犬は「飼い主のことを嫌いな人」を見分けられる?
犬は、大好きで信頼している飼い主さんのことをよく観察しています。そして、表情や仕草、行動、声色、呼吸など様々な要素から、飼い主さんのそのときの感情や心理を読み取っていると考えられています。
そして、その能力は飼い主さんだけでなく、周囲にいる人に対しても発揮されることがあります。そのため、飼い主さんに近寄ってきた相手が、どのような感情でいるかを感じ取ります。
飼い主さんのそばにいる相手が、イライラしていたり、敵意や攻撃性を見せていたりすると、犬はそれを敏感に感じ取って警戒心を持つことがあります。それは、自分自身や飼い主さんを守るための本能的な能力で、人間以上に動物の方が敏感に感じ取るのはごく自然なことだと思います。
人から犬への「情動の伝染」に関する研究
「犬が人の感情を読み取ってそれに共感する」ということは、犬を飼っている人なら納得できるのではないでしょうか。
犬と接する機会が多い人は感覚的に理解できるこうした気質について、国内外で様々な研究・調査がおこなわれています。
「人の感情が犬に伝わっているか」ということについて、麻布大学獣医学部・菊水教授をはじめ、奈良先端科学技術大学院大学や熊本大学大学院、名古屋大学大学院の研究員などでつくられた共同グループによって研究がおこなわれました。
研究対象となったのは、犬とその飼い主さんのように「親しい関係」にあるもの同士で、その間で感情(情動)が実際に伝染しているのかということです。
情動には、うれしい・楽しい・悲しい・さみしいといった感情のほか、ストレスや不安も含まれます。動物の情動の変化は自律神経と深く関わっているため、心拍数の変動を検出することで把握できます。
菊水教授らの共同グループによる研究では、犬とその飼い主34ペアそれぞれに心拍系を装着し、その変化を調査しました。
犬から見える位置に飼い主さんが座り、飼い主さんにリラックスしてもらったり、ストレスの原因となるような作業をおこなってもらったりして心拍数の計測と様子の撮影をおこないます。
その結果、13ペアから有益で客観的なデータが得られ、その一部では犬と飼い主それぞれの心拍変動が同様に変化(=同期)していることがわかりました。さらに、短時間だけの同期であれば約半数のペアでその傾向が見られました。
そして、この実験では飼育している期間が長いほど同期しやすいことがわかっています。また、オスに比べてメスの方が同期しやすいという傾向も明らかになりました。
犬の共感能力に関する様々な研究
犬が持つ共感能力については、世界各国でおこなわれています。
オーストリア ウィーン獣医大学の動物行動学者であるルドウィック・フーバー氏を中心とするグループでは、人の顔写真を犬に見せて行動させるという研究をおこないました。その結果、「犬は人間の表情を識別できるだけでなく、各表情の意味も理解している」ということを実証しました。
笑顔に対しては「肯定的な意思」、怒っている顔に対しては「否定的な意思」があると犬は捉えており、それをもとに行動ができるため、犬は人間とのコミュニケーションに長けていると考えられています。
また、ブラジル サンパウロ大学とイギリス リンカーン大学の合同研究チームがおこなった実験では、見知らぬ人や馴染みのない人が見せる表情でも犬は読み取り、自分の意思決定に役立てていることが明らかになりました。
実験では、声を出さずに「うれしい表情」「中立(無表情)」「怒りの表情」をしている人がおやつを持っているとき、犬はそれぞれに対してどのような行動を見せるかを観察します。
その結果「怒りの表情」を見せている人に近づく犬は少なく、犬は人の表情から感情を読み取って、行動にも影響が及んでいるということがわかったのです。
まとめ
犬が人の感情を読み取って理解したり、共感したりするということは、国内外の様々な研究・実験で明らかになっています。
また、多くの飼い主さんが愛犬との過ごす日々の中でそれを実感していることと思います。
犬とよりよいコミュニケーションを取るために、表情や声のトーン、仕草などを上手に使いこなしてみてくださいね。