愛犬と飼い主さんが作り出すコミュニケーション
人は主に言葉でコミュニケーションを図りますが、犬は人の言葉を完全には理解できません。犬はコミュニケーションにニオイやボディランゲージを使いますが、人もこれらのサインを完全に理解するのは難しく、犬と人とのコミュニケーションにはすれ違いが起こることも稀ではありません。
犬は、まず自分なりの方法で気持ちを伝えようとします。しかしうまくいかないと、もっと確実に「伝わる」手段を見つけようとします。ベースとなるのは過去の成功体験です。犬は、以前飼い主さんにうまく気持ちが伝わった方法を、優先して選ぶようになるのです。こうして飼い主さんと飼い犬との間には、独特なコミュニケーション手段が生まれていきます。
そのため一般的な犬のサインが、どのご家庭でも共通して使われているとは限りません。しかし今回ご紹介する「前足で飼い主さんの体にちょいちょいと触れる」という方法は、比較的どのご家庭でもみられるコミュニケーション手段です。
このサインを見せるときの、一般的な犬の心理と適切な応え方についてご紹介します。
犬が足でちょいちょいしてくる心理
1.注目してほしい
犬がこのしぐさを見せるのは、飼い主さんの意識が愛犬以外に向いているときが多いようです。例えば在宅勤務中や食事中、読書やテレビ鑑賞などに夢中になっているときなどです。
こういうシーンで見せる「前足でのちょいちょい」には、飼い主さんの注目を自分に引きつけたいという心理が働いていることが多いです。長時間放っておかれて退屈している、遊んでほしい、撫でて欲しいなど「もっとかまってよぉ!」という強いアピールのサインであることが多いでしょう。
2.催促や要求を伝えたい
いつも同じような時間になると前足でちょいちょいしてくるという場合は、いつものことを催促していることが多いです。例えば「ご飯の時間だよ」とか「散歩の時間じゃないの?」といった気持ちです。
また、飼い主さんが食べているものを「私にも分けて!」とか、撫でている手を止めた瞬間に「やめちゃ嫌だ!」という気持ちで前足で飼い主さんに軽く触れることも多いようです。このように、「催促」や「要求」アピールの意味合いが含まれているケースも多いです。
3.興味を示している
要求とまではいかないまでも、飼い主さんが手にしているものに興味を示していて、「ねぇ、それ何?」と興味を示しているときにも、持っている腕などを前足で軽くタッチしてくることがあります。
4.落ち着きたい
普段どんなに落ち着いている犬でも、基本的にはとても警戒心が強いです。そのため、未知の出来事や環境の変化などにはとても敏感で、飼い主さんが考えている以上に不安に怯えていることもあります。
不意に轟いた雷鳴や地震に怯えたり、最近行われた部屋の模様替えで落ち着かないなど、感じている不安を解消させたり落ち着きたいという助けを求めるような気持ちで行うこともあるようです。
この場合は、要求がある場合とは異なり、切実な表情やすがるような視線と共にちょいちょいすることが多いでしょう。愛犬の様子や前後の状況から不安な気持ちを察知したら、しっかり対応してあげられるようにしましょう。
愛犬からのサインへの応え方
冒頭でも述べた通り、飼い主さんにある方法でコミュニケーションを図っても、それでは気持ちが伝わらないと判断すると、犬は別の手段を探します。前足でちょいちょいと触れるのは比較的直接的なサインなので、気付いてくれる飼い主さんも多いと思います。
しかしあまりにも忙しくて無視してしまったような場合、次の手段として、気付いてもらえるまで吠え続けるといった手段を選ぶかもしれません。犬の声は意外とよく通るため、集合住宅などでは吠えられると困るという飼い主さんも多いでしょう。
このように、前足で触れるサインを受け入れる方がお互いに気持ちよく過ごせると判断した場合は、これを合図に愛犬の立場で気持ちを考え、期待に応えてあげるようにしましょう。
その際に気をつけたいのは、すべての要求に応えてしまわないことです。子どものしつけと同じで、何でもいうことを聞くとわがままな性格になってしまうということも考慮しましょう。度を越した要求には応えないが不安な気持ちには寄り添うなど、応えられない要求と応えられる要求の基準を、明確に定めることが大切です。
特に食べ物に関しては、注意が必要です。「人間の食べ物は絶対に与えない」「犬用のフードでも食べさせすぎない」などは、最低限守るべきルールとして設定してください。また、不安なときはできる限り速やかに対応するとか、かまってあげる余裕がなくても無視せずに、「今は忙しいのでお仕事が終わったらね」などと一言添えながら、軽く頭を撫でてあげるくらいの反応は示してあげるようにすると良いでしょう。
まとめ
犬が、前足でちょいちょいと飼い主さんの体に触れてくるとき、犬には「注目してほしい」「要求を伝えたい」「持っているものに興味がある」「不安な気持ちを落ち着けてほしい」といったような心理が働いていることが多いです。
前足でちょいちょいとされる行為は、飼い主さんから見てもかわいらしいしぐさですし、大きな声で鳴き続けるといったような、ご近所に迷惑がかかるような問題行動でもありません。できる範囲で、愛犬の気持ちや要求に応えてあげるようにすると良いでしょう。