肛門腺の位置

体の中で、特別な液体を分泌する器官を「腺」と言います。例えば乳を分泌する腺は「乳腺」、涙を分泌する腺は「涙腺」です。犬には「肛門腺」という、とても強烈なニオイの液体を分泌する腺があります。
犬のしっぽを上に持ち上げて肛門を見てみてください。肛門を時計の中心部だとすると、肛門腺は8時と4時にあたる部分に1つずつ、合計2つあります。分泌された液体が溜まるよう袋状になっているため、肛門嚢(こうもんのう)とも呼ばれます。
普通は排便や興奮した時に、分泌液が押し出されて肛門から排出されます。しかし、中小型犬のように体が小さい犬や、肛門嚢の口にあたる部分が硬かったり詰まったりした犬は、排出されずに溜まっていってしまう場合があります。
放置すると炎症を起こして肛門腺炎になったり、肛門嚢が破裂して肛門周囲瘻孔(こうもんしゅういろう)という深刻な状態になることもあります。それを予防するためのケアが、外側から指で肛門腺内の分泌液を絞り出す「肛門腺絞り」です。
自宅で愛犬の肛門腺絞りを行う方法

肛門腺絞りは、動物病院の診療メニューやトリミングサロンのメニューにも含まれていますが、コツさえわかれば、飼い主さんがご自宅で行うこともできるケアです。肛門腺絞りの手順は、下記の通りです。
1.愛犬のしっぽを上に持ち上げ、肛門が見えるようにする
2.左右の肛門腺がある場所に親指と人差し指を当て、優しくつまむように挟み込む
3.肛門をティッシュで覆う
4.そのまま、指を奥から手前の方に引き出すように動かして分泌液を絞り出す
5.新しいティッシュまたはウェットティッシュでお尻をきれいに拭く
愛犬の頭側に一人、お尻側に一人の二人体制で行うのが理想です。頭側の方が愛犬に優しく話しかけながら落ち着かせ、お尻側の方が肛門腺絞りを行いましょう。慣れてくれば、一人でも行えるようになります。
肛門腺液は何のためにあるの?

スカンクは、敵を撃退するためにお尻からとても臭い液体を相手に向かって吹きつけます。この液体の正体が、肛門腺で作られた分泌液です。犬も恐怖や驚愕でこの分泌液を出すことがありますが、これはメインの役割ではないと考えられています。
犬の肛門腺液の主な役割は、コミュニケーションツールです。この分泌液のニオイを嗅ぎ合うことで、犬はお互いに相手の情報(性別、年齢、健康状態など)を交換し合っていると考えられています。
お手入れのポイントと注意事項

最後に、自宅で愛犬の肛門腺絞りを行う際のポイントや、知っておいていただきたい注意事項をご紹介します。
肛門腺絞りの頻度
程よい硬さで、適度に量のあるうんちをしている犬であれば、肛門腺液はうんちと一緒に排出されることが多いため、肛門腺絞りは歯磨きや爪切りなどのように「必ず必要なケア」ではありません。中には、全く肛門腺絞りを行う必要のない犬もいます。
しかし肛門腺に分泌液が溜まりやすい犬には、「1ヵ月に1回」を目安に肛門腺絞りを行い、その後のトラブルを防ぎましょう。ただし、たまる期間は個体差が大きいため、下記に紹介するような行動をよく観察し、適切に判断しましょう。
肛門腺に分泌液が溜まっている可能性のある犬の行動
犬が下記のような行動を見せた場合は、肛門腺に分泌液が溜まっている可能性があります。
- お尻を床に何度も擦り付けたり、擦り付けながら移動したりする
- しきりに肛門を舐めたり噛んだりする
- 肛門の周囲に、赤い、腫れ、出血、悪臭などの異変が見られる
これらの行動が見られたら、まずは動物病院で肛門腺を確認してもらうと安心です。
分泌液の扱い
絞り出す分泌液の状態は、サラサラな液状、脂っぽくどろっとしたもの、ヨーグルトのようなクリーム状など犬によってさまざまです。色も、薄黄色や灰色、濃い茶色など個体差が大きいです。
しかし、共通しているのは、独特なニオイです。絞った時に分泌液が飛び散って手や服につかないよう肛門をティッシュなどで覆い隠し、分泌物が周囲に飛び散らないように気をつけましょう。
肛門腺絞りを嫌がる場合
肛門腺に分泌液が溜まり不快感を覚えている上に、強い力で絞り出されるため、犬によっては嫌がって抵抗する場合もあります。そこを無理やり続けようとすると、愛犬は肛門腺絞りに対して悪いイメージしか持てなくなります。強く抵抗する、痛がる、出血するなどの異変が見られる場合は、すぐに中止して、診察を受けましょう。
また自宅でのケアに固執せず、動物病院やトリミングサロンなどの、愛犬が信頼しているプロにお任せすることも考えましょう。任せながら絞り出し方やおやつを使って慣らしていく方法を教われば、いずれ自宅でもできるようになるでしょう。
まとめ

肛門腺は、全くトラブルにならないケースもあれば、頻繁にお尻を床に擦り付けて違和感を訴えるケースもあり、個体差が大きなことが特徴です。そのため、必ず行わなければならないケアではありませんが、溜まっているのを放置することで深刻な状態を招く可能性もある問題です。
もし肛門腺絞りの必要性を判断する自信がないようなら、予防接種や健康診断などで動物病院に行った時に、「肛門腺に溜まっていますか?」などと獣医師に尋ね、確認してもらいましょう。その内に、適切な判断ができるようになるはずです。



