「ビビり犬」で片付けないことが大切
「この犬はビビりでね〜」という声は多く耳にします。何かに怖がって吠えていたり、他の犬に対して攻撃的な行動をとったり、一人になるのを怖がって留守番の時に吠え続けたりといった行動の多くは不安が原因で起こります。ある研究では、こうした不安行動は健康に悪影響を与え、犬の寿命が短くなることが示されています。
犬の恐怖心とストレス
怖がっている対象が多ければ多いほど、犬はストレスを溜めることになります。ストレスの度合いは血中のホルモンを計測することで測ることができます。以前の研究では、暴風雨時に嵐恐怖症を持つ犬のコルチゾール(ストレスホルモン)の値が2倍以上に増加したと報告されています。
このように怖がりの犬は、精神的なストレスに苦しんでいることがわかります。この状態が続けば、健康に悪影響を与えるのも当然に思えます。
犬の不安障害は寿命を縮める
不安障害について、日本ではまだまだ理解が進んでいません。獣医においてもこれらの不安障害の認識が薄く、明確な治療アドバイスが、ほとんどできていません。こうした不安障害のある犬は、そうでない犬より寿命が短いことが報告されています。したがって、不安障害は動物の福祉の点でも重要であるはずです。
日本では、単に「ビビり」という言葉で片付けてしまう傾向が強く、これが精神的にどれほどのダメージを与えているかの意識が足りていないようです。
犬の不安障害を治療する
不安障害を持っている犬は、過度の吠え、不適切な排泄、破壊的行動、自虐行動の傾向があります。こうした症状は発展してものなので、飼い主も気付きやすいですが、悪化する前の症状は目立たないことから、放置されることが多くあります。もし、愛犬が怖がっていて、何かから逃げようとしていたり、他の犬や特定のものに吠え掛かっていたりしていれば、不安障害の兆候かもしれません。
こうした前兆が見られたら、速やかに治療を始めましょう。この不安行動は徐々に発展し悪化します。早めの手当てをすることで、費用も時間も、そして犬のストレスも減らすことができます。なるべく早く専門家に依頼してアドバイスを受けましょう。怖がる対象が多ければ多いほど、犬は多くのストレスを感じています。
こうした不安障害の治療では、怖がる対象に対して良いイメージが持てるようにすることで不安を克服させます。例えば、雷の音を怖がる犬の場合では、雷の音の音源を用意し、小さい音量で再生します。音が鳴ったら食べ物を与えるなどの報酬に結びつけて慣れさせていきます。徐々に音量を上げて雷の音をポジティブな出来事として捉えられるようにします。こうした行動治療では、その音の音量や、報酬を与えるタイミング、一度にどの程度まで訓練を進めるかなどの判断が必要となります。こうした要因を間違えると治療は進まず、悪化してしまうこともあります。また、強烈な反応を持つ犬の場合では、治療に時間も手間も必要とします。
犬の社会化が鍵となる
子犬の頃に、しっかりとした社会化ができていれば、こうした不安障害になる確率をかなりの割合で下げることができます。子犬の頃から様々な状況に慣れさせて置くことが、犬の健康にも影響するということです。特に他の犬や、他の人を怖がる犬の場合では、生後3ヶ月が終わるまでの社会化が不十分であることが言えます。また、ペットショップの犬などの、早くに親犬から引き離された犬は不安障害を持つ割合が高くなるとも言われています。
まとめ
不安障害を持つ犬は、いわゆる“問題行動”を起こしており、その行動に悩まされる飼い主も少なくありません。過剰な吠えや、攻撃性、分離不安などの行動があれば、すぐに改善するためにできることを見つけたいものです。犬が怖がることなく生きるようにするためには、社会化が必要となります。これは生まれた直後からの経験が大きく影響します。ブリーダーや獣医師だけでなく飼い主も社会化の意味をしっかりと認識し、犬に適切な社会化を行う必要があります。
もし、愛犬が成犬になっていても改善の希望は十分にあります。不安障害に対してアプローチできる専門家に依頼しましょう。症状が重度な場合は行動診療を行う獣医師か、有資格者のドッグビヘイビアリストに相談し、早めに改善する必要があります。
不安障害を克服すれば、愛犬の笑顔はもっと増え、健康な生活が送れるようになるでしょう。
《参考》
Takuma Kurachi, Mami Irimajiri, Yuko Mizuta, Toshiyuki Satoh(2017).Dogs predisposed to anxiety disorders and related factors in Japan, Applied Animal behaviour.Elsevier Inc.