犬が唸る理由
犬が歯を剥き出して低い声を出す行為を、「唸る」と言います。見知らぬ犬から唸られた場合、大抵の人は「攻撃される」と感じ、その場から離れようとするでしょう。実際に、犬は自分の大切な物や縄張り、仲間や家族などを守ろうとしたときに、相手を威嚇する意図で唸り声を出します。
つまり、犬の唸り声の多くは、ネガティブな感情がベースになっています。その場合、唸りは攻撃行動の前段階のサインとなる、重要な警告です。とは言え、その感情が起こった理由はさまざまですし、また必ずしもネガティブな感情の時にだけ唸るとは限りません。
特に、愛犬が飼い主さんに対して唸った場合は、唸る=警告サインだと単純化して考えるべきではありません。飼い主さんだと認識した上で唸っているということは、「何かを伝えようとしている」ということだからです。「飼い主への唸りはメッセージ」と理解し、犬の気持ちを汲み取ることが大切です。
愛犬が飼い主さんに向けて唸り声をあげているときのさまざまな心理と、適切な対処法について見ていきましょう。
犬が飼い主に向かって唸る心理と適切な対処法
1.不快感を伝えたい
どんなに大好きで信頼している飼い主さんであっても、嫌いなお手入れをされているときには、「ちょっと嫌だよ!」という気持ちで飼い主さんに不快な気持ちを伝えようと唸り声を上げることがあります。
特定のお手入れをすると唸るという場合は、1度のお手入れで完璧を目指すのではなく、1回を短時間ですませるようにしましょう。例えば爪切りなら、1日1〜2本の爪を切ってやめ、全ての爪は数日をかけて切るようにすると良いです。
2.警告している
一緒に暮らしている飼い主さんでも、普段とは異なる服装やニオイをさせていると、見知らぬ人と間違えられて警戒され、侵入者に対する警告と同じ意味での唸り声を出されることがあります。この場合、飼い主さんだということがわかれば、唸るのをやめます。
帰宅する際は、玄関に入る前にヘルメットやマスクなどの見慣れない装着品を外したり、薬品やタバコなどの人工的なニオイのついた上着を脱ぐようにすると、不審者と勘違いされることがなくなるでしょう。
3.「拒否」の意思表示
嫌なことをされそうだと感じると、犬は「拒否」の意思表示として唸り声を上げることがあります。例えば、愛犬が執着しているおやつやおもちゃなどを取られそうだと感じたときなどです。
食べている途中でおやつを回収したり、もっと遊びたがっているときに無理やりおもちゃを取り上げたりといった行為を繰り返していると、「嫌だっていってるのに聞いてもらえない」と飼い主さんへの不信感を募らせてしまうことにも繋がります。
おやつは最初から食べさせたい量だけを与えるようにする、普段から遊びの場を利用して「チョウダイ」とか「コウカン」などの指示語で、おやつと咥えているものを交換するトレーニングをしておくことで、「無理やり奪われる」と思わせないようにすることができます。
なお、普段触っても唸らないのに、突然体の特定の部分を触ろうとすると唸り声をあげて拒否するようになった場合は、体に痛みや不調があり、それを訴えている可能性があります。その場合は、早めにかかりつけの動物病院で診てもらうようにしましょう。
4.飼い主さんのことをまだ信頼できていない
そもそも、愛犬が飼い主さんをまだ信頼していない場合は、不信感のサインとして、頻繁に唸り声を上げるかもしれません。必要最低限のお世話だけではなく、できるだけ愛犬と向き合う時間を作り、信頼してもらえるような努力を続けましょう。
なお、一時期は信頼されていたのに、裏切られるようなことが続いて「信用できない」と思われてしまい、それまで築いてきた信頼関係が崩れてしまうことがあります。慣れてきたからと気を抜かず、常に良い関係を維持できるような接し方を心がけましょう。
5.楽しさのあまり思わず声が漏れた
意外かもしれませんが、犬は遊んでいてあまりにも楽しくなると、唸り声をあげることがあります。何かの意思表示というよりも、「思わず声が漏れた」というような感じなのでしょう。
そのため、この場合の唸り声は、攻撃行動につながっていくことはありません。ただしポジティブな感情でも、激しすぎる興奮は愛犬の体に負荷をかけるため、好ましいことではありません。一旦遊びを中断し、クールダウンさせてから再開するようにしましょう。
ネガティブな唸りには予防としつけが大切
ネガティブな感情から出される唸り声は、状況によっては攻撃行動につながることがあったり、愛犬をいたずらに怯えさせたりと、あまり良いことではありません。しかし、唸ったことに対して叱ってやめさせようとするのは逆効果となり、かえって攻撃行動を引き出してしまう可能性もあります。
愛犬の唸りに対しては、できるだけネガティブな唸り声を出すようなシーンは作らないように、予防を心がけましょう。今回ご紹介した、帰宅時に不審者と間違われるような要素を取り除いてから玄関に入る、咥えているものを手放させるトレーニングをしておくというのも、予防策の一環です。
愛犬が飼い主さんに対して唸るのはどういう心理からなのかを見極め、愛犬の気持ちを理解した上で、予防策やしつけ、お手入れを短時間で済ます方法などを、それぞれに工夫してみてください。
まとめ
愛犬から唸り声をあげられると、飼い主さんとしては、悲しかったり寂しかったりすることでしょう。しかし、愛犬の唸り声は愛犬からのメッセージです。唸り声を上げる前後の様子をよく観察した上で、なぜ唸るのかを理解し、その理由に合わせて適切な対処を取るようにしましょう。