全員でルールを統一し、一貫性のある態度で接することが不可欠です。例えば、ソファに乗ってはいけないと決めたなら、誰一人としてそれを許してはいけません。
「良いこと」と「悪いこと」の基準が明確であれば、犬は何をすべきかを学びやすくなり、精神的に安定します。
褒めて伸ばすしつけで穏やかに育てる
ポジティブ・レインフォースメントとは、「正の強化」とも呼ばれ、犬が望ましい行動をした瞬間に褒めたり、おやつを与えたりすることで、その行動を犬自身に「良いことだ」と学習させるしつけの方法です。
大声で叱ったり、罰を与えたりするしつけは、犬に恐怖心や不信感を植え付け、逆効果になることがあります。犬との信頼関係を築きながら、楽しくトレーニングを進めることが、穏やかな性格を育む鍵となります。
犬を穏やかにする散歩と遊びの工夫
犬種や年齢に合った適度な運動は、心身の健康に不可欠です。エネルギーが有り余っている状態は、犬にとってストレスとなり、吠えや破壊行動などの問題行動につながることがあります。
毎日の散歩はもちろん、時にはボール遊びや知育玩具を使った遊びを取り入れ、心と体の両方に適切な刺激を与えてあげましょう。
落ち着いた犬が育つ快適な生活環境
犬にも、一人で静かに安心して休めるプライベートな空間が必要です。クレートやハウスを「お仕置きの場所」ではなく「安全で落ち着ける寝床」として教えることで、犬は精神的な拠り所を得ることができます。
来客時や留守番の際にも、自分だけの空間があることで、落ち着いて過ごすことができるようになります。
まとめ
おとなしい犬との暮らしは、多くの人にとって理想的ですが、その「おとなしさ」は、単に犬種だけで決まるものではありません。犬が本来持つ穏やかな気質と、飼い主が提供する愛情深いしつけ、そして安心できる生活環境が組み合わさって初めて育まれるものです。
この記事で紹介した犬種ごとの特徴や注意点を参考に、ご自身のライフスタイルや家族構成、住環境に本当に合った犬種はどれかをじっくりと検討することが大切です。
新しい家族として犬を迎えることは、その命の最後まで責任を持つという大きな覚悟が伴います。正しい知識を持って、犬と飼い主の双方が幸せになれる関係を築いていきましょう。