犬がぐったりしている原因
愛犬が普段と違ってぐったりしていると、飼い主としてはとても心配になりますね。犬がぐったりする原因は一つではなく、軽度なものから重大な病気までさまざまです。まずは落ち着いて、考えられる原因を探ってみましょう。
遊びや運動のあとの疲れ
特に若い犬や活動量が多い犬種(柴犬、トイ・プードル、ボーダー・コリー、ジャック・ラッセル・テリアなど)は、たくさん遊んだ後や長時間の散歩後に疲れてぐったりすることがあります。十分に休ませると通常は自然に回復しますが、休息後も異常な疲れが長く続く場合は他の原因を考えましょう。犬にも体力には限界があります。
加齢による体力の衰え
犬も年を取ると若いころのように動けなくなってきます。小型犬は7歳前後、大型犬は5〜6歳頃からシニア期に入ると言われ、活動量が減り疲れやすくなります。そのため以前よりもぐったりする時間が増えるのは自然な老化現象ですが、他の病気が隠れていないかの観察も重要です。若齢であっても持病や全身状態によって体力が消耗しやすくなることもあります。
熱中症
特に夏場や蒸し暑い室内、車内では熱中症に注意が必要です。犬は人間のように全身で汗をかけず、足裏や鼻などごく限られた部位でしか発汗できません。そのため高温多湿の環境に長くいると体温調節が難しく、熱中症になりやすいのです。
熱中症は急速に進行し、重度の脱水を引き起こす、神経症状につながるなど命に関わることがあります。パンティング(浅く速い呼吸)が激しい、よだれが多い、ぐったり動かない場合は迅速な対処が必要です。
低血糖(血糖値の異常な低下)
低血糖とは、血糖値が異常に低下する状態を指します。特に子犬(トイ・プードルやチワワなど超小型犬の子犬)や、食事量が少ない犬、糖尿病の治療を受けている犬で起こりやすく、脳や筋肉のエネルギー源が不足するため、ぐったりする、ふらつく、痙攣などの症状が出ることがあります。
中毒(チョコレート・玉ねぎなど)
犬が有害なものを誤って口にすることもぐったりの重要な原因です。チョコレート、玉ねぎ、ぶどう、殺鼠剤、人間の薬、観葉植物など犬にとって危険なものは家庭内にも多く存在します。摂取した物質や量により症状は異なりますが、ぐったりする以外に嘔吐や下痢、痙攣が見られることがあります。
その他の病気が原因のことも
上記以外にも感染症、肝臓や腎臓の疾患、心臓病、神経系の疾患などが原因で犬はぐったりすることがあります。ぐったりが長く続いたり他の症状が見られたりする場合は、早急に動物病院を受診してください。
犬がぐったりしているときの症状や要注意サイン
犬がぐったりしているとき、それが一時的な疲れなのか、何らかの異常のサインなのかを見極めることが重要です。特に以下の症状がある場合は注意が必要です。
呼吸が速い・苦しそう
安静時でもハアハアと息が異常に速い、呼吸が苦しそう、ゼーゼーという音がする場合、呼吸器や心臓疾患、熱中症が疑われます。犬の正常な呼吸数は安静時で1分間に10〜20くらいとされていますが、個体差があり普段と違う苦しそうな呼吸は危険なサインです。
発熱している・低体温になっている
犬の平熱は37度後半から38度台前半が一般的ですが、明らかに体が熱い場合は発熱の可能性があり、感染症や炎症が疑われます。逆に体が冷たく感じられる場合は低体温であり、これも危険な状態です。正確な体温は動物用体温計で肛門検温することが基本です。
嘔吐や下痢を繰り返す
一度きりの嘔吐や軽い軟便は様子を見てもよいことがありますが、繰り返す嘔吐や水様便が続く場合、消化器系疾患、中毒、異物の誤飲などが疑われます。また、深刻な原因でなくても継続することで脱水症状や消化不良・栄養吸収不良につながる危険性があるため、注意が必要です。
意識がはっきりしない、反応が鈍い
名前を呼んでも反応が薄い、目がうつろ、ぼんやりして起き上がれないなど意識レベルが低下している場合は非常に危険です。神経疾患、重度の代謝障害、ショック状態などの可能性があります。
痙攣する、立てない
体が震える、突っ張る痙攣が起きたり、ふらついて立てない状態は緊急性が高い症状です。神経疾患、中毒、重度の低血糖などが考えられます。
歯茎の色が異常
健康な犬の歯茎はきれいなピンク色です。歯茎が白い(貧血)、青紫(チアノーゼ)、黄色(黄疸)、または真っ赤(熱中症や炎症)の場合は、何らかの異常の兆候です。指で歯茎を押して離したときに色がすぐ戻らない場合も血行不良が疑われます。
これらの症状がある場合は自己判断せず、直ちに獣医師に相談しましょう。深夜や休日は24時間対応の夜間救急動物病院を利用することも検討してください。
犬がぐったりしているときの対処法と応急処置
愛犬がぐったりしている様子を見つけたら、まず冷静になりましょう。慌てずに状況を確認して適切に対応することが重要です。ただし、ここで紹介するのはあくまで応急的な対応であり、獣医師の診察に代わるものではありません。
まずは愛犬の様子をしっかり観察する
いつからぐったりしているのか、他にどんな症状があるのか(呼吸の異常、嘔吐、痙攣など)、何かきっかけはなかったか(異物の誤飲、暑い場所にいたなど)を細かく観察し、メモをとっておきましょう。獣医師に伝える際、大切な診断の手がかりになります。
静かで落ち着ける場所で休ませる
愛犬が安心して休めるように、静かで温度が快適な場所で休ませてください。直射日光の当たる場所や風が強く吹き込む場所は避け、犬がリラックスできる環境を整えます。無理に動かすと負担がかかるため、移動させる場合は慎重に行います。
水分や食事の与え方に注意
ぐったりしているときは、無理に水や食事を与えないよう注意が必要です。
- 水分
- 意識がはっきりしており、自力で飲める場合は少量ずつ与えましょう。自力で飲めない場合はスポイトで口の横から少しずつ垂らすか、口元を湿らせる程度にします。無理に飲ませると誤嚥(ごえん:水や食物が気管に入ること)の危険があります。
- 食事
- 食欲がない場合は無理強いせず、特に嘔吐や下痢がある場合は胃腸を休ませるために絶食させることもあります。ただし子犬や持病がある犬は絶食による低血糖の危険があるため、早めに獣医師へ相談してください。
すぐに病院へ行く必要があるサイン
以下のような症状がある場合は、すぐに動物病院を受診してください。診療時間外の場合は夜間救急動物病院を利用することも検討してください。
- 呼吸が明らかに苦しそう、または異常に速い
- 嘔吐や下痢が止まらない、または血が混じっている
- 意識がない、または呼びかけに対する反応が極端に鈍い
- 痙攣を起こしている、または立てない
- 歯茎の色が白、青紫、黄色など異常な色をしている
- 体が異常に熱い、または冷たい
- 原因不明でぐったりした状態が数時間以上続いている
これらのサインは命に関わる危険性を示している可能性があり、自己判断は禁物です。迷わず獣医師に相談しましょう。
獣医師に伝えるべき情報
動物病院を受診するときは、次の情報を整理しておくと診断や治療がスムーズになります。
- 症状がいつから出ているか、具体的な時系列
- 食欲、元気、水分摂取量の変化
- 嘔吐や下痢の回数、量、色、内容物
- 排尿の回数、量、色の変化
- 誤飲や中毒の可能性(何を食べたか、いつ頃かなど)
- 持病や現在の服薬状況(薬サプリメント)
- ワクチン接種歴、予防薬(フィラリア、ノミマダニ)の投与状況
可能であれば、吐いたものや便を持参したり、痙攣などの症状を動画撮影しておくことも診断に役立ちます。
犬がぐったりしているときに考えられる病気
犬がぐったりしている背景には、さまざまな病気が隠れている可能性があります。以下は代表的な例ですが、あくまで可能性であり、正確な診断は動物病院での受診が不可欠です。
ウイルスや細菌の感染症
犬パルボウイルス感染症や犬ジステンパーウイルス感染症は、特に子犬にとって深刻な病気です。発熱、嘔吐、下痢、食欲不振を伴います。レプトスピラ症のように人間にも感染する細菌感染症もあり、定期的なワクチン接種で予防できます。
内臓疾患(肝臓・腎臓など)
肝臓病や腎臓病は、初期には症状が出にくいものの、病気が進行するとぐったり、食欲不振、嘔吐、体重減少などが見られます。特に慢性腎臓病は高齢犬に多く、定期的な尿検査で早期発見が可能です。
ホルモンや代謝の異常
糖尿病(インスリン不足)、クッシング症候群(副腎皮質ホルモンの過剰分泌)、アジソン病(副腎皮質ホルモンの不足)、甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン不足)などのホルモン異常や代謝異常も、ぐったりの原因となります。
心臓や肺・気管の病気
僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病や、気管虚脱、肺炎などの呼吸器疾患は、体内への酸素供給が不足し、疲れやすくなったり呼吸困難になったりします。特徴的な咳もよく見られます。
脳や神経の病気
てんかん発作、脳炎、脳腫瘍、椎間板ヘルニアによる脊髄圧迫など、神経系疾患でもぐったりするほか、痙攣や麻痺、歩行困難、意識障害などが現れる場合があります。
がん(腫瘍)
犬にも様々な種類のがん(悪性腫瘍)が発生します。進行すると食欲不振、体重減少、痛み、出血など多様な症状が見られます。早期の診断と治療が非常に重要です。
緊急性の高い病気やケガ
重度の子宮蓄膿症(未避妊メス犬)、胃拡張・胃捻転症候群(特に大型犬)、異物誤飲による消化管閉塞、交通事故による内臓損傷や骨折など、緊急を要する病気やケガもぐったりの原因になります。これらは早急な診察・治療が必要です。
愛犬の健康を守るため、いつもと違う症状を見逃さず、早めに獣医師の診察を受けましょう。
まとめ
愛犬がぐったりしているとき、飼い主さんは大きな不安を感じるものです。その原因は、一時的な疲れから命に関わる重大な病気まで幅広く考えられます。最も重要なのは、普段から愛犬の様子をよく観察し、小さな変化にも気づいてあげること。そして「いつもと違う」と感じたら自己判断せず、速やかに動物病院を受診することです。
本記事で紹介した症状や原因、対処法はあくまでも一般的な情報であり、具体的な状態に応じた専門的な診断と治療が必要です。呼吸、体温、意識レベル、歯茎の色など、特に重要なサインを見逃さないよう注意しましょう。さらに、緊急性の高い症状が深夜や休日に発生した場合は、24時間対応の夜間救急動物病院の利用も検討してください。
獣医師は適切な診断と治療を提供するだけでなく、飼い主さんの不安を和らげるためのアドバイスもしてくれます。愛犬の健康と命を守るため、飼い主として最善の行動を取ることが何よりも大切です。