短頭種とはどんな特徴を持った犬?
犬は、長い歴史の中で品種改良され、それぞれ特徴ある現在の姿になりました。
目元から鼻先にかけての部分をマズル(口吻:こうふん)といいますが、それひとつとってみても、長いもの、短いものとその形は様々です。
犬を分類する方法のひとつに、頭蓋骨とマズルの長さのバランスにより「長頭種」「中頭種」「短頭種」の3種類に分ける方法があります。
マズルの長さが頭蓋骨の幅(目元から耳元にかけて)より長い犬を「長頭種」といい、風の抵抗を受けにくい顔の形から、走るのが得意な犬が多いことが特徴です。
長頭種の仲間には、イタリアングレーハウンド、ダックスフント、シェパード、などがいます。
頭蓋骨の幅とマズルの長さが同じくらいの犬は「中頭種」といい、多くの犬はこのタイプです。
中頭種の仲間には、コッカースパニエルやレトリバー、柴犬、トイプードルなどがいます。
頭蓋骨の幅に比べマズルが短い犬は「短頭種」といいますが、鼻の長さが短いことをあらわす意味で「短吻種(たんふんしゅ)」ともよばれ、鼻ぺちゃの犬はこのグループに分類されます。
短頭種と聞くと鼻ぺちゃの犬のことだと思われがちですが、キャバリアなども短頭種に分類されており、これらの犬はマズルを短くすることでかわいい印象になるように、主に愛玩目的で改良された犬が多いようです。
鼻先(マズル)が短く口腔面積が狭い
短頭種の犬はマズルが短いので、他の犬に比べると、口の中の面積もおのずと狭くなります。
犬には汗腺がほとんど無く体温を呼吸で調整するため、口内の面積が狭いと熱を気化することができず、熱中症になりやすいといわれています。
また、鼻の中の面積も小さく、嗅球(匂いを感知する神経系のこと)がつぶされて機能不全に陥りやすいため、短頭犬種の嗅覚は、長頭種の犬に比べて劣るといわれています。
目が大きく飛び出している
犬は頭蓋骨の大きさによって眼球の大きさが異なります。
眼球が収まっている頭蓋骨のくぼみを眼窩(がんか)といいますが、短頭種の犬は長頭種や中頭種の犬と比べて眼窩が浅いため、眼球が飛び出しているのが特徴です。
顔周りを中心にシワが多い
短頭種の中には、闘犬にルーツを持つ犬は少なくありません。
かつては、熊や牛と戦うために、また、犬と犬を戦わせるために、噛み付きやすい短いマズルと、攻撃を受けた時のダメージを軽減するためのたるんだ皮膚に品種改良されてきました。
短頭種に当てはまる犬種一覧
短頭種に分類される犬には、色々な種類があります。
中には「この犬も短頭種なの?」と思われる犬種もありますし、普段よく目にする小型犬だけでなく、中型犬、大型犬の中にも短頭種の犬はいます。
次に、短頭種といわれる犬を見ていきましょう。
小型犬の短頭種は日本でも大人気
- フレンチブルドッグ
- ボストンテリア
- パグ
- ペキニーズ
- シーズー
- ちん(狆)
- プチプラバンソン
- チベタンスパニエル
- ブリュッセルグリフォン
- チワワ
- ヨークシャーテリア
- マルチーズ
- ポメラニアン
- キングチャールズスパニエル
フレンチブルドッグやパグのように短毛の犬種は、短頭種であることが分かりやすいですが、ブリュッセルグリフォンのように顔が毛で覆われていて、短頭種であることがわかりにくい犬種もあります。
また、一見すると短頭種に見えない犬種もあります。
チワワやポメラニアンなどは、鼻がつぶれているわけでなく顔にシワもありませんが、頭蓋骨とマズルのバランスをよく見てみると、短頭種の仲間であることがよくわかります。
中型犬~大型犬にも短頭種はいる
- ブルドッグ
- チャウチャウ
- ボクサー
短頭種といえば小型犬を思い浮かべる人も多いですが、実は中型犬、大型犬の中にも短頭種に分類される犬種が存在します。
上記以外に、さまざまな国でそれぞれ別の品種として改良されているマスティフ系の犬の多くも短頭種に分類されます。
もとは、戦うために品種改良された犬種が多いですが、青黒い舌を持つことで有名なチャウチャウは、毛皮用や食用として飼育されていた歴史を持つ珍しい犬種です。
短頭種に関わるさまざまなリスク
短頭種の犬は、その独特の形態により様々なリスクを抱えています。
ここでは、そのリスクについて考えてみました。
短頭種気道症候群の発生が多い
短頭種気道症候群とは、短頭種特有の呼吸器系の病気の総称です。
短頭種の犬は他の犬に比べて、頭蓋骨が丸く鼻が短いので、鼻の内部が圧迫され喉の部分が変形しています。
それが原因で、喉から気管にかけて狭くなる喉頭虚脱や喉頭室外反、及び気管虚脱、鼻の穴や通り道が狭くなる鼻腔狭窄、鼻の奥の筋肉が異常にたるむ軟口蓋過長症などが発症しやすいのです。
これらの病気にかかると、呼吸をするために鼻から気管にかなりの負担がかかり、炎症や浮腫(むくみ)を起こします。そして、更に気管が狭まり、呼吸が困難な状態に陥ってしまいます。
放置しておくと、他の病気を併発したり、時には命に関わることもありますので、早めに異常に気付き対処することが必要です。
飛行機に乗れず移動手段が限られる可能性がある
飛行機での移動は、どんな犬にとっても大きなストレスになりますが、中でも短頭種の犬には、飼い主さんと離されているという精神的なストレスに加え、暑さや気圧の変化に弱いという肉体的なストレスもかかってしまいます。
それによる突然死など、命に関わる大きな危険が伴うため、航空会社の中には犬種によっては空輸を受け付けてもらえない場合もあります。
航空会社ごとに規則が異なりますので、飛行機で移動する場合は、事前に確認することが必要です。
手術などの麻酔管理にリスクが伴いやすい
最近、犬も歯周病などの病気や避妊手術など、麻酔を必要とする手術を受けることが多くなってきています。
短頭種の犬は、他の犬に比べて麻酔のリスクが高いといわれますが、それには幾つかの理由があります。
普通、麻酔をすると心拍数が減りますが、短頭種の犬は体質的に心拍数の減り方が著しいので、麻酔管理が大変難しいとされています。
また、鼻の穴がせまく、気道の入り口が肉で覆われていたり変形していることがあるなどの理由で気管の入り口が見えにくいため、チューブが入れづらく手間取っている間に低酸素症になるというリスクがあります。
他にも、麻酔導入時に嘔吐する危険もあり、嘔吐することで気道をふさいだり、誤嚥性肺炎を引き起こすことなどが挙げられています。
難産になりやすく帝王切開が必要になることが多い
短頭種の犬には、鼻が短いだけでなく体に対して顔の幅が広いという特徴があり、母犬の骨盤に対して子犬の顔の幅が広いので、どうしても難産になってしまいがちです。
ある調査では、フレンチブルドッグ、パグ、ボストンテリアでは、ほぼ100%の確立で難産になるという報告もあるほどです。
そのため、自力での出産は難しいとされており、帝王切開で出産することも多いのです。
強面の表情が特徴のブルドッグの出産は、ほぼ100%が帝王切開だといわれています。
ヨーロッパでも人気の高い短頭種ですが、オランダでは、このような不自然な出産を含め、犬の健康を守るため、極端なブリーディングを禁止するため、などの理由により「動物福祉に反する繁殖を禁じた法律」が施行されており、短頭種の繁殖は禁止されています。
短頭種を飼うときの注意点
短頭種の犬を飼う時には、他の犬には無い注意すべき点が幾つもあり、犬の命に関わることもある大切な事柄が多く含まれています。
それらの注意点を見ていきましょう。
暑さを逃がすことが苦手なため熱中症対策を行う
汗腺がほとんど無い犬は体温調整を呼吸でするため、口内の面積が狭い短頭犬種には、他の犬以上に熱中症対策に気を配る必要があります。
日頃から常に温度や湿度をチェックして、犬の様子をよく観察し、必要であればエアコンを使用するなど、涼しい環境をつくりましょう。
いびきや呼吸状態の異変を感じたら早めに治療する
「鼻ぺちゃの犬は、ブヒブヒ言うのが普通」と考えている飼い主さんは意外に多いのですが、そうとばかりは言い切れません。
短頭種の犬は、鼻が短く喉がつぶれているので、呼吸の仕方には常に注意を払っておく必要があります。
安静にしている時にもガーガー、ブーブーといった呼吸音がしたり、睡眠時にいびきをかいている時は注意が必要です。
また、運動している時や興奮している時に、口を開けてガーガーという音を鳴らして必死に息を吸い込もうとするような場合も、呼吸がかなり困難になっていますので要注意です。
それらが重症化するとパンティング(口を開けた速い呼吸)をしたり、体温調整ができずに体温が上昇し、失神や窒息してしまうこともあり大変危険です。
そのような様子が見られた場合は、できるだけ速く専門の動物病院で診察してもらうことが大切です。
食生活を管理する
日頃から太り過ぎないように、食生活をチェックすることが大切です。
太り過ぎると気道を狭めてしまい、短頭種気道症候群発症の原因になったり悪化させることもありますので、食生活をしっかり管理して、太らせ過ぎないように注意することはとても重要です。
短頭種の体の特徴に合ったグッズを使う
他の犬とは違った形態の短頭種の犬には、それに合ったグッズを使う必要があります。
たとえば、お散歩やお出かけの時には、首に負担をかけず楽に呼吸ができるように、首輪ではなくハーネスを使用したり、食事用の食器は、目に当たらないよう大きめのフードボールを用いて、早食いを防止したり楽に水飲みができるようにします。
また、目が大きく飛び出しているので、ケガを防止するために、エリザベスカラーのようなグッズを利用するなどの工夫も必要です。
常に清潔にしておくことを心掛ける
短頭種の犬は歯並びが悪いことが多いので歯の間に食べたものが詰まることが多く、食後の歯磨きは欠かせません。
また、顔にシワの多い犬種は、シワとシワの間に汚れが溜まりやすいので、こまめなシャンプーや、蒸しタオル、ウェットティッシュで汚れを拭き取ることが、皮膚病の予防に繋がります。
まとめ
闘犬であった犬にルーツを持つ犬種も多い短頭種の犬たちですが、現在では、品種改良が重ねられ、その激しい性格も改良されて、多くの人々から愛されるようになりました。
その反面、多くのリスクを抱え、飼育には手間のかかる面もたくさんあります。
しかし、手をかければ、それだけ愛着も湧くというもの。
短頭種の犬を飼っている方も、これから飼おうと考えている方も、短頭種のことを良く理解し色々な点に注意しながら、愛すべき鼻ぺちゃ犬との楽しい生活を満喫していただければと思います。