犬は「飼い主のことが嫌いな人」を判別できる?
犬は好奇心や警戒心など、さまざまな理由から周囲の状況をよく観察している動物です。とりわけ飼い主さんを含め、自分に関わりがありそうな人のことは細かくチェックしています。
なかでも、家族以外の人と対面したときは「自分や家族に危害が加えられないか」と注意深く観察することが多いでしょう。行動や仕草、表情、声のトーンなどから相手の感情や意思を読み取り、コミュニケーションを取ったり、万が一に備えたりするのです。
そのため、飼い主さんに敵意を抱いている人や苦手意識を持っている人に対しては、敏感に察知して警戒することがあります。相手のイライラした態度や攻撃的な声色、乱れた呼吸のリズムなどを感じ取り、飼い主さんを守ろうと相手から目を離さない犬も少なくありません。
研究によって明らかになった犬の驚くべき能力
観察による行動変化
見知らぬ人が飼い主さんに近寄ったとき、犬は飼い主さんとその相手を交互に見る「参照的注視」と呼ばれる行動を取ることがわかっています。
フランスのエクス=マルセイユ大学でシャルロット・デュラントン氏がおこなった研究では、飼い主さんが人と会ったときに見せる行動に、犬も同調することがわかりました。
飼い主さんが見知らぬ相手と近づいている途中で立ち止まったり、遠ざかったりすると、犬はそれに応じるように参照的注視をして、警戒心を強める様子が見られたのです。
ちなみに、これは人間の子供とその親でも同じような結果が得られるとされています。
感情の伝染、共感力
人間の中でも、相手から向けられる感情に対して敏感な人は多くいると思います。表面上は冷静に接していても、相手からの敵意などネガティブな感情を感じ取ってしまうことは少なくないでしょう。
飼い主さんが苦手に感じている相手と接しているとき、犬はその感情に共感することがあります。
麻布大学獣医学部や奈良先端科学技術大学院大学、熊本大学大学院、名古屋大学大学院の研究員による共同グループによって、「人の情動や感情が犬に伝染するか」をテーマにした研究がおこなわれました。
犬とその飼い主さんまたはごく親しい関係にある人を対象に、その間で情動や感情が伝わっているかということを調べました。
うれしい・楽しい・悲しい・さみしいといった感情だけでなく、ストレスや不安のような外部刺激による生理的反応も含めて調査するため、心拍数を見ることでその変化を把握します。
実験では、34ペアのそれぞれに心拍計を装着して、犬から飼い主さんが見える状態で様々なことをおこない、心拍数の変動を調査しました。
犬と飼い主の心拍変動が同様に変化(=同期)しているデータが検出され、特に飼育している期間が長いほど同期しやすいことがわかりました。また、オスよりもメスの方が同期しやすい傾向も明らかになったとされています。
人の表情の識別能力
前述したように犬の「共感力」については、様々な研究がおこなわれていますが、そのために役立てられているのが表情を読み取る「識別能力」だと考えられています。
オーストリアのウィーン獣医大学では、人の表情の識別と共感力に関する実験がおこなわれました。
動物行動学者のルドウィック・フーバーを中心としたグループは、犬に人の顔写真を見せ、その後の行動を観察しました。
その結果、笑顔には肯定的な意思が、怒っている顔には否定的な意思があると犬は認識し、それをもとにコミュニケーションを取っていることがわかりました。
「犬は人間の表情を識別できる。さらに、各表情の意味を理解している」と実証したのです。
そのほかにも、ブラジルのサンパウロ大学とイギリスのリンカーン大学の合同チームの研究によって、犬は見知らぬ人が見せる表情でも感情を読み取り、自分の行動や意思決定に役立てていることが明らかになったと考えられています。
まとめ
犬同士はボディランゲージやちょっとした仕草を使って、コミュニケーションを取っています。
そこには優れた観察力や共感力が発揮されていて、飼い主さんに対しても同じような行動を取ることがわかっています。
「犬が表情や声色から飼い主さんの感情を読み取っている」ということは、犬を飼っている人であれば感覚的に理解できることでしょう。
しかし、これは感覚だけではなく世界中でおこなわれている実験や検証で実証されていることでもあるのです。
犬たちが持つ素晴らしい能力を知り、日頃のコミュニケーションや関係性づくりにぜひ役立ててくださいね。